5−8 遠征 (1)
キアラ達は西へ向かっていた。ところが、普通は蝙蝠は住みかに群生しているから、こんなに遠距離を飛ぶ事はないのではなかろうか。だから、体感的に一時間も経たずに蝙蝠先輩達の羽ばたきがへろへろになって来た。やがて、森の中の日の当たる小山の上に辿り着くと、丸くなってしまった。疲れてるんだねぇ…
木々の間とはいえ、春の森の風は冷たい。だからキアラは周囲に見えない空気の天幕を作って自分と蝙蝠先輩達に当たる風を防いだ。日は当たるので、籠った空気は段々温かくなって来た。うん、これは眠い…
キアラはシャツに袖を縫い付けていた。何時までたっても縫い終わらない…それを見ていた同じ班のエイミーがキアラを罵った。
「何遊んでんだよ!班長の癖に!」
いや、だっていつまでも一周しないんだよ。近くにいたケイまで冷たい目で見る。一年目の学生労働者を指導しているサマンサが私を怒鳴りつける。
「班長の癖にどれだけ遅い仕事をしてるんだい!そんなだと明日にでも追い出されるよ!」
でも、私なりに頑張っているんだよ。みんなが死なない様に。隣の班の班長をしているキャシーが工場長を連れて来た。
「工場長、あの人です!サボって全然仕事をしないんです!」
キャシー、やっぱり工場長の回し者だったんだね。しかし、その工場長がよく着ているスーツを着た男は、ランバートの顔をしていた。
「この田舎娘め!お前の様な駄目な奴は爺に売りつけてやる!」
ランバート、あんたまで人身売買に携わっていたのかい…もう怒ったぞ!私の渾身の右パンチを受けてみろ!
しかし私の放つ右パンチにカウンターで蹴りを入れて来た奴がいた。蝙蝠先輩だった。
と、そこで目が覚めた。蝙蝠先輩の足が私の頬に刺さっている。
「酷いよ!何で蹴るの!」
足を私の頬に刺したまま、ひっくり返った蝙蝠先輩の口がぱくぱく動いている。何時まで寝てるんだ!さっさと行くぞ!そう言っている様だ。
えー、誰の為に休んでたと思ってんのさ。とはいえ、向こうが元気になったなら仕方ない。蝙蝠先輩の足を頬から引っこ抜く。痛いけど、聖魔法で治せば一瞬だ。右手で頬に聖魔法を流す。アグネスの聖魔法は甘ったるかったのに、私のはむしろ冷ややかですうっとする。でも効果は一緒の筈だ。そうしていてもぱたぱた羽ばたく蝙蝠先輩が口をぱくぱくする。はいはい、急ぎましょうね。
しばらく飛んでいると、同様にへろへろになった蝙蝠先輩が小山を見つけて丸くなってしまった。一旦外見を蝙蝠女から部屋着に戻る。この服のポケットにこういう時の為のビスケットをとっておいたんだ。それを四つに割ると蝙蝠先輩が口を開いた。あ、食べますか。二匹に一欠片ずつ渡すと、かぎ爪で押さえながら口ですこしずつ削り取って行く。器用だなぁ。こちらは口の中でもぐもぐしながら、柔らかくして少しずつ歯で削って行く。喉乾いたなぁ。
少し離れた所に細い水の流れがある。じっと見ると綺麗そうに見えるが…あれだ、聖魔法だからきっとこれが有効だろう。手で掬った水に聖魔法を流す。薄く光った後は何となく汚れが取れた気がする。口を付けると臭いなどは無いから飲んでみる。うん、冷たい。
そうしていると蝙蝠先輩がへろへろ飛んでくる。飲みます?蝙蝠先輩達は私の指に止まって水に口を何度も突っ込む。ごくごく飲めないんだろうなぁ…
その後、蝙蝠先輩は元の小山に戻る。私も戻って空気の天幕を作り、うとうとして寝入ってしまう。
すると、また蹴られて目が覚めた。夢の続きは見なかった。くそう、夢の中ならいくらランバートを殴っても罪にならないのに。
そうしてもう一回休んだ後、山を越えた後に、夕方までまだ時間があるのに木の陰にぶら下がった蝙蝠先輩は眠ってしまった様だ。仕方がないので日が当たるところを探して自分だけ空気の天幕の中で眠る。
日が暮れた後、山の向こうが少し明るい気がする。気にはなったが蝙蝠先輩の傍を離れられない。暫くすると蝙蝠先輩達も動き出した。どうやら灯りの方に飛んで行く様だ。もう暗くなっているのに、低空飛行で灯りの方に飛んで行く。人目を気にしているのか?灯りがあるんだから人がいるんだろう。
進んで行く先には、少ない家屋と砦が一体になった様な集落があり、塀に囲まれていた。その塀の三面は狭い堀に囲まれ、その堀を挟んでかがり火を焚いた集団がいた。集団は紋章の書かれた旗を何本も立てている。つまり、城攻めをやっているんだ。残念ながら、上位貴族以外の紋章を私は記憶していない。だから、誰対誰の戦か分からない。
私は何をすればいいのだろう。攻撃側の補助なのか、防御側の救援なのか…どうせたった一人増えたところで、大勢に影響なんて無いだろうけどね。
紅のぶーちゃんがやってます。普通に複葉機くらいの速度の飛行機が飛んでるのはハヤオさんが好きそうな絵面ですが。こういうのは映画館で見たほうが楽しそうですね。
明日も更新します。




