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5−14 遠征 (7)

 プラント親子の後には後方監視の二人の兵も出て来た。つまり、プラント親子の前に前衛四人、直掩四人、後方二人。応援を呼んで包囲したいが、その前に中に戻って鍵を閉めちゃうだろうなぁ…そういう訳で、連中が少し進んでから仕掛ける事にする。


「やあ、良い朝だね。背徳貴族が部下を見捨てて逃げるには良い具合かな?」

頃合いを見て、立ち上がって喧嘩を売る事にした。

「貴様、何者だ!?」

「見ての通りの不審者だよ。プラントの坊主は昨日見ただろ?」

お坊ちゃん…と言うよりもう結婚していてもよい年頃の青年が怒り出した。

「貴様、昨日の不埒者か!動きが早いから注意しろ!囲んで殺せ!」


 学習はしている様だが、猿知恵だね。先方の四人は短槍を持って私の四周から迫る。じりじりと近づいて、こちらが動くのを待って背後の奴が刺し殺すつもりだろうが…10ftに近づいたところで、私はぐるりと回転しただけだった。

「ぐぁっ」

「がっ」

「ぎゃあっ」

「な!?」

四人が次次と横倒しになった。そう、空気の翼を広げて薙ぎ倒したんだ。そいつらが立ち上がる前に近づいて次々と横顔を蹴り飛ばす。二人は気絶した様だし、残り二人も腰が抜けて立ち上がれない。


「貴様、何を…」

壮年の男、多分プラント子爵が思わず声を上げた。

「嘘つきには見えない技なのさ」

嘘です。正直者にも見えません。今のを見ていた後衛がプラント親子の直近に付いた。そして直掩の兵の内、二人が前に出た。この兵を含め、残った兵達は片手剣と小型の盾を装備していた。主君をを守るのが主任務だからだ。つまり、この向かってきた二人も守備的な動きになるだろう。


 そして向かってきた二人の兵は、私の両側に分かれてじりじりと近づいてくる。連携して一人を倒す、そういう作戦だ。なら、策は決まる。左手の奴にささっと近づく、するとそいつは後退して、その間に右手の奴が早足で近づいて来る。そんなに勢いを付けたらすぐには止まれないだろ?だから、一瞬だけ右側の空気を押し退けて右に加速する。もちろん、右手の男はサイドステップで距離を取ろうとするが、それは対戦相手が通常の速度で動く場合の動きだ。遅かった。思うところがあって、右手に空気の盾を作ってみる。相手が振って来た右薙ぎの剣をその盾で逸らしてみる。よし、うまく受け流した!その盾を円錐状に形を変えて男の顔を叩く。

「がっ」

ごめん。鼻が折れたね。そして動きが止まった男の鳩尾をその円錐で叩く。悶絶した男は地面に倒れて蹲った。


 そこで左から男が迫って来て剣を振って来た。一瞬だけの高速移動で避け、相手の背後から後頭部を右手の空気の武器でぶんなぐる。男は言葉も無く気絶して倒れた。


 ここで、こちらに展開して隠れていたリッチモンド侯側の兵達が集まって来た。そう、その時間を稼ぎ、連中の気を逸らす目的で暴れていたんだ。

「死にたくなければ降伏しろ」

先程見たこちら方面の指揮官が通告する。プラント子爵は逡巡したが、じりじりと寄って行く兵達を見て決断した。

「貴族としての待遇を要求する。その上で降伏する」

王家から警告が出ていたとは言え、まだ正式に反逆と認められていないから、まだこの親子は貴族扱いなんだ。こちらの兵が笛を鳴らし、散兵が集まって来る。


「よくやってくれた」

指揮官が声をかけて来た。

「まあ、特に奴隷を殺そうとしていたプラントの子供の方は証言が必用だと思うから、自殺しない様に監視してくれ」

「そうだな、お前はどうする?」

「そろそろお役御免だと思うから、正門の方に回ってダン・サーカムにお伺いを立ててみるよ」

「それが良い。こちらはこちらの仕事をやるから、任せてくれ」

「ああ、任せたよ」


 もう日が昇っている。露骨に飛ぶのもどうかと思ったので、木々を飛び移る様に見せかけて飛んで行く事にする。多分途中で現れた蝙蝠はいなくなっていた。王都から一緒の蝙蝠だけが付いて来る。まあ見た目で区別が付かないから、多分、そうだろうという事だけど。


 そうして正門側に辿り着いたので、普通に歩く事にする。戦闘が終わったとはいえ、戦場だ。不審な動きをすれば気が立っている兵達に殺されかねない。とりあえず指示を出している男に近づく。

「ダン・サーカムに報告したいんだけど、どこにいる?」

「何の報告だ!?」

「裏で逃げようとしてたプラント親子が捕縛されたって事」

「そうか!これで完全な勝利となったか。ああ、サーカム参謀ならあっちの天幕だ」


 宿営地よりこっち寄りに張ってある監視用の天幕にいる様だった。天幕の見張りの兵は話を聞いているらしく、中に入れてくれた。

「プラント親子はどうなった?」

「裏の指揮官が捕まえたよ」

「そうか。よく手伝ってくれた。それで、お前はこれからどうするんだ?」

「さっさと帰るよ。仕事はあの奴隷を助けて証言させる事だったんだ」

「分かった。駄賃としては何だが、保存食を少し入れておいた。帰りに食べてくれ」

そう言って袋を渡してくれた。結構重い。

「ありがとさん。助かるよ」

上司が食事の事を全く考えてくれてないからね。


 解放…されるかどうかはこれから決まる事だが、とりあえず奴隷から証人扱いとなった女性達に声をかけていく。

「先に王都に行って報告しておくから、王家からの連絡があれば待遇も良くなると思う。だから、少し我慢して」

「ううん。嫌な事もしなくてよくて、明日もとりあえず生きていられるなら上等だよ」

「ありがとう。いつか出来れば恩は返すから」

「無理しないで良いよ。縁があったらお茶でも一緒に飲もう」

 ここで5章は完了とし、月曜から6章となります。明日はクリスティンの更新です。

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