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5−11 遠征 (4)

 呼び出されて来た男は、リッチモンド侯爵が派遣した参謀と名乗った。

「ダン・サーカムだ。何故ここに女性奴隷がいると分かった?」

「その…実は主の思し召しなんだ。見て分かると思うけど、私はこういう者なんだよ」

右手に黒蝙蝠が溶け込むイメージを浮かべる。すると背中から蝙蝠の翼が生える。兵達に向けて羽ばたき、風を送ると、うぉぉ、と兵達が声を上げる。

「自称、天の使いの蝙蝠女という訳か。ランバート殿下は知っていると?」

「国王陛下も私の正体は知っているよ」

「分かった。半分信じる」

「そのくらいが用心深くて良いと思うよ」

「それで、こちらへの要求は女性奴隷の保護と王都への護送と言う事で良いか?」

「ああ、ニューサム商会の名前が出ている。その証言は必用な筈だ」

「要請は聞くが、交換条件がある。ここの城攻めを手伝って欲しい」

ああ、貴族ってのはこういう人種だ。無料では働かない。王家に寄与するとしても、命令が無いんだからね。

「…大した事は出来ないよ」

「無い橋を作ったと聞く。それだけやって貰えれば良い」

一度やった事を聞いて、すぐそれを利用する事を考える。若い頭でないとこうはいかないだろう。そうして手伝わせて、味方かどうか確認するという目的もある。だから、断れない。

「分かった。どれだけ橋をかけていれば良い?」

「正門の跳ね橋を降ろすまでで良い」

「それ凄く時間がかかるよね?」

「まあ、努力はする」

「そういう特殊作戦は、夜明け前にやるもんだと聞いたけど?」

「そうだな。お前も休憩が必用か?」

「朝からビスケット一枚しか食べてない。もう少しマシな物を食べて、一休みしたい」

「女達にも出そう。だが、固いぞ」

「水分も貰えれば何とかする」

「じゃあ、一休みしろ」


 そういう訳で軍用の保存食が出てきたが、港湾都市で昼に出た二級品ビスケットを臭くした様なものだった。しばらく保存していたから臭いんだ。奴隷女性達はもっとマシなものを食べていたらしい。柔らかいパンと野菜スープは食べられたんだそうな。そういう訳で四人の女性達は誰も手を付けなかった。だから私が明日の帰りの食事用に貰う事にした。


 私達は女性専用として一つの天幕を使わせてもらった。これまた臭いシーツ一枚ずつを貸してくれたが、少し寒かった。


 まだ暗い内に、蝙蝠の羽ばたき音が聞こえた。起きろよ、仕事だ。と言いたげに音を立てて飛んでいる。先輩、どうせあんた達、荒事は手を貸してくれないんだよね…まあ良い。働こう。どうせ一番に外に出るからと私が天幕の入口の所に寝ていたので、誰も起こさず外に出られた。


 司令部の天幕は出口を砦と逆の方向に開いていた。すこしでも灯りが漏れるのを避けようとしているのだろう。監視の兵に取次を頼む。するとダン・サーカムが話しかけてくる。

「早いな。開始まで時間があるから、簡単な説明をする。我々は王家からの情報で、プラント子爵その他の貴族の反乱を監視していたが、プラント子爵が反乱を起こしたのでリッチモンド候の軍勢を中心に押し戻した。プラント親子と一部の兵がこの砦に逃げたのでこうして攻めているのだが、他の不平貴族の反乱が起こる前に鎮圧したい。そういう訳で、この朝の内にこの砦を攻め落としたいから、それまで協力を頼む」

「まあ、出来る事しか出来ないが、魔力ってのは何時までも続かないから、そこは注意してよね」

「無い橋を作るってのが簡単な事じゃない事だけは分かる。なるべく早期に兵を渡らせる様にはする」

「一人分の幅の橋で手すりを付ける程度ならある程度の時間は持つと思うよ。それで良いかい?」

「兵が装備を背負って渡るから、4ftの幅は欲しい」

「さっきは3ftくらいだったから、まあ出来ると思うよ」

「じゃあ、それで頼む。出来れば向こう側に先に行って、通用門を開けて貰いたい」

「塀を飛び越えて向こう側に行かないと開けられないだろうからね。それはやるよ」

「じゃあ、空が白む前に橋をかけて欲しい」

「水を一杯もらうよ」

「攻撃前に食事を取ると食べたものを戻して酷い事になるから、食事は出せないぞ?」

「見ての通り、食は細い方だから多少食べなくても大丈夫だよ」

「じゃあ、頼む」


 宿営地は砦から雑木林を挟んだところに設置されていた。司令部の天幕から各天幕へ伝令が走り、小声で点呼を始めていた。私は宿営地を離れ、雑木林の途中で空気の翼で飛び上がる。蝙蝠先輩は堀の向こうの砦の中の、昨日利用した通用門近くの木にぶら下がっていた。この砦を攻める事に協力するのは、上司は否定していないらしい。その木の近くに降り立ち、周囲を確認するが、こちらには監視はいない。橋が無い事は二名の犠牲により分かったからだろう。まあ、砦側は堀への出入口くらいあるだろうから助けたと思うが。


 通用門の回転式閂には、今度は二つ錠がかかっていた。一つは昨日付いていた奴だから簡単に外す。もう一つは…解錠のパターンが違うだけで、同じ構造の錠だよ…息を吹きかけて構造を理解し、空気を固定して回転して解錠する。


 通用門を開けて向こう側を見ると、林の中で兵が待っていた。じゃあ、強度を考えていつもより厚めの空気を固定しよう。手すりも作り、手すりに聖魔法を流して薄く光らせる。まだ暗闇の中だから、手すりの光は目立つ筈。その光が見えたらしく、向こう側の兵が小走りに走って来る。こうしてこの日の砦攻めが始まった。

 じゃあ、護送お願いね、で済む程世の中甘くない訳で。明日はクリスティンの更新です。こちらは木曜に更新します。

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