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6−24 祈りの後

 ほんのりと大講堂の一部が光る気配があった。キアラが祈りを終え、ハンカチで涙を拭く気配で皆が目を開いた。


 大司教デイビー・クラレンスは口を開いた。

「皆様の真摯なお祈り、主もきっとお耳を傾けてくださったと思います。それでは殿下、女性方のお送りをお願いできますか?」

「ああ、もちろんだ。大司教にはお時間を頂き感謝する」

「主と真摯に向き合う敬虔なる信者の皆様に時間を割くのは光栄な事ですよ」


 大講堂を後にする三人に続く修道騎士達は、三人の最後尾を歩く少女の真摯な表情に身を引き締めた。太陽に向かう向日葵の表情で、太陽の表情を読み取ったのだ。王家の馬車に乗り込もうとするキアラに対し、修道騎士の一人が思わず声をかけた。

「あの、主の試練は時に厳しいものと思われますが、主は我々を見守ってくださっています。その事をお忘れなく、御身を大切にしてください」

キアラからすれば主は決して優しく見守っている訳ではないのだが、そう言葉をかけてくれる修道騎士は、蝙蝠先輩達の様にキアラの同士に見えた。だからキアラは薄く微笑んで言った。

「ありがとうございます。皆様もお体にはお気をつけて、いざという時に主と人々の為にお力添え頂きますよう、お願いします」

それを聞いた修道騎士のみならず、司教達までもぱっと明るい顔になった。それを見てキアラの心も温まった。


 理想を信じる人もいるのだ。人間の闇だけ見て悲観していてはいけない。これはこれで、主の気遣いが回り回ってキアラに向いたのだ。


 安易に他人に頼ってはいけない。甘い言葉をかけてくるのは普通は詐欺師だ。貧農の家に声をかけたのは女を食い物にする悪魔の使い達だった。それでもそれは一部の人達で、それとは別に同じ方向に進んで行こうと思ってくれる人はいるのだ。誰かを頼って後ろを歩いていれば地獄に連れていかれるかもしれないが、自分が先頭に立って走って行けば少なくとも自責の失敗になる。頑張って自分の判断で進んで行こう、とキアラは思い直した。


 大講堂を出る時は少し俯いていたキアラが修道騎士の言葉で上向いた事はランバートにとってもアグネスにとっても嬉しい事だった。二人共、キアラの背負った使命を肩代わりする事など出来ないと分かっていたんだ。


 アシュリー伯爵家で降車する前に、聖女アグネスはキアラに話しかけた。

「あの、キアラ…間もなく王都も平穏を取り戻すでしょうから、そうしたらお話しましょう。私に出来る事は限られていますが、一緒に悩む事は出来ます」

その言葉を聞いてキアラはにっこり微笑んだ。アグネスはとても良い娘だ。犠牲にしてはいけない。そして、この娘を心配させてはいけない。

「ええ。もう少ししたら、沢山話しましょう」

キアラの言葉に明るさを感じたアグネスの顔も明るくなった。


 そうしてアグネスが降車して、代わりに馬車の室外に立っていた女騎士が室内に入って来た。そういう訳でランバートとキアラは二人っきりではなかったが、ランバートは気にせず話し出した。

「キアラ、俺達の道程はまだまだ続く。農家の貧困をまず何とかしなければいけないし、その手段として工場労働を提供しようとしても、ポートランド伯やジンジャー商会の様にそれを餌に女達を食い物にする詐欺師どもは絶えないだろう。だから、もっと多くの人に指導を仰ごう。商売に詳しい教師、工業に詳しい教師、そして法律に詳しい教師を呼んで、色々相談しよう。俺も共に学ぶから、そうすればお前一人が悩まずに済む」

キアラとしては、ランバートは気持ち的には味方をしてくれるとしても、ここまで積極的に問題解決に取り組んでくれるとは思わなかった。だからとりあえず茶化してしまった。

「殿下、ようやく自覚されたのですね…我等群臣、殿下の覚醒に歓喜の涙にむせんでおります」

ランバートはがくん、と項垂れた。

「真面目に話してるんだ、茶化さないでくれ。お前に茶化されると三倍きつい」

何で三倍なんだよ、平民だからか?おまけに女性だからか?とキアラは少しムッとしたが、考えてみれば自分が悪い。

「ああ、悪い。いきなり一足飛びに一緒に教師の話を聞こうなんて言い出したからびっくりしたんだよ。そうだね、あんたは王子として色々教育を受けているんだから、教師に質問する前にあんたに相談してチェックして貰えれば、的外れかどうかは教えて貰えるから、心強いよ」

それを聞いたランバートの顔も明るくなった。


うん、あんた、ちょろくないか?アグネスと私は女同士だからある程度心を許しても問題ないが、あんたは王子だろう?もうちょっと女は警戒しないといけないだろう?まあ私が言うのも大きなお世話だろうから口には出さないけどさ。


馬車は王城に戻って行った。

「今日一日、王都の様子を見ようと思っている。反乱貴族達はクラレンス家とリッチモンド家を恐れて王都を離れたが、そう見せかけて逆襲に出たり、無差別に破壊活動をするかもしれない。一晩何もなければ、フォーウッド家に戻っても問題ないだろう」

「済まないね、心配かけて。暴れた挙句に倒れたりしてるから、野放しに出来ないってのは理解してるよ」

「暴れん坊なのは使命だから仕方が無いが、自分をもっと大切にしてくれよな」

「はいはい」

 推敲する時間がありませんでした。日本語がおかしく感じる方がいたら申し訳ありません。明日も更新する予定です。

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