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1−4 聞き取り調査 (1)

 繊維工場は国策で安価に衣類を生産して輸出する為に作られた工場である。だから明かりに使うろうそくやオイルランプを節約する為、日の出から日没までが活動時間となっていた。


 日の出近くに寮の朝食が始まり、食事と身支度をして寮から移動して作業を始めるとなると、冬のこの季節は午前8時に始業となっていた。紡績工場、機織り工場と裁縫工場からなる繊維工場は、安価な労働力として若い女性を雇っていた。繊維製品に関するギルドが存在しない事から、女性労働者の労働条件を低水準にする事が出来るからだった。生産量が外国との協定で決まっているのに毎年200人以上を雇って解雇するのは、一つは毎年数十人を人身売買する事による人員の減少をごまかす為であった。昨年にその人身売買の帳簿が王家の手に渡った。その件に関連して、港湾都市に滞在していた聖女が女性労働者達を逃がした為、聖女は口封じの為に殺されそうになった。それは公衆の面前で阻止され、聖堂関係者と港湾都市の代官とその上司の領主は拘束されているが、港湾都市では人身売買の捜査より国策である繊維工場の操業の方が優先されている。


 午前8時の操業時の朝礼で、本日は王都から来た調査チームによる工場労働者に対する工場労働と聖女殉教事件に関する聞き取り調査が行われると発表された。

(漸くか、でも聖女殉教事件を見に行くことも出来なかった工場労働者に聞いてどうする)

聖女を殉教という名の公開処刑で抹殺しようとしたのは聖堂の宗教関係者だが、繊維工場の工場労働者は解雇まで工場の敷地から出る事は無い。逃亡防止であり、工場内の人員減少、つまり人身売買による人員減少などを外部に漏らす事を妨害する目的だ。そういう訳で工場労働者に聖女殉教事件の詳細を知る者はいない。聞き取ってどうすのか、キアラとしては意味が分からなかった。


 周囲には調査について憶測を話しながら清掃作業が疎かになっている者もいるが、キアラとケイは黙々と机を拭いていた。キアラとしては世間話をする気にはならなかった。さっきから同じ1年目で他のシャツ縫製班の班長であるキャシーの視線を感じるからだ。キャシーは時々キアラを見ていた。工場経営者側の密偵役かとも思っていたが、工場経営から前領主のポートランド候一派が排除された事から、今工場内を監視する仕事は無い筈だ。まだ何らかの裏組織が残っているのか。キアラとしては背中に汗をかかずにはいられなかった。


 そうしている内に、キャシーの班の聞き取りの番になったらしく、キャシーが呼ばれていった。キアラは小さく息を吐いた。それをケイが見つめていた。

「何でもないよ」

「そう?」

キアラもケイも裏表なく工場労働に勤しんでいる。同じ班でずっとキアラを見ているケイには、キアラの小さな変化が分かるのかもしれない。


 聞き取りに呼ばれたキャシーが聞き取り会場である応接室に入った。

「失礼します」

聞き取りに来たチームとは、コーデリア・チェルニーを表向きのリーダーとする王都から来たチームだった。その中の金髪碧眼の若い騎士服の男がキャシーに指示を出した。

「優先順位の高い事から報告しろ」

「はい。裁縫工場内には経営者側の組織した偽装の逃亡チームが存在しましたが、現在は活動をしていません。労働者側の逃亡チームはありましたが、学校の教師役である修道女が経営者側に密告したものと思われ、一部が行方不明になりました。それぞれのメンバーは記憶している限り報告出来ますが、後ほど紙に書かせて頂きます」

「前経営者と繋がりのある者達は今後は逆に破壊分子になる可能性がある。明らかにあちら側の人間と、疑わしい人間については〇△で分かる様に明示せよ」

「分かりました」

「次、聖女殉教事件について、関与の疑いのある者を報告せよ」

「逃亡の意思または工場の裏状況について興味ある者の内、当日顔を見せなかった者は2年ズボン班のエラ、1年シャツ班のシャーリーとキアラです」

「その内、最も関与の疑いのある者を理由を付けて述べよ」

「1年のキアラです。当日顔を見せない事から部屋に呼び出しに行きましたが、応答がありませんでした」

「…外に出ていた可能性があると?」

「あくまで可能性だけですが」

「分かった。他に報告すべき事はあるか?」

「前任の寮母が労働者拉致に係わっていた可能性はお聞きでしょうか?」

「最初から拘束して聞き取りを行っている。そちらは良い」

「では、特にありません。人名の記入をさせて頂きます」

キャシーは与えられた紙に人名と〇△を書いて行った。

「よくやった。実家に対する援助は継続される。また、2年目の期末に外部雇用で外に出られる様に進めるから、命に係わらない程度に調査を続けろ」

「はい。よろしくお願いします」

キャシーは深くお辞儀をして退出した。


 コーデリアが口を開いた。

「三名まで特定しているとはね…」

金髪碧眼の若い男が答えた。

「命がけで密偵役を行うだけの事はある。この任務が終わったら重用すべきだろう人材だな」

「王城内の密偵ぐらいにしてあげたら?」

「馬鹿言え。王城内の密偵なんて、俺が知るだけでも数十人が消されているぞ」

「なるほど、坊やが一番詳しい事よね」

「外部の人間がいないのに偽装を続ける必要があるのか?」

「日頃からやってないとボロが出るでしょ」

「言ってろ」

 バレンタインデーが近づくと、在宅勤務中にかけているコミュニティFMから日本語のバレンタインソングがかかりますが、私が好きなのは大瀧詠一さんの「ブルーバレンタインデー」です。でもこれ、タイトルから分かる通り、プレスリーの「ブルーハワイ」のパロディですよねぇ…


 明日は更新を休んで第三王子調査隊を2話分書く予定。日曜に調査隊、月曜にこちらを更新する予定です。

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