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4−4 追跡

 元騎士の科学アカデミー職員のダドリーには監視を付ける事になった。とは言えどれほどの深刻度か不明だったので、ランバートの扱える範囲、つまり一人だけ監視役に付ける事になった。


 土曜の夜に出歩いたダドリーは、繁華街の裏通りでコートを着た男と話をした。

「新しい聖魔法の持ち主は、6人くらいで打ち止めだから、大した事はない様だ」

「そうか、それは良かった。ところでお前、靴の紐が解けてるぞ」

「ああ、すまん。左手が痺れていて、強く結べないんだ」

しゃがんで紐を結びなおそうとするダドリーは、首筋が熱くなるのを感じた。

「お前、本当に鈍ったな。刺客が背後から近づくのに気づかないなんて」

ダドリーの首筋が熱いのは、斬られた首の血管から血が流れ出ているからだった。会話の間に近づいた男がしゃがんだダドリーを斬ったんだ。

「な、何で…」

「お前が監視を連れて来たからだ。気付いてなかったんだろ?ここまで鈍ったら使い道も無いから口封じをするだけだ」

二人の男が静かにその場を離れる間、ダドリーは首に手を当てて出血を防ごうとしたが、立ち上がろうとしてふらついて倒れ、その拍子に手が離れて出血が酷くなった。ダドリーはもう動作も思考も鈍くなり、そのまま動かなくなった。監視の男は致命傷と判断し、ダドリーが話をしていた男を追う事にした。刺客より連絡係の方が上に繋がっている可能性が高いと判断したんだ。ダドリーと話していた男は、繁華街を抜けて飲み屋の裏口を抜けて、近衛騎士団の宿舎に入って行った。


 口封じで職員が殺されるに至って、ランバートも監視の男も深刻度が高い事を悟り、アルフレッド王に報告する事にした。

「元近衛騎士の科学アカデミー職員が殺されました。その男はキアラの指摘で怪しいと思われた為に監視を付けましたが、現役近衛騎士と会話中に第三者に殺されました。近衛騎士は通報せずに宿舎に戻ったため、何らかの組織と関係があって監視が付いた男を消したと思われます」

「職員と会話した男は近衛第三大隊の所属の騎士カイルと思われます」

王は溜息を吐いた。

「暗殺組織が入り込んでいる可能性のある第二大隊に続いて、第三大隊も汚染されている可能性があると言うのか。そうなると何時までも近衛騎士団の団長が不在であるのは良くない。元職の者を充てる必用があるな」

「父上にご心労をおかけして申し訳ありません」

「こういう事もある。事前に知れて良かったとも言える。とは言え、お前はキアラ嬢の指摘に適切な対応が出来なかった形になる。一度謝っておく事だな」

「はい。信用していない訳ではないのですが、どこまで人手をかけて良いか読み違いましたので、私の責任です」

「まあ人命が失われた責任はあるが、この場合破壊活動の一員の人命だからそこまで深刻に考えずとも良い。ただ、次に同様の事があればまず私に相談しなさい。宰相と対応を協議して人員を充てる」

「はい。申し訳ありませんでした」

「キアラ嬢に謝る事は気にならないのだな?」

王は父親として微笑んだ。

「勿論です。彼女は人命が失われる事を強く嫌います。謝った上で、今後も協力を要請しないと信頼を失いますので」

「失敗を認め、関係者に謝る事は必用だ。王家の一員である以上、軽い頭では無いが、それだけに失敗は失敗として認める事も必用だ。謝れない者は反省しない者と見做され、学習しない者として信頼を失うからな。しかし、お前が年下の少女に謝れるとは、見直したぞ」

「…そこまで子供ではありません!」

「だと良いが。誰も見ていないと思っていても、誰かの目がお前を見ている。その事を心に留めておく事だな」

ランバートは少し考えてから答えた。

「今回は本当に誰かに見られている可能性がありますからね」

王も微笑んだ。

「それは判らん。だが、人の上に立つ以上、何時でも公正な目で自分を見る事が必用だ。部下の誰かが見ている可能性があるのだからな」

「はい」


 間もなく近衛騎士団に元職の騎士団長が復帰する事が発表された。それを聞かされた第二王子ハロルドは愛人であるミラにぼやいた。

「私が副長をしているのだから、私を団長に昇格すれば良いものを!」

「全くですわ。周囲の方はハロルド様のお力に理解が足りないのですわ」

そうして、ハロルドが不満を強めている事を聞いたニューサム商会の会長ゲイリーは笑った。

「ここに来て愚者が感情的になっているのは吉兆だ。愚者は感情的になる程に愚かな判断をするものだからな」


 一方、ランバートはフォーウッド家を訪れ、キアラに不首尾を詫びた。

「すまん、せっかくの情報を貰っておきながら、口封じをされてしまった」

「口封じをされたって事は、脛に傷持つ奴なんだろ。だから自業自得だよ。それに、犯人は追いかけたんでしょ?」

「それが、監視の判断で犯人でなく、繋ぎの男の方を追って行ったんだ。それが近衛第三大隊の騎士だと分かった。第二、第三大隊が汚染されている可能性があるから、対策として元職の騎士団長を再任用したが、第三大隊の汚染具合とその狙いが判らん。なんとか騎士団長に抑えて貰おうという判断だ」

キアラは少し気になる事があった。

「その元職の騎士団長ってのは大丈夫なの?」

「何が大丈夫だ?」

「一度職を解かれている人を戻して、騎士達は従うの?」

ランバートは記憶を辿ってから答えた。

「名誉職だからな、任期満了で退いただけで不祥事で任務を解かれた訳じゃない。信用が無い訳じゃない」

「うん、だから、名誉職の人間に現場を抑えられるもんなの?」

「…補佐を置く様に提言を行う」

「補佐って一応いるんだよね?」

「…お前もきついな。まあ一応いるだけだが」

「新たに補佐を置いて、気分を害さないかな?」

「評価や昇進に興味があるならとっくに働いてるだろ?5年も何もしていないんだぞ!?」

「居眠りはしてないんだよね?」

「…さすがに王子が居眠りしてた、と批判は出来ないだろ」

「それであんたも悪評が立ってないんだ?」

「先走って怒られる事はあっても、何もしてないと怒られた事はない!」

「先走るのも問題だよ…」

 次は月曜更新です。明日はお休み、日曜はクリスティンの更新です。

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