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6−23 祈り

 国内での早馬制度が反乱貴族領で寸断されて連絡に時間がかかっている中、マールバラ公爵領、マナーズ侯爵領でそれぞれ『神鳴り』が起きた事は教会関係者としては一刻も早く大聖堂に伝えなければならない事であり、信者が夜通し歩いて隣町に伝え、そこから修道騎士が馬を飛ばし、町毎に騎士と馬を変えて王都まで伝えた。それを聞いた大司教デイビー・クラレンスは父親に情報と神意を伝えた。

「なら、優先すべき仕事をせよ」

とブラッドフォードは言って、二夜目の襲撃参加は免除された。翌早朝に王都を発した修道騎士は、最速でマールバラ領とマナーズ領に馬を急がせた。


 朝一番に王家からキアラと聖女アグネス、そしてランバート王子が祈りを捧げにやって来ると連絡があり、大司教もその他の関係者も急いで正門から大講堂までを綺麗にした。敬虔な信者が開門前から並んでいる前で、王家の馬車が正門から入って行った。開門後だと混乱が起きる可能性があるから、開門前に入る事を大聖堂から打診してあったのだ。


 大聖堂の正面玄関に乗りつけた王家の馬車からまずランバートが降り立った。そして聖女アグネスの降車を手を差し伸べて手伝った。続いてキアラの降車も手伝った。王子が最初に降りて、二人の教会関係者(と公表しているのはアグネスだけだが)の降車を手伝う事で、王家が神を尊重している事を示す行動だった。もっとも、二人の清らかなる女性のエスコートをする事を楽しみにしていた教会関係者には横目で睨まれた。所詮、教会は男社会である。もちろん、ランバートは全く気にしていなかった。今、彼が気にかけているのは一人の事だけである。


 司教が先導し、ランバート王子が先に立ち、聖女アグネス、そして公式には無役のキアラが続き、その後ろを修道騎士が守っていた。今回は王子がいるから妥当な列ではあったが、徳を積んだ司教や修行を積んだ修道騎士達にとっては意味が違う。最も守るべき存在の後ろを厳重に守っているのだ。分厚いカーペットが敷かれた通路を一行は進み、大講堂の前では大司教デイビー・クラレンスが待っていた。

「殿下並びにご一同様のお出でをお待ちしておりました。さあ、お入りください」


 大講堂の前の壁には巨大なカーテンの様な布が垂れ下がっており、黄色い太陽の下に緑で描かれた大地があり、その間は水色であり、それは空を示していた。その前に両手を広げた救世主像が置いてある。対面して大司教、ランバート王子、聖女アグネス、そしてキアラが並んだ。主の前では大司教も王子も横並びで地位など関係ないという事だった。大司教デイビーは口を開いた。

「皆様に対してお説教などは不要と思います。思いのままに主にお祈りを捧げてください」


 大司教は両手を結んで心の中で愚痴た。

(主よ、御使いなど遣わさなくても分かっております。私の分はしっかり働きますから。こう見えても指示されるのには慣れております。背徳貴族にはしっかり罰を与えますとも)


 ランバートの祈りはもちろん、キアラの事だ。

(神よ、あなたの僕たる王家の一員として、この度の不手際は心の底からお詫びする。だから、哀れな娘に命懸けの試練を与えるのはお止め頂きたい。なんならこのそっ首何時でも捧げて見せるから。今後は民の苦しみは我が苦しみと心がけ決して忘れないから!…ああ、あとあの無邪気な娘が今、神へと不届きな祈りを捧げているかもしれないが、その罪もこの身が背負うから、彼女に心の安らぎとささやかな幸せをお与え頂きたく)


 聖女アグネスこそ多少不届きな祈りを捧げていた。

(ああ、主よ。この地、この世に私を生まれさせて頂いたご恩、心の底から感謝致します。そうでなければ誰よりも尊い我が愛しのキアラ様に出会う事が無かったのだから!でも、出来ればキアラ様と別の性に生まれさせて貰えればもっと良かったのに!ああ、美少年のキアラ様!もう身も心も捧げただろうに!)


 キアラは、大司教デイビー・クラレンスの闇を再び見た事で、主の意図を察した。

(そう、多分クラレンス家にはクラレンス家の役割がある。でも、今その役割を与えているのは上司の本意ではない、と言うのでしょう?人の世には権力の差がある。財力の差がある。そして暴力の差がある。私達、何も持たない者達は放っておけば次々と殺されてしまう。神意で微力を与えられたとしても、ちゃんと考えていないと、繊維工場の女達の様に売られ、捨てられ、餓死させられる)


(まずこの現実を何とかしないといけない。それは力なき者達がせめて生活出来る財力を得ないといけないと言う事。経済力無き者に政治的影響力は無いのだから。それで何らかの政治的影響力を得たとしても、考えが足りなければイライザの様に、善意持つ人々を権力の犠牲にする事になる。ポートランド伯の横暴、そしてそれと同列の王弟ヴィンセントや背徳貴族達の横暴。そんな権力に立ち向かう、或いは権力の横暴を阻止するルールを作って行かないといけないと言う事。しかも権力を持つ者達にもメリットを持たせないといけない。でないと彼らがそんなルールを飲む訳がない)


(最後に暴力。結局暴力に勝る者が最後には勝つ。自分を守る為には暴力を持たねばならないけど、過ぎた暴力は他人から命も財産も奪う道具になる。今回の事件で分かる様に、結局財力で養われた暴力が最後にケリを付ける。ジンジャー商会がもっと財力を蓄え、反乱貴族達を養えていたら、全てが港湾都市の事件の前に戻っていた筈…イライザの死が権威権力に対する私達の無力を教えた様に、グラハムの死が私に教えてくれる。例え暴力を持ったとしても、権力や財力やもっと多数の暴力を持つ者の前では無力だと言う事)


(私達は誰かの無法で何もかもを奪われる危機に晒されている。やはり、全ての無法を察知し、これを抑えるルールを考えないといけないのではないか。そうでないと、人が死ぬ度に泣く事以外出来ない、そんな事を繰り返すだけだ…)


 一同は全ての人が祈りを終える気配を待っていたが、端に立つ少女が嗚咽を漏らすのを聞いて凍り付いた。今回の事件はもう終わりに近づいていると三人とも思っていたのだ。ところが使命を持つ少女にとってはまだ終わりなど遥か先である、それを三人は知った。


 もちろん、キアラは使命が続く困難さに泣いた訳ではない。イライザもグラハムもキアラが目覚める為の生贄だった。それに次ぐ生贄はもちろんアグネスであり、そして自分が力足らずであれば、次の使命を持つ者を目覚めさせる為の生贄に自分がなる。お前がまだ力が足りないから犠牲が生まれ、それでも足りないから神が直接手を下す事すら必用になった。神鳴りも蝙蝠による根性注入も、全てキアラの未熟を示している、それが神の言葉なき言葉だった。もちろん、アグネスを死なせたくない。一方、自分が生贄になるのは良い。でも、この辛い仕事を誰かに任せないといけないかもしれない。その誰かの苦衷を思ってキアラは泣いた。

 もうちょっと読みやすい書き方を考えないといけないな、とは思っています。考えている事を文字にするのは難しいですね。明日の更新は文字少なめになるかもしれません。

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