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5−4 急行

 蝙蝠は全力で羽ばたいていたが、気が急くキアラからすれば遅かった。

「ごめん、先に行く!」

目標は明らかだ。王都上空からなら聖魔法の光が良く見える。


 王都の外壁を越えた後、斜めに上昇して行く。もう人目を気にする必要が無いから、上昇して下降した方が速度が出る。翼を横に広げて必死に羽ばたく。ぐぅ、魔法の翼の癖に必死に羽ばたくと汗が出る。何でだよ。


 移動する聖魔法の光点より上空に出る。もっと上に上がって、光点に近づかないとどういう状態だか分からない。ぱたぱたと二匹の蝙蝠が飛んで来て先導する。どうやらアグネスは山中の道を行く馬車に乗せられている様だ。馬車の前には四騎、後ろに八騎が守っている。この人数相手に、木々が鬱蒼とした林の中で格闘するのは難しい。せめて上が開けたところで仕掛けたい。そう考えていると馬車の進行方向である西の上空に蝙蝠が二匹羽ばたいている。


 道が崖の横を通るところがあり、そこなら賊達は山側と道側にしか展開出来ない。そこで仕掛けるか。


 しかし次々蝙蝠を投入する上司も必死だ。再び聖女に手を出す人間にお怒りなのだろうか。上手く助けられなかったらカミナリが落ちそうだ。でも、絶対助けるから安心して!もうこの世に一人しかいない、私達工場労働者を気遣ってくれる私達の聖女なんだ!


 さて、仕掛けるにしても準備が必用だ。月は西側に出ている。連中が崖に近づいたところでこちらが月に隠れる様に位置を取る。攻撃前に察知されたくないんだ。風を感知すれば連中の位置も速度も分かる。


 そろそろ準備するか。右手を上げて、空気中の電荷を集める。あんまり崖の近くで仕掛けると危ないから、崖の少し手前に馬車が来たところで、右手を振り下ろす。


 その時聖女アグネスは馬車の中で両手を膝の上で結び、俯いていた。賊達に弱いところを見せてはいけない。そうするとこういう手合はどんどん付け上がり、こちらを見下し扱いが悪くなる。だから毅然としていないといけない。一方、主とキアラを信じるなら必ず助けが来る。その時消耗していて足を引っ張ってはいけない。それだから馬車の壁越しでも感じる筈のキアラの聖なる光を感じられていなかった。


 ところが馬車の隙間から強い光が漏れ、髪の毛が逆立つのを感じて、その時が来たのを知った。馬車はいきなり横倒しになり、前に滑りながら何かにぶつかり、乗っていた人間は悲鳴を上げながら前に転がって行った。

「ぎゃあっ」

「何だ一体!」

「痛いっ」

アグネスは後方の座席に座っていたが、不自然に椅子と背もたれに押し付けられて、他の同乗者の様に前方や横転した馬車の下に転がって行く事がなかった。そうして停止した馬車の上側になった扉がぱたん、と開いた。続いてアグネスは上向きにされ、お尻を持ち上げられ馬車の上の壁、本来は馬車の横の壁に手をかけられる様になり、そこによじ登って車外に出た。


 キアラの最初の雷撃は二頭の馬の内一頭を直撃した。

(ごめん、お馬さん。悪い奴に買われたのが運の尽きと思って)

痙攣して動けなくなった馬は馬車とぶつかり、一方の馬がまだ進んでいたことから倒れた馬の方が下になって馬車は横転した。アグネスが怪我することが無い様に、彼女に空気を押し付けて椅子に固定した。

「何だ今の光は!?」

後ろの八騎が騒ぎ出した。


 少しでも黙らせよう。もう一度右手に電荷を集めて八騎の前方四人にぶつける。一人は直撃を避けた様だが、馬が驚いて後ろ足で立ち上がる状態になってしまったから、乗っていた男は落馬して動けなくなった。後方残りの四騎も稲光を見た馬が暴れてしまいそれを抑えるので精一杯になった。


 その隙に馬車から出られる様にアグネスを空気で持ち上げる。馬車の扉も空気を操作して開けた。前方の四騎が下馬して馬車に近寄ろうとしている。急いで電荷を集めて雷撃を放つが…集め足りなかった。二人しか痺れていない…

「どうする!?相手は雷撃を使うぞ!」

「武器を抜くな!狙いは聖女だ!聖女を抑えろ!」

賊は適切な判断をした様だ。くそう。賊の癖に。まあどこぞの手勢だ。馬鹿揃いの訳は無いか。


 しかし暗い月明りの下である、小走りに馬車に近づこうとした連中の足元に空気の壁を作る。

「うわっ」

二人とも声を合わせて転倒した。この隙に降下してアグネスとの間に割り込もう。


 馬車から外に出たアグネスは、月明りの下、道路の前方と後方を見て、自分が賊に挟まれている状態なのを察した。空を飛び雷撃を使えるキアラにとって、自分が囲まれ拘束されるのが一番不味いだろうと考える。しかし後ろには馬を必死に宥める者達がおり、前方には今転倒したとは言え二人が待っている。


 道の片側が開けているのを見ると、遠くに王都の明かりが見える。そちらに近づくと、どうやら下は崖の様だ。


 そうして見ている間に、後方の馬を宥めていた連中の何人かが下馬してこちらに走って来た。このままでは捕まり人質に使われる事、キアラが一番有利な場所は空が開けた場所である事、二つを天秤にかけたアグネスは、心を決めた。彼女は前後から近づく男達から逃れ、道の端から崖の下にジャンプした。


「えっ!?」

賊達もキアラも思わず声を揃えて驚いた。降下中のキアラは方向を変えて崖方向に向かった。アグネスの落下速度がどんどん上がる…減速させる為に空気をコントロールしようとして、落下中のアグネスのかき分ける空気に流されてしまった。


 時間が無い!!!


 落下方向にもっと大き目の空気膜を何層も作り、アグネスの落下にぶつける。

少しは減速出来ているが、それでもこちらが下に回り込むには足りない!

 続きは月曜に。明日はクリスティンの更新です。

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