4−2 魔法練習 (1)
キアラの聖魔法について、聖女の倍以上の能力を持つと疑われる点はアルフレッド王、第三王子ランバートとコーデリアのみが情報共有をしていた。これについては御使いである事の証明と言える為、早急な調査が必用だった。だから、キアラに聖魔法を練習させるという名目で、港湾都市の異能調査に同行したエイブことエイブラハム・クーツと聖女アグネスが教師役に呼ばれ、王立科学アカデミーの自然研究室の職員相手に軽度の疲労の治療を実施する事になった。そして新たな聖魔法師の正体を隠す為に、キアラはローブを深く被る事になった。それを見て、アグネスは以前から気になっていた事を尋ねる事にした。
「そんなに目深く被って、見えるのですか?」
「言ってなかったっけ?私の魔法属性は風魔法だから、雰囲気、つまり空気の気配で人がいるのが分かるんだよ」
「それは目で見るよりはっきり見えるのですか?」
「そりゃあ目で見た方がはっきり見えるけど、近づけば聖魔法の診断能力らしく、どこが顔か内臓かは分かるから、何とかなるよ」
エイブは教会関係者だからキアラの正体について詳細は伝えられていなかったから、触れもせずに診断能力を発揮する点には驚いた。
「普通は触れないと分からないんだが…」
「もちろん、触れないと治す効果は薄いよ」
エイブとしては限られた情報からも、キアラが御使いである可能性が高いとの思いを強くした。もちろん、彼は今日見た内容を大司教にのみ詳細報告する予定で、教会内で口外しない事すら指示されていた。
そうして、まず一人の職員の目の疲れをエイブが治す実演をする事になった。エイブが、椅子に座り瞳を閉じた職員の両目のまぶたに手を触れさせ、僅かな光を発して聖魔法の治療を行った。立ち会っていたランバートと護衛の騎士ジミーにもその光を見る事は出来たが、コーデリアには魔法の流れを感じる事が出来たし、アグネスとキアラには体内細胞に浸透していく聖魔法の輝きまで見る事が出来た。
しかし、だからこそキアラに感じられる事があった。
「エイブさん、ちょっと良いですか?」
「ああ、何だ?」
「この方、首の後ろの方がちょっと赤くなってる気がするんですが」
全員が職員の後ろに周り、首を見てみたが色は変わっていなかった。
コーデリアが思わず声を上げた。
「別に色は変わってないけど?」
「いや、外側じゃなくて中身が赤く見えるんですが」
アグネスが興味を示して職員の首に手で触れた。
「ああ、なるほど、疲れていらっしゃいますね」
エイブとコーデリアは衝撃を受けた。聖女ですら触診しないと分からない点が離れていたキアラに分かったのだから。アグネスがキアラの方を向いて言った。
「どうされます?練習されますか?」
「うん」
職員の後ろに回ってキアラは言った。
「痛いとかあったら言ってくださいね」
「ああ」
そうして首に手を当ててキアラが治療魔法を行うと、キアラ自体は光らなかったが、キアラが手を当てている職員の体の一部分が強く光った。
「どうですか?」
「ああ、良い感じだ。首が疲れて回りにくかったんだよ」
「うん、でも多分、腰の方が辛いですよね?」
「よく分かったね」
「何か、聖魔法の伝わり具合で分かりました。治療しますか?」
「是非お願いするよ」
職員に背もたれを前にして座りなおしてもらい、キアラは服の上から手を当てた。また職員の服の中だけ光った。
「どうですか?」
職員は椅子から立ち上がり、腰を左右に回した。
「ああ、すっきりしたよ。ありがとう」
「一時的に炎症を治しただけで、筋肉の蓄積疲労はありますから、あまり無理はなさらないでくださいね」
「ああ、もちろんだ」
職員が部屋を出た後、エイブとコーデリアがキアラに近づいて尋ねた。
「首も、服の上から腰も治して、君の体は大丈夫なのか?」
「いや、大した事はしてないから問題ないですよ?」
コーデリアにはそうは見えなかった。
「あんたねぇ、凄く魔力流してたんだけど、影響ないの?」
雷撃打つのに比べたら全然魔力なんて流してないぞ、とキアラは思ったが、雷撃は秘密事項だろうからそこは省いた。
「まだ大丈夫だから、次はアグネスの治療を参考に見たいかな」
アグネスはハイトーンで答えた。
「ええ、是非ご覧になってください!」
こんなにハイでちゃんと治療できんのかな、とキアラは思ったが、アグネスのプライドを傷付けたくないから黙っていた。
次の職員は火傷の跡が右手に残っていた。
「これは痛いでしょうね。それでは治しますね」
エイブと比べると治療の際に皆に見える光は強かった。そうして火傷は治った。
「はい、少し跡は残りましたが、普通の皮膚に戻っています」
「ああ、ありがとう」
そこでキアラが小さく挙手をした。
「その、小さいけど手首の方も治しましょうか?」
職員は驚いた。
「良く分かったね。手首の方はあまり動かさないから、自然に治るのを待とうと思っていたんだ」
そういう訳で、袖を捲り上げた職員の皮膚にぎりぎり触れない様にしてキアラは聖魔法をかけた。
「小さいから跡は残らないみたいですね」
「ああ、ありがとう。助かったよ」
いや、普通は跡は残るだろう、と職員とキアラ以外は思っていた。治験者の職員には事前に箝口令を敷いてあったが、思っていた以上の重大機密事項ではないだろうか、と皆は思い始めていた。
ああ、テンプレ回、という読者の声が聞こえる気がしますが…続く4−3は木曜に更新します。明日はクリスティンの更新です。




