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6−10 反乱 (4)

「いくら興奮して騒いでも、主には響かないよ。私を再び背徳の輩の前に遣わした段階で、主はお怒りなんだ。今すぐにでも頭を丸めて懺悔しないと、どんな神罰が落ちるか分からないよ?」


 そう言っても嘘つきどもはああ言えばこう言うだ。

「お前こそ神など騙って恐れを知らぬのか!」

「そうだ!冤罪を押し付ける神などいない!お前こそ悪魔の使いだろう!」

キアラは溜息をついた。

「大体、逮捕されたのは確たる証拠があるポートランド伯だけで、他の顧客は確証が無ければ逮捕なんかされる理由が無いじゃないか。こうして嫌疑だけで騒ぐのは、やっぱり疚しい事があるからだろ?」

「だから嫌疑だけで逮捕しようとする王を信じられないと言うんだ!」

「嫌疑だけで王と距離があるからと排除されて溜まるか!」


 みんなで大声で喋ればそれが真実になるとでも言うのか、キアラはさすがに腹に据えかねた。

「あんた達は共和主義者か?共和主義者は全て多数決で決めると言う。嘘でも多数派が言い張れば真実になると言う。神をも恐れぬ所業だね…そうか、あんた達は神を信じてないんだね…」

キアラの声は、最後は低くなった。そして、正謁見室にいる全ての人が空気の流れを感じた。部屋の空気がキアラに流れて行っているんだ。それは、空気だったのか、電荷だったのか、それとも無駄死にさせられた千人以上の女達の怨念だったのか…


 人々は空気がぴりぴりするのを感じた。戦列の前に並ぶ男達は、体毛が逆立つのを感じた。空気の異変に何かを感じて言葉の無い者の中で、ヴィンセントはさすがに頭の回転が速い、つまり物事の表面しか見ない男だった。空気を変える必要を感じ、言葉を発した。

「もう良い。出ろ!」

「はっ」

ヴィンセントはその男の顔すら見なかったが、相手は指示を承った。前に出てきたのはグラハム・パーマーだった。ヴィンセントは続けた。

「お前が天の使いなどでは無い事を見せてやる。天の使いがまさか人の刃に倒れる事などあるまい?」


 グラハムはキアラの正面に出て来た。キアラから見て、グラハムに邪心は感じられなかった。一意専心に相手を斬る男だった。そして、その稲妻の様な太刀筋に雷撃は通用しない。電荷を集めるのは見れば分かる作業だ。光を集めるのだから。そんな間抜けな準備をしている内に、グラハムの突きが出るだろう。


 一度敵と対峙すれば、人を斬る以外の邪心は抱かない男だった。その剣に穢れなき事はキアラが一番感じていた。だから思わず口から言葉が零れた。

「ヴィンセントの裏仕事を担うあんたなら、何が嘘か真か分かっているだろうに…」

それに対して、グラハムは答えた。

「嘘も真もどうでも良い事だ。俺は指示された相手を斬るだけだ」

キアラは左拳を肩の高さに、右拳を腰の高さに構えながら言った。

「あくまで犬として生きると言うのか!?」

グラハムも剣を抜きながら答えた。

「飼い犬だからな」


 これを聞いていたリッチモンド侯は違和感を覚えた。『飼い犬』と言う言葉に自嘲を感じたからだが、そう考えれば主人達の発言を『嘘では無い』と否定しないのもおかしかった。


 アルフレッド王は勝敗は気にしていなかった。ただ、ここで少女に試練を与える神の厳しさに気が重くなった。

(あくまで自らの手で未来を手にしろと言うのか)


 ランバートはまた違う事を考えていた。隣に立つマークの腕を軽く叩いて小声で言った。

「勝負が付きそうなら割り込むぞ!」

マークとしては口の端を歪める以外になかった。

(本当に馬鹿だな、こいつ。お前相手にグラハムなら一振りだぞ。そもそも雌雄を決しようとするところに割り込むのも無粋だが…まあ、良い。時間ぐらい稼いでやるよ)


 この達人が犬として生きている事にキアラは奥歯を嚙み締めたが、そんなキアラにグラハムは続けた。

「さあ、我が忠義の剣、出来るものなら打ち砕いて見せよ。お前が天の使いだと言うのならな」

その言葉が三度目の対峙が始まる事を示していた。キアラは左拳を前に伸ばした。左肩の前に。そして左足を前に半歩踏み出し、腰を落とした。


 キアラは追い込まれていた。負けは論外、逃げる事も出来ず、勝つ事しか許されない。

(ここでこの男を倒せなければ、全てが元に戻ってしまう。イライザの死も無駄になり、これからも数千人の貧家出身の女達が虫けらの様に死ぬことになる。そんな事は絶対に許さない!)


 一方、グラハムも追い込まれていた。突き以外にこの天使を殺す手段は無い。いくら薙いでもこん棒を振り回す様なものだ。三十年以上の鍛錬の成果が、神の御業の前では無意味だった。だが、彼は神の導きに感謝した。ここに最強と対する事が出来る。武人としては、最強を知らずに無敗を誇る愚を晒したくなかった。惰性で生き永らえるより戦場で最強を知りたかった。もちろん勝つに越した事はないが。


 前回、叩かれた後にダメージを抱えながら見せた構えを、目の前の天使が万全の状態で見せている…その最強の攻撃を一番近くで見られるのだ。天使を斬る、その決心が正しかった事を今、確信した。例えその決心が神の怒りを買い、神の代行者であるこの天使が自分の命を砕く事になるとしても。

 何気にマークが良い役になってるなぁ…あ、イライザとイザベラを間違えるところだった。投稿前に修正しました。


 明日はクリスティンの更新です。こちらの続きは月曜に。

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