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4−11 マールバラの裏側

 マールバラ公爵家のタウンハウスの勝手口近くの荷受け部屋でヴィンセント・マールバラと商人が話をしていた。

「先日は邪魔が入って部下がしくじったが、どうやらその邪魔者こそ蝙蝠女らしい。次には斬る様に厳命した。叶えばもう証人の事は考えなくて良くなるだろう」

「全くその通りですな。聖女一人の証言ならいくらでも誤魔化し様がございますれば」

「そういう事だから、再度お前の方で夜襲部隊の隠れ場所を用意しろ」

「分かりました。二日後でよろしいでしょうか?」

「そうしろ。そろそろケリを付けたい」

「分かりました。その旨サミュエル会長経由でマナーズ侯爵にお伝えします」

「まだ彼等と我等が繋がっている事は明らかに出来ないからな。頼むぞ」

「心得ております」


 マールバラ邸でも公的な場所は従来の家臣の境界であり、ヴィンセントが隠し事を話す場所には使えなかった。だからこんな使用人の境界にやって来て話をする必用があった。最初はヴィンセントもこんな場所にやって来るのは嫌がっていたのだが。商用馬車に戻ったニューサム商会の会長であるゲイリーは、従者に話かけられた。

「首尾はいかがでしたか?」

「うむ、最初は商人などと話す事も嫌がっていた癖に、人参が目の前にぶら下がっていると途端にやる気になっておる。人とはやはり危機感と欲で動かすものと痛感するな」

「ここで動かないと捕まりますよ、と言えば盛んに踊るし、ここで動けばお得ですよ、と言えば勝手に走りますからね」

「さっさと共犯者になって頂き、逃げられない様にしないといけないとは思っていたが、サミュエル会長の狙い通りに走りだした。全く会長には敵わないよ」

「いえいえ、我々商人としてはあの方を越えて利益を出せるように競い合いませんと」

「そうだな。いつまでも言われた事しか出来ない様では使えない者と見捨てられてしまう。励まないとな」

「その心意気でございます」


 ジンジャー商会とそのバックのマナーズ侯爵はまだマールバラ公に付いたと明らかにしていなかったが、ヴィンセントに話を付けたのはジンジャー商会の手下であるニューサム商会のゲイリー会長だった。マナーズ候はあくまで貴族全体の意思がヴィンセント王となったからそちらに付いた、という形にしたがっていた。王を倒した逆臣という汚名を着たくなかったんだ。


 とある日の午後にキアラはケイと刺繍の速度を競った。もちろん、模様を綺麗に描きながら。太い糸だとキアラとケイの速度は殆ど同じだ…但し、布の皺を気にしなければ、だが。

「ケイ、いつまでも皺を寄せるのは不味いと思うんだ」

「針の速度を落とせば大丈夫」

だったら皺を寄せない様に縫って速度をあげなさい、と誰もが言うが、なかなか一度付いた癖は抜けない様だ。


 そして夜、キアラは消灯後にこっそりと窓から飛び降り、翼を広げ滑空して着地する。そうして邸内の木々の合間で拳を振る練習をしている。左は薄い布に細い糸を縫う様に力を入れず、右は厚い布に太い糸を縫い付ける様に。そして右腕を下し、踏み込んで肘を折った状態で体を回転させる。大きな布を一気に裁断する様に。


 うん、これ、上にも振れる様にしておいた方が良いんじゃないかな。上へ体を動かすには…踏み込んだ足を上へ伸ばすしか無い。やはり速度は遅いが、とりあえず相手を持ち上げるくらいの力はかかっている。ここで右を叩くのはフェイントで、左にステップして相手の右腹を叩くのも有効じゃないかな。と言う事で、もう一歩前進して左を振り回す練習もする。


 春の夜である。体を動かして丁度いい程度の外気温だった。軽く汗をかいた後、腕を伸ばしてみる。筋肉が凝り固まったのが分かる。こんな負荷をかけて、騎士達は筋肉を育てていくのだろうか。


 そんな休憩中のキアラの許に、蝙蝠が飛んで来た。ぱたぱた羽ばたきながら口を開ける。つまり、招集だ。まだ練習が板に付いていないだけに自信は全く無いが、何時だって犯人達は私達女性労働者の都合など考えずに使い捨てていく。それが嫌なら抗うしかない…あれ、今私の都合を考えないのは私達の上司じゃないか?目を細めて蝙蝠先輩達を見つめるが、口をぱくぱくするだけだ。早くしろ、ですか。キアラは風の翼を広げて飛び立った。


 実は拳闘の練習が始まった頃から、フォーウッド子爵が心配しながら見ていた。ランバート王子から騎士マークに稽古をつけて貰った事は聞いていたが、日中に練習する素振りが無かったので注意していたんだ。だからキアラが飛び立つのを見た子爵は、タウンハウスの護衛の一人に言付けて、王城のランバート王子に連絡に行かせた。


 もちろん、貴族街と王城の間には警戒態勢が敷かれていたから、フォーウッド家の護衛は騎士団の者に制止された。小隊長に会わせて貰った護衛は暗号を伝える様に依頼した。

「小鳥は飛び立った」

小隊長は急いで警戒態勢を強化する様に指示を出し、官庁街の方の警戒部隊にも伝令を出した。そしてもちろん、ランバート王子にも伝令を出した。

 明日更新すれば連休でゆっくり書けるから、来週はもう少し多めに書けると思います。今週は全体的に練りが足りない気がする。申し訳ありません。明日も更新します。

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