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1−5 聞き取り調査 (2)

 聞き取り調査はキアラの番になった。応接室の扉を叩き、一声かけてから扉を開けて中に入った。

「学生労働者1年目のシャツ班班長、キアラです」

女性が声をかけた。

「その線の後ろまで進みなさい」

「はい」

応接室の床には聞き取り調査の位置決めなのか、線が一本引かれていた。そこまで数歩歩く内に、机の向こうに座っていた若い騎士服の男が立ち上がり、つかつかとキアラに向かって歩いて来た。その右手に鞘に入ったままの両手剣を持っていた。あと一歩というところで男は両手で剣を握った。そして、踏み込みながら剣を右薙ぎに払った。キアラの右腕から胴体を強く叩いた剣は、キアラを横に薙ぎ倒した。ごろんと転がったキアラは、体を折って呻いていた。


「何やってるの!」

女性と中年男が倒れたままのキアラに走り寄った。騎士服の男の前にはもう一人の騎士服と、兵隊らしき男が立ちはだかって追撃を阻止した。呻き声しか上げられないキアラの右腹に中年男が両手を当てて、小さな声で少し長い呪文を唱えた。中年男の両手は仄かに光り、それが聖魔法の呪文である事を示した。そして今度はキアラの右腕に両手を当てて、同じ呪文を唱えた。涙で濡れた顔を歪め呻き続けるキアラに、中年男は兵隊らしき男に伝えた。

「ダリル!担架だ!救護室の準備をさせろ!」

男は担架を持った二人の男を連れて来て、そのままキアラは救護室に連れていかれた。


「殺すつもり!?能力の確認の為に、寸止めで済ます手筈だったでしょ!」

コーデリアは若い男を詰問した。

「あいつ、最後まで俺の剣を見続けていたんだぞ!手加減したらどんな反撃をされたと思ってるんだ!?」

「だから、一撃で殺すつもりだったと?調査もせずに?」

男は反論出来なかった。今回の任務は調査と疑わしい人間の王都への移送だった。

「だけど、死んでないじゃないか!」

悔し紛れに言い訳をしたが、それに対して中年男、エイブが口を開いた。

「私では重傷を治せないんだ。あの勢いで倒れたら、頭を強打して死んでいたかもしれない」

女性が止めを刺した。

「死んでたわ。彼女が魔法を使わなければ」

もう一人の騎士服の男、ジムが口を開いた。

「確かなのか?」

「打撃の直前に、何らかの魔法を打撃点付近に使ったし、地面に叩きつけられる直前にも魔法を使ったわ。何の魔法かは分からないけど」

「やっぱり異能使いなんじゃないか!」

若い騎士服の男は口にしたが。

「それが分かったのは意味があったけど、もう私達は敵と認定されたでしょうね。逃げられるか、場合によっては口封じに皆殺しにされるかもしれないわよ?彼女が蝙蝠女だったら、雷撃を使えば五人なんて一撃でしょうよ」

若い騎士服の男はぐっ、と黙るしかなかった。もう一人の騎士、ジムが口を開いた。

「彼女が蝙蝠女だと思うのか?」

「実用的な異能使いなんて国中で十人位しかいないのよ?この港湾都市だけで二人も隠れているのは存在確率的におかしいでしょ」

エイブが口を開いた。

「そもそも、その時この港湾都市に聖女と蝙蝠女という二人の異能使いがいたんだ。それが主のご意思なら、三人位居てもおかしくないが」

若い騎士服の男は口を開いた。顔を歪めながら。

「俺達は宗教人じゃない。宗教の政治に対する影響力は軽視しないが、神の存在自体は信じない。史実として神が現実に関与した歴史が存在しないからだ」

コーデリアが意地になって発言している男を諫めた。

「立場のある者が感情的に神を批判するものじゃないわ。お城の教師はあなたがそんな風に感情的に話すのを許す様な教育をしたのかしら?」

男は唇を噛みしめるしか無かった。自分が感情的になっているのを自覚もしているし、抑えられない未熟さも自覚しているのだから。


 救護室に連れていかれたキアラは、薬草をすり潰した湿布薬をぬられ、手ぬぐいを腹に巻かれてベッドに寝かされていた。

(あの馬鹿、何様!?鞘に入っているとは言え両手剣で思いっきり薙ぎ倒すなんて、何もしなければ死んでいたじゃない!)

キアラとしては例え折檻されても無抵抗でいる予定だったが、どう見ても本気で殺す勢いで振られた剣を見て、咄嗟に二層の空気膜を作って防御した。そうして打撃を緩和したから腕もあばら骨も折れなかった。

着地の時も二層の空気膜を作って衝撃を緩和したが、両腕も痺れてろくに動かないし、右腹も左腰も痛くて仕方なかった。

(王都から派遣された調査官があれなんだから、やっぱり王都の人間から見ても、女性労働者なんて虫けら扱いなのか)

王家がこの都市の現状を知れば何か改善してくれるのではないか、という微かな期待は霧散した。

(大体、あのおっさんの聖魔法、全然効いてないよ。もうちょっと何とかしてよ)

そう思いながら、体の痛む場所は自分で全部治した。そのまま夕方まで救護室のベッドでうつらうつらしていたが、夕飯の時間には解放されて食事をして部屋に戻っていった。

 とりあえずあらすじ内容の一点は回収しました。明日も更新します。

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