表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
72/96

6−13 反乱 (7)

 ヴィンセントの前衛をしていた近衛第三大隊の副官は、ここで隊が分裂すると自分達の政治力が低下する為、ヴィンセント達の殿を務めるべく命令を下した。

「後方を警戒しながら退却する!偶数隊は反転、奇数隊はそのまま警戒!」

ところが過半数の者が武器を置いて前方の騎士達に降伏の意を示した。

「我々は中隊長以上の指揮に従ったに過ぎない!叛意は無いから降伏する!」

隣の小隊が降伏の意を示すとその両側の小隊もこれに倣った。第二・第三大隊は中隊長以上しか買収されていなかった為、小隊単位では全くヴィンセント側に従う気が無かった。中には買収された筈の中隊長も降伏し出した。今更降伏出来ない副長と、実家が反乱貴族と深い関係にある中隊長だけがヴィンセントの後を追った。


 一方、近衛第二大隊の反乱はとっくに鎮圧されていた。同様に小隊単位で降伏が相次いだんだ。


 マールバラ公爵家のタウンハウスでは立哨の騎士が立っていなかった。兵が通用門を叩くと、侍従が出てきて、下男が正門を開けた。一同は怪訝に思いながら、とりあえず館の正門に向かった。館の正門でも出迎えは家宰と少数の侍従と侍女だけが出迎え、兵の出迎えが無かった。


 だからヴィンセントは家宰に尋ねた。

「他の者はどうした?」

「メイド達でしたらお客様への軽食の準備を手伝っております。ジャージー家と兵達はお察しの通りです。」

家宰は平然と答えた。つまり、マールバラ家としてはタウンハウスの維持はするが、反乱の片棒は担がないと行動で示したのだ。あからさまに答えないところは主人の体面を保つ様に気を使ったとも言える。


 仕方なくヴィンセントは必用な情報を得ようとした。

「ニューサム商会への繋ぎはどうした?」

「ゲイリーなら本日、王都外に外出中との事です」

ヴィンセントは表面上の事象については察しの良い男である。ゲイリーは反乱失敗に備えて逃げたのだ。反乱が成功していれば、補給物資の点検に行ったとでも言い訳をするだろうが。


 会議室で茶で喉を潤す間に、ヴィンセントも反乱貴族達も未練の念が強まって来た。

「ここまで来た以上、簡単には引き下がれません!一戦交えて我が方の戦意を示しましょう!」

この中では爵位が高い伯爵であるノーマン・ハットンは威勢の言い言葉を発した。こうなると他の者も弱気である事を示しにくくなる。

「うむ、朝から兵を出している王家側も夕方には疲れが出る!夜襲に出るべきだ!」

「我が方の王に対する不満を示すのだ!そして要求を呑ませるのだ!」

ヴィンセントとしてはブラッドフォードの策に嵌った不覚が心を侵食していた。

もうこの一派は皆、王家の反乱を企てた者達として処分対象なのだ。リッチモンド候が登城する警護の乱れを利用して王城に侵入したが、ブラッドフォードとしてはそれは誘いだった筈だ。そして王城に不法侵入した一派をリッチモンド候に目撃させる。だからここから王家がこの一派を滅ぼすのは冤罪では無く、目撃者のある反乱に対する正当な処分なのだ。ここから攻城に向かう事も読まれている筈だが、それでも座して死を待つよりは攻めに出たい、それが人情だった。

「夜間に王城を攻める!各家が兵を出し、二百人を集めよ!」

ヴィンセントの言葉に一同は動揺した。

「二百では無理なのでは…」

「二百だから出来る事がある」

そう言ってヴィンセントは王城の隠し通路を示した。王都の外壁に囲まれた中にある王城はそこまで防御を重視しておらず、堀が無かった。その代わりにいくつかの隠し通路があった。かつて王子だったヴィンセントはそのうちいくつかを知っているのだ。そんな王族の機密を簡単にばらすヴィンセントはやはり浅はかな男だった。


 一方、王都から外に出ていたニューサム商会のゲイリー会長だが、当然ブラッディ・ブラッドフォード・クラレンスに見落としは無く、王に依頼して隠密を追跡に付けていた。


 三人の隠密で交代しながら追跡を続けていたが、ゲイリーも裏の仕事に手慣れた男である、追跡の気配を察して人気の無い方向に移動していた。王都西の山の中腹では、更に従者を置いて小用と称して馬車を離れた。そこで木を背にして左右を確認しながら進んだが、近くで木の枝が折れる音がした。そちらに目をやりながら背にした木を回って逃げようとしたところで、剣を抜いた男が目の前に現れた。

「ちぃっ」

ゲイリーの手にした杖が仕込みの細剣になっており、それを抜いたところで後ろから殴られた。

「追跡者を気にし過ぎだな」

そう、隠密達はこの待ち伏せの地にゲイリーを追い込んだのだ。口に布を突っ込まれて自殺も出来ない様にした後、縄でぐるぐる巻きにされてゲイリーは第二騎士団(注:非近衛の第二騎士団は王都外の国内担当)により王都へ戻された。貴族の逮捕は証拠が必用だが、平民ならいくら金持ちでも疑いだけで逮捕が出来た。何せ王への反乱容疑である。


 一方、ニューサム商会の本拠地はスカーボロ伯爵の領地の中にあった。領地境の検問所に第二騎士団の連絡員がやって来て、いきなりスカーボロ伯に対する王からの叱責文を読みだした。

「スカーボロ伯はニューサム商会会長ゲイリーからの賄賂を受けてその指導を怠り、王家に対する反逆を許した。我が部隊はニューサム商会の立ち入り調査を行う為、貴領内へ移動するが、これを阻害する者は王家への反乱に加担する者とする」

そう言われても検問所の兵は伯爵に連絡せざるを得ず、第二騎士団の連絡員と共に領主館に移動した。


 その間に第二騎士団の指揮の下、ハワード公爵家の兵も大挙して侵入した。まず騎兵が侵入してニューサム商会関係各所の出入口を封鎖し、その間に本隊が移動して各所を鎮圧して行った。とはいえ、ニューサム商会の本店には流石に切れ者の部下が会長の留守を守っていた。

「急いで機密書類を処分せよ!」

裏仕事中心の部下と共に地下事務所に足を踏み入れ、次々と書類を持ち出し、ゴミの焼却処分場に運び出した。ところが火を点ける前に、下男が集まって来て書類処分を行おうとしていた者達を次々と短弓で射倒した。矢じりには痺れ薬が塗られていたのだ。

「ぐっ、何をする!?」

この本店の留守担当の者が苦しみながら声に出したが、下男達はにこりともせずに告げた。

「ハワード家の者だ。王家からの指示で機密書類の押収の為に潜入していたのだ」

ハワード公爵家は第二王子ハロルドの婿入りを辞退してから王家とは距離を置いていたが、別に王に隔意がある訳では無い。そして、次代の王弟が婿入りする予定だった家なのだから、表の兵と裏の諜報の能力を持っていた。

クラレンス公爵家からの指示をキャベンディッシュ公爵家が仲介したおかげで支障なくハワード家が動けていた。六つある公爵家の中でも毒の強いクラレンス家とは距離を置きたい家もあるのだ。


 こうしてニューサム商会の最新の裏帳簿も押収された。

 ゲイリーさんが死なずに済んで良かったですね。まあ口は割らないと思いますが、だから証拠を集めに行った訳です。明日も更新します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ