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6−26 マナーズ侯爵領 (2)

 そういう訳で、マナーズ侯爵領内の行政・商業関係者達が時間を空費している間に、教会側が成すべきことを進めていた。マナーズ侯爵領の周辺の貴族と商人達は、ジンジャー商会とニューサム商会に協力的な者達は利益を得ていたが、そうでない者は取り残されていた。つまり、ジンジャー商会に農作物を買って貰えない領地では、供給が需要を上回る為に物価が上がらなかった。そういう貴族と貴族領の商人達は、当然貧しい暮らしになっていた。売上げが上がらない以上、利益は上がらない。逆に領地外から入って来る道具などはマナーズ侯爵領より高価に売りつけられていた。そうしてジンジャー商会は商売敵や融通が利かない貴族を叩きのめしていた。


 ここで、これらの貴族・商会に教会から話があった。

「教会としては、マナーズ領から流出してくる難民の救済の為に炊き出しを行いたいと思います。その為の農作物の買い取りを行いたいのです。もちろん、色を付けて」

当然、領地内の農作物を領地内で消費するには限界があり、それ故農作物の売価は上がらなかったが、ここで新たな需要と領地外からの資金の流入があれば、もちろん売価が上がり利益が上がる。大喜びで貴族も商人も協力した。

「そういう事でしたら、教会のお慈悲溢れる行動に協力出来るのは信者としても本望です。ただ、急に需要が増えると売価が上がってしまうので、そこはご容赦頂きたい」

「ええ、ご協力頂けるのであれば、こちらとしても正当な対価を払うのは当然です」

こうして、マナーズ侯爵領周辺の非ジンジャー商会系の貴族領とその商会達の持つ食料はあらかた教会が押さえた。


 一方、ジンジャー商会に協力的な貴族や商会は、反乱に備えたジンジャー商会の買い付けに協力していた為、それぞれの領地を養う以上の物資の余力は無かった。これを商機と見たジンジャー商会系の商家もこれまで付き合いのない貴族・商会に買い付けを打診したが、遅きに失していた。

「ご協力したいのは山々なのですが、既に教会に協力して供出した後でして、誠に申し訳ない」

普段は利益を独占してお零れすらくれない癖に、困ったときだけ頼られても協力はしたくない。人として常識的に口には出せないが、人情として思ってしまうことはある。

『ざまぁ』

これまで近隣と比べて貧しい領地を嘆いていた貴族・商会達は少しだけ気分を晴らした。


 その頃、王都では臨時貴族議会が開催されていた。前日に反乱貴族側も、クラレンス公爵家もリッチモンド侯爵家も騒ぎを起こさなかった事を受けて、治安が回復したと判断されたのだ。


 貴族議会の議長は当然リッチモンド侯爵で、一応議長席の両側にはオールバンズ公爵家とキャベンディッシュ公爵家の兵が備えていたが、そもそも反乱貴族は全員王都を出ており、ここには出席していなかった。

「ここに臨時の貴族議会を開催する。最初に欠席者についてだが、四家は欠席の申請があった。五家はご存じの通り、当主不在の為に欠席している。続いて十家は王家に自主的な謹慎を申し出ており、欠席となっている。マールバラ公については無断欠席となっている」


「最初の議題については、直近の王都の治安悪化に関しての宰相の報告となる。

宰相、報告をお願いする」

演台に上がった宰相は現状報告を行った。

「まず、前回の臨時貴族議会の秩序を乱した者達について、王城へ侵入する暴挙に出たが、これは四公爵家の協力により排除した。近衛第二大隊と第三大隊の大隊長以下がこれに協力したが、両大隊の大隊長はこの時に死亡、一部は王城外に逃亡したが、残った者は投降したか死亡した。よって、近衛騎士団内の秩序は回復している。ただし兵力が減っている分は、今年度中は五公爵家の協力を仰ぐ事になる」


「続いて反乱貴族については、先程述べた通り、五家は当主が死亡、十家が自主謹慎して沙汰を待っている。マールバラ公のみ連絡待ちとなる。また、これを支援していたと思われるニューサム商会については本拠地の捜索により裏帳簿と人身売買帳簿が見つかり、全国的に調査をする予定である。裏帳簿による賄賂の額が多すぎる為、出資者であるジンジャー商会のサミュエル会長に対してクラレンス家が捜査に向かったが、抵抗した為に斬り捨てられた。ジンジャー商会についても今朝から王都の事務所に捜索が入っている」

マナーズ侯爵としては知らない話題ばかりだった。こうなるとジンジャー商会ともニューサム商会とも距離を置く必要がある。その他の貴族達は、サミュエルの斬死の光景を想像した。大人しくお縄につかなかったから、あっさり斬られたのだろうな、と。彼が馬賊出身である事を知らない者達はむしろ、相変わらずのクラレンス家の乱暴に眉を顰めた。


「続いて報告がある。マールバラ公爵家の本城にて連続して落雷があり、尖塔が倒壊した。反乱貴族達が王城に侵入した日の晩である。そしてもう一つ、マナーズ侯爵領にて商業地帯に落雷があり、ほぼ全焼したとの事だ。大司教デイビー・クラレンスから申し入れがあり、マナーズ侯爵領近辺で教会が難民救済の活動を行う。この食料供給には王家も資金を提供している」

これにはマナーズ侯爵が思わず声を上げた。

「議長!発言をお許し頂きたい!」

議長であるリッチモンド候は答えた。

「ああ、貴公の領地の事だからな。宰相に対する質問なら許可する」

「ありがとうございます。宰相、当方には連絡が無い。どういう事か!?」

「そうか?目ざとい耳ざとい侯爵の事だから、こちらから連絡せずともご存じかと思ったが。商業地帯で落雷による火災が発生したが、平民街には延焼せずに鎮火したと聞いている。ただし、商業地帯で小麦が焼けるなり濡れるなりした為、現地では食料供給に問題が発生していると聞く。侯爵家の備蓄を放出するなりして問題を収める様努力される事を期待する」

宰相が殊更冷たく言っているのは、ジンジャー商会とニューサム商会が問題を起こして、昵懇としているマナーズ侯爵が何も聞いていないとは思っていないからだ。もちろん、殆どの貴族が反乱には裏でマナーズ侯爵も関与しているのではないか、と不審に思っていた。

「詳細な情報の提供を要求する!我が領の事を何故私に伝えないのだ!?」

「それは失礼。だが、当方も今回の反乱で早馬網が正常に運営出来ていなくてね。逆に教会からの情報を待っているところなのだよ」

これも当て擦りであると誰もが察したが、一方で宰相や王家、クラレンス公爵家はマナーズ侯爵が反乱を主導したとは思っていなかった。彼はジンジャー商会のサミュエルに踊らされていた役者の一人に過ぎないと思っていた。今回の反乱でマナーズ侯爵は表に出なかったが故に出世する要素は無く、これまで通り、サミュエル会長に金を握らされて反乱をも見逃していただけだろうと思っていた。

 暴力主義も拝金主義も、結局自分の利益しか考えずに行動する訳ですが、当然恨みは買う訳です。「やがてローマもこうなる」そう思えない人が沢山いますね。

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