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1−7 襲撃 (2)

 側頭部に石を当てられた男は振り向いて叫んだ。

「痛え!誰だ!?」

小走りに若い騎士の男の横を通って真ん中の二人に近づく。

「ハイ!お困りの様ですが、大銅貨二枚で四人片づけましょうか?」

「お願い!」

女性はノータイムで応えた。うん、現状をよく分かっていらっしゃる。

「手前!チビが粋がってんじゃねぇぞ!」

下っ端が声を上げるが、そんな暇があったら一人二人倒せるだろうに。手近な一人の左にステップして近づき、左わき腹を強打する。もちろん、風魔法で拳の前に空気の固まりを作っておく。そうすると身構えるタイミングを間違えるから、そいつは10ft吹き飛んだ。

「ぐげぇっ」

汚いな、口から吐いたよだれが宙を舞っている。それを避けてもう一人の片手剣を持つ右手の肘を強打する。右肘ごと右横腹を叩かれたそいつは倒れて転がって行った。もう一人が剣をふりかぶり、振り下ろそうとするが、もっとスピードを重視した方が良いと思うよ?こちらがスピードで攻めているんだから。その剣を右に避けながら左足で脛を蹴っ飛ばす。

「っがっ」

そいつは叫ぼうとしたが、左わき腹に刺さった私の拳が息を吐く事を許さなかった。そいつは体を折り曲げて前に転がった。


 ここで若い騎士を相手していた二人の内の一人が、私に後ろから切りかかろうとしたが、風魔法の使い手の私には背後でも空気の流れで分かるから無意味だ。右足を軸に左足を踏み出し、横回転しながらその男の右頬を強打した。男は左側に転がって行った。

「味方が情けないと大変だね」

女性に近づいて右手を開く。すると女性がスカートのポケットに入れた手を出して回して、スナップだけで大銅貨二枚を投げる。うん、ちょっと乱暴だよこの人。離れて飛んでくる二枚をちょいちょいとキャッチする。

「退け!」

もう騎士達の対処出来る人数になってしまった以上、マフィアの下っ端達は逃げるしか無かった。


 ここで女性が硬貨を投げて来た。何故か銀貨だ。

「それで質問に答えてくれる?」

…ここは予防線を張っておこうか。

「銀貨一枚なら質問三つだな。答えられない質問は質問一つ浪費だ。考えて尋ねるんだな」

「そうね。何で彼等は私達を襲ったと思う?」

思う、という質問の仕方は良いやり方だ。答えられる範囲で答えれば良いんだから。

「金だな」

「理由も質問に含まれるわ」

ケチ!まあ言うけどさ。

「マフィアの縄張りは夜の街だ。そしてここは昼の街だ。ここで騒ぎを起こすと代官と敵対する事になるから普通はやらない。じゃあ代官とマフィアがグルかと言うと、あんた達の中に騎士がいる以上、代官には話を付けている筈だ。だから、マフィアがあんた達を襲う特別な理由があったとなる。縄張りで無い以上、動くなら金だろ」

修道女のイライザも商店街にはマフィアは来ない、と言っていたからこんなところだろう。

「次、工場の女性労働者の問題は、この街の人間には広く知られているの?」

知らなければ工場労働者あがりの女からは特別にぼったくるなんて事はないだろ?

「ああ、みんな工場を解雇された女達は街娼になると知っている。だから蔑んでぼったくっている」

「人身売買は?」

「知ったら消されるよ」

イライザみたいにね…胸が痛い…

「聖女は人身売買を知っていたと思う?」

「口封じされるところだったのだから知ったんだろうよ」

それは王都の大聖堂で大司教が聖女から聞き取っているだろう。この連中には連絡されていないとなると、情報の対処の仕方に困っているのだろうか?

「最後に一つ、蝙蝠女を知ってる?」

「天の使いを名乗る女、蝙蝠の翼を持ち、雷撃を使うという話だな」

「あなたは直接見た?」

見れる訳ないじゃん。本人だし。工場労働者なら工場から出してもらえなかったから見れる筈も無いし。

「俺が朝から聖堂に通う様な奴に見えるか?」

「誰か見た人を知ってる?」

「それこそ教会関係者と、信心深い裕福な商人なら見たんじゃないのか?」

「なるほどね。参考になったわ。ありがとう」

「どういたしまして。じゃあな」


 踵を返して繁華街に向かう。繁華街の外れの公園から飛び立つつもりだったが、後を付けてくる奴がいる。さっきの五人を影から見ていた奴だ。乱暴な若い騎士、それより手練れの騎士と槍使い。それに隠密か。王都の連中はこの調査で何か重要な情報を得られると思っているのか?メンバーが豪華すぎないか?もっとも代官の館の騎士の隊長らしき男の方が手練れだったけど。


 仕方が無いので繁華街を途中で迂回して商店街に戻る。男物の古着の上下を買う。下がスカートだと蹴りが使えないんだよ。そして裏口から出て隠密を撒こうとするが、足も速ければ目も良いらしい。なかなか振り切れないから、裏道で屋根の上に上がってやりすごす。


 隠密の男が宿場街へ戻って行くのを待って屋根から降りる。顔は見られていなくても、今後は体つきでバレるかもしれない。厄介な事になったかもしれないが。まあ銀貨が手に入ったから、明日はもう少し街娼達に振る舞えるだろう。良い夜だった、と考えよう。

 『蝙蝠の翼』をお読み頂いた方はご存知の通り、工場労働者は工場内でしかお金を手に入れられず、工場内でしか使えないから、銅貨しか使いません。工場内で銀貨を使ったら不審ですから、工場外で使うしかないのです。


 明日も更新します。


 あと、つば九郎の中の人の御冥福をお祈りします。

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