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6−1 新たな目的 (1)

 しばらく木の上をぴょんぴょん飛んで渡る。とりあえずあの軍から見えなくなるまで露骨に飛ぶのはどうだか、と思っていたんだ。

「そろそろ良いかな?」

と声を出して本格的に飛ぶために空気の翼を大き目にする。


 それを見て蝙蝠達は王都方向でなく、北に向かい出した。

「ちょっと待って!東に向かって王都に帰るんじゃないの!?」

そう言うと、その場でくるくる回り始めた蝙蝠達が口を開いていた。ちょっと待て!この状況で何を言いたいのか分かんないよ!?そう思っていると何か蝙蝠達の顔が呆れた顔になっている。まだ分からないのか?そう言いたげだ。え?私何か忘れてる?


 後は王都に戻ってプラント子爵親子の事を報告して、証人が王都に向かっているから迎えを出して欲しいと伝えるんじゃないの?…そうか、ニューサム商会の捜査が必用?え、でもそれってまた帳簿を盗むって事?だって、港湾都市の繊維工場なら犯罪が明確だったし証拠も明らかだから盗み出せたけど、今度は証言だけだし、地の利が無いから何を調べたらいいか分からないよ?


 蝙蝠達の口が少し閉じられた。ようやく分かったか、と言う顔だ。いや、だから今度は関係者じゃないし被害者側の告発じゃないから本当にドロボーだよ!?汝盗むなかれって言ってなかったっけ神様!やっぱり私達の上司は神じゃなくて悪魔なの!?


 蝙蝠達が口をぱくぱくし出した。いいから行くぞ、と言いたげだ。いや、ちょっと今回の悩みは宗教的に重要な気がするんだけど!…蝙蝠には私の苦悩に時間を割くほどの情けは無かった。仕方なくついて行く事にした。


 そういう訳で考える時間が出来た。もちろん、宗教的な戒律を考えても仕方が無い。こちらは上司の指示に従うだけだ。従わないと蝙蝠達に噛みつかれる。だから、考える事は私の風魔法の事だ。


 グラハムの突きには負ける。薙ぎには破られないが固定は出来ない。聖女アグネスの体重と落下速度には負ける。破られないけど。普通の男相手なら多少離れていても固定出来る。自分と近距離から伸ばせば装備を付けた兵の重さにも耐える。そして、そもそも聖魔法で力の集中が分かるレベルの筋力でないと私の風魔法の防御は破る事が出来ない。


 つまり、距離が離れれば防御膜を破られる事がある。聖魔法で検知出来る程の力なら。だから、そういうレベルの相手には距離を開けた防御は悪手だ。自分に接触した状態での魔法防御にした方が良い。但し、その場合は勢いがついた剣を受ける事になる。多分私ごと弾き飛ばされる。…でも、斬り殺されない。そこが重要だとマークも思っている様だ。


 次、私は聖魔法で相手の動きの瞬間が読める。防御膜を破る様な攻撃なら。それを見て回避する能力が私の一番の武器と思っていたが、後手に回るから結局押し切られる可能性がある。でも、アグネスの落下の時、秒以下で判断をする事が出来た。むしろ、その判断力が武器なのではないか?聖魔法で動き始めを感知し、風魔法で距離と速度を判断出来る。それなら、短時間先の未来予測が出来る。その未来予測こそ私の一番の武器なのではないか?グラハムも動きを読まれるのを気にしていた。


 だから、次の対峙では予測に基づいた対処法を考える事が大切なのではないか?もっとも、前回あちらが速度を増して来た様に、また対処法を考えて来るとは思うんだが。


 しばらく飛んだ後、今日の最初の休憩で蝙蝠先輩はこちらを期待する様な目で見ていた。そうだね。朝食抜きだったね。ダン・サーカムが渡してくれた袋には、干し肉とビスケットが入っていた。どちらも保存期間が長かったのか臭い。干し肉を引き裂いて蝙蝠先輩達の前に置くが、臭いを嫌がっている。…どんなグルメな蝙蝠だよ。


 仕方なく、石を並べた中にその辺りに落ちている枯葉と枝を並べ、小さな雷撃を放つ。程よく火が付いたので、その周りの石に干し肉とビスケットを並べる。少し煙が出て干し肉は臭いが変わった。水分と共に何かが抜けたのか?ビスケットのいくつかからは虫が出て来た…数はあるから虫食いビスケットはそのまま火の中に入れ、他のビスケットを並べる。こうして火を通して温めただけで随分風味が変わる。蝙蝠も私も少し醒ましてから食べた。これ、昼もやるのかな…まあ食べてる内に虫が出てきたら嫌な事は確かだ。仕方ない。


 飛びながら別の事を考える。領主が戦をやると決めたら戦になる。理由は何とでも言える。領主の嫡男の家来達は嫡男と一緒になって奴隷の女達を殺そうとした。もちろん嫌々な奴もいるだろうが。


 一方、前線の兵士はそんな領主達に好感を持っていないが、戦自体はやるし、自分が不利益になっても女達を救おうなどとはしない。自分可愛さとして否定も出来るが…要するに権力者がその気になったら、下々の者は従うしか無いんだ。それでも、今回の事は切羽詰まっての戦なのだろう。前回の臨時の貴族議会では不平貴族は多数派では無かったと言う。次の臨時貴族議会の時に、反乱を起こされ鎮圧出来ない無能な王、として退位を迫る後押しをする為の反乱だろう。それにはどのくらい中立の貴族が賛成するか、逆に反感を持つ可能性すらあるギャンブルに見えるんだが。


 こうして飛んでは昼食用に保存食を炙り、飛んでは夕食用に保存食を炙りながら、港湾都市よりは小さいが大きな都市にやって来た。倉庫と厩舎、馬場が複数ある。なるほど馬車隊の本拠地っぽい。しかしまだ明るい内に侵入する事も出来ない。だから、蝙蝠先輩達は木にぶら下がって眠り始めた。私は来るドロボー作業に宗教的葛藤を抱いていたから、寝付きが悪かった。

 

…が、気が付くとまた蝙蝠に蹴られ、蝙蝠の足が右頬に刺さって起こされた。もうちょっと後輩に優しくしてくれないかね先輩方。

 何かの小説で、配給されたビスケットをテーブルの角にぶつけて、その衝撃で虫を外に逃げ出させてから食べる、という表現を見た記憶があるんですね。なので保存食を炙って虫を出す事を考えました。いらない表現かもしれませんが。明日も更新します。

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