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3−9 議会閉会後

 宰相は議会が妨害された事を王に報告した。

「正確な数字ではございませんが、約三分の一の貴族が席を立ち議長に詰め寄ると言う事態は私が成人してから初めての事です」

「ヴィンセントが指名され、不平貴族の側に立って議事を進行したか。示し合わせたものであろうな」

「貴族議会のルールを破りその様な勝手な振る舞いをすれば、議会の権威を貶めます。関与した全員が王権も、国家の主権も重視していない事が明らかです」

「そもそも人身売買事件を処罰して国家の面子を保つのを妨害しているのだからな。売買犯達は国家より自分達の保身を考え、ヴィンセントは実権を握りたいという欲望からそんな役を受け入れたのだろうが、その先にあるのは国家の滅亡だぞ。教皇を敵に回して各国家から排斥される未来しか無い筈だ」

「もう一つ気になるのは、残りの貴族が議会運営を妨害する輩を非難しなかった事です。そういう多数派工作が成された事に対して全くこちらに情報が漏れてこなかったのが不思議です」

「各騎士団から聞き取りを行え。後、排除された議長、リッチモンド候に人を遣って慰撫せよ」

「はい、この後に私自ら話を聞いて参ります」

「うむ、それが良い」


 こうして宰相はリッチモンド侯爵アーネストを尋ねた。

「リッチモンド候、今回は不運な事でしたな」

「全く、あんな無法者どもが貴族を名乗るとは、王国も堕ちたものだ」

「それにしても、このタイミングで人身売買の捜査に圧力をかけてくるとは、どういう事かご存じでしょうか?」

「いや、私としては臨時法案の諮問である事は当然口外していないし、何だか分からない臨時議会に危機感でも抱いたのだろうか?」

「売買帳簿に名前のあった家には聞き取り捜査を行っているとは言え、彼等も証拠が帳簿しか無い事は知っているのだから、そこまで危機感を持つタイミングではない筈なのですが」

「貴族議会に帳簿に名前のある者は公開されていないから私には分からないが、宰相から見て、無法者達は元ポートランド伯の顧客ばかりなのか?」

「いえ、帳簿に名前のある者だけではあの人数になりません」

「マールバラ公の手下も入っていなかったから、何らかの多数派工作で買われた者達か…」

「下位貴族は年々、領地経営が難しくなっておりますから、安く買われたのかもしれませんな」

「しかし、マールバラ公が公然と買収をするとは思えないが」

「彼の性格からして、身分が下の者に諂うそういう工作は嫌うでしょうな」

「すると人身売買の顧客側が金を出したのだろうか?」

「何故このタイミングで議会を乱したのかも含め、こちらでも調べますが、リッチモンド候の方でも何か分かりましたらお知らせください」

「ああ、不当に議長の立場を奪われて黙っていては貴族としての沽券に関わる」

「当然、こちらも放置しておく訳には参りません。分かり次第、情報共有をしたいと考えます」

「うむ。お互い、毅然とした対応を心がけよう」


 一方、大聖堂をクラレンス公ジェフリーが尋ねた。

「大司教にお目にかかれて光栄ですよ」

「こちらこそクラレンス公爵をお迎え出来て喜びの極みですよ。それで、どんな問題がありましたか、兄上」

「お前は話が早くて助かるよ。父上が常々危惧していた通り、遂にヴィーが反乱の狼煙を上げた様だ」

「ほう、賢しい割りに冒険を嫌うあの男が、思いきりましたな。それでもすぐに荒事にはならないのでしょうか」

「全く、話が早すぎるな。今日の貴族議会で一部の下位貴族が騒いで議事を妨害し、元ポートランド伯と関係者の保釈を要求してきた。議長を押し退けた連中が担いだ臨時議長がヴィンセントだ」

「ふむ。人身売買を無かった事にしますか。港湾都市の聖堂にした様に、大聖堂にも口封じの為に寄進を増額してきますかな」

「それはもう少し後だろう。一カ月後までに不平分子が提案を纏めて、それを元に臨時議会を開くと言う。そこで陛下を追い込んで、その結果から譲位を迫るというあたりだろう」

「それで、クラレンス家としては今回の動きの裏は追えているので?」

「話さないんだから、そこは言いたくないと気付けよ。急な動きだったので私の方にも情報は無かったし、領地の親父からも忠告は無かった」

「あのブラッディ親父が出し抜かれたのだから、後が怖いですな」

「お前には直接叱責がいかないからな。羨ましいよ」

「私は私で、神の信徒としての道徳と実家の生臭い仕事との狭間で苦悩しておりますよ」

「その手の切り替えが一番上手いお前が言っても説得力がないぞ」

「いえいえ、今回は主の圧力が半端でないものですから」

「聖女にでも睨まれてるのか」

「聖女も主も夢中の方がおりまして、その方が私を見る時、腰が引けておりまして。主のお怒りが恐いのですよ」

「お前もあまり人を怖がらせるなよ」

「いえいえ、私は常に慈愛を込めた微笑みで他人と接しておりますよ」

「慈愛か。むしろ呪いがこもってる事がよくあるからな、分かる奴には恐がられるだろうよ」

「今回は慈愛しか込めておりませんよ」

「じゃあ、回り回って嫌がられているんだな。少しは自重しろよ」

「それでブラッディ親父が納得するならそうしますよ」

「納得しないだろうな。教会関係者で今回の動きの裏を追ってくれ。そうすりゃ親父は怒らんだろうよ」

「主がお怒りかもしれませんよ」

「せいぜい懺悔でもするんだな。こちらで分かった情報はお前の顔見知りを通して伝える。それまでに分かった事はそいつに伝えろ」

「主よ、兄と父が私に生臭い事ばかりさせるのです。お怒りの際は実家への罰となさる様にお願いしますよ」

「だから、神様経由で実家を呪うんじゃない」

「祈祷しているんですよ」

「どう見ても呪ってるぞ」

「滅相もない」

 

 その後、クラレンス家の情報網にも教会の情報網にも、週末の夜会で扇動が行われた情報が入った。同時に宰相やリッチモンド家も同じ情報を掴んだ。それぞれが不思議に思ったのは、どうしてこのタイミングで唐突に人身売買捜査に対する公然の圧力が発生したのか、という事だった。

 全員おじさんの別視点のお話でした。明日はランバートがキアラに報告します。この二人の会話が色気が無さ過ぎて、作者が一番困っています。まあいいや、クリスティンにクロちゃんをむぎゅっとさせちゃおう。

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