表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/96

3−8 貴族議会

 王としては、人身売買の罪に関する調査は一先ず置いて、解雇時旅費法案を通す様に宰相に指示を出した。宰相は三日で法案を纏め、各法の専門家とも協議をして纏め、週明けに臨時の貴族議会に諮問する事になった。


 しかし、臨時の貴族議会の招集について、一部の貴族による扇動が行われた。

「王はここで集めた貴族の内、人身売買に関わったと偽って王から距離のある貴族を処分するつもりだ」

「しかし、帳簿があるのだから売買に関係ない者には関係ないだろう?」

「そもそもその帳簿が偽造なのだ。その中には伯爵家の名前も有ると言う。伯爵家なら女などいくらでも領内から手配出来るだろう?」

「すると冤罪で罰すると言うことか」

「弟君であるヴィンセント様より社交性に欠ける王なら、そんな事で多数派工作もやりかねないだろう?有能なヴィンセント様に嫉妬しているのだ」

扇動の基本は憎ませる事だ。『騙されている』『冤罪』そして個人攻撃で憎ませ、見下させる。罪に問われている者以外が蠢動するのがミソだ。そして、身に覚えがある者達を切羽詰まらせて、充分な思慮より感情論で味方をさせるのだ。その為にこんな噂が週末の夜会の影で流された。貴族議会まであまりに短時間だったが、それ故に身に覚えのある者による積極的な拡散が行われた。


 貴族議会の議長は東部・南部・北部・西部の四地方から二年毎に持ち回りで務める事になっていた。この時の議長は西部のリッチモンド侯爵だった。

「欠席の委任状が届けられた10家を除き、着席した事を確認した。それでは臨時議会の開催を宣言する。それでは招集提案者の宰相からの説明を始める」

そこで複数の出席者から異議が唱えられた。

「議長!この臨時議会で最初に扱われるべき重大事が他にある!まずそちらを優先すべきだ!」

「静かに!この臨時議会は宰相から招集の提案を受けて開催されている!異議があるならまずその提案の審議中、あるいはその後に申し立てよ!」

「議長の横暴だ!議員の多くが異議を申し立てているのだから、そちらを優先すべきだ!」

「貴族議会は法に則って運営されている!当初に立てられた議事進行を押し退けて他の議事を優先する法は無い!」

出席した貴族達の三分の一が議長席に押し寄せた。本来なら護衛の騎士がこれを押し止める筈だったが、一部の騎士は貴族に危害を加える無礼を嫌がっているフリをして職務を行わなかった。だから本来侯爵に危害を加えれば罰を加えられる筈の下位貴族がリッチモンド侯爵を押し退けた。


 議長席に代わりに立ったのはバイロンと言う子爵だった。

「議長は議員を無視して進行を行おうとしたから排除された!ここに代役として王弟閣下による進行をお願いする!」

議長の後ろに座っていた宰相や法務省の役人達は週末の扇動を知らなかった為、貴族議会議長を退けて王弟を議長にする行動が理解出来なかった。普通に考えれば、西部の侯爵より王弟の方が王に近い立場だから、法案制定を却って促す方向だと思えたからだ。そもそも解雇時旅費法案を貴族が反対する理由が分からなかったし。


 そうして、複数の貴族に囲まれた王弟、ヴィンセント・マールバラ公爵が議長席に座って発言した。

「複数の議員が議題の変更を求めているのが判った。優先すべき議題の提案を望む者は発言席に移動して発言せよ」

王国南部の伯爵が発言席に立った。

「提案者はノーマン・ハットンです。今、陛下を中心に行われている人身売買の捜査について、未だ有効な証拠が得られていない点、冤罪である可能性が高いと判断します。ですので、逮捕・拘束されているポートランド伯爵とその関係者の早急な保釈を要求致します」

ヴィンセントはハットン伯に答えた。

「証拠として人身売買の帳簿があり、聖女の証言並びに港湾都市の代官であったモーガン・ルースの館で拷問に遭ったと証言する者もいる。有効な証拠が無いとは言えない筈だ」

「人身売買の帳簿は偽造された物と考えます。それと分かる様な物を保管する訳がありません」

「と、言っているが、宰相、反論を述べよ」

宰相は議長の横の席に座っていた。立ち上がって発言した。

「人身売買帳簿の筆跡は代官であるモーガンの使用人の筆跡と一致しております。暗号表は10年以上前の物と思われ、こちらの筆跡は鑑定出来ませんでした。また、工場の女工の記録上の人数と実際の人数が一致せず、押収した書類でも不一致な点があり、死亡したという記録もありましたが墓が存在しません。何らかの理由で女工が連れ去られたと判断します」

ヴィンセントはハットン伯に質問した。

「この回答に反論があれば述べよ」

「平民の人数の不一致、つまり失踪で貴族を拘束するのは不当です。平民の管理は貴族領内の管轄事項であり、王家が貴族としての権利を侵害する理由になりません。それ以外に理由が無いなら保釈して彼に領内の事件として処理させるべきです」

ヴィンセントはこれを受けて宰相に質問した。

「貴族領内の事項で貴族を罰するのは権利侵害であると言うのは一理ある。宰相は反論があれば述べよ」

「国策である繊維工場で女工が失踪している証拠があり、人身売買の疑いがある。これを捜査し、場合により罰せなければ王家が人身売買を容認していると判断され、国際的な信用を失う。ヴィンセント公は王と国家が信用を失う事を望むのか?」

ヴィンセントは眉を顰めた。

「私はそれに関して意見を述べていない。宰相はハットン伯に反論せよ」

「既に反論済ですが?国家として人身売買の疑いを晴らす必要がある。ハットン伯は元ポートランド伯と共に国家滅亡の元凶となりたいのか?」

ここまで黙っていた、当初の議題の進行を妨げた貴族達が騒ぎだした。思う方向に話題が進まないから妨害したんだ。

「王家の横暴だ!」

「濡れ衣で伯爵家を潰すのか!」

「貴族軽視だ!」

三分の一の参加者が騒ぎ立てて議事の進行を妨害した。ここにおいてヴィンセント代理議長は宣言した。

「一部の参加者の不満が大きく、これ以上の議事進行は不可能と判断する。不満な議員は私に議事提案を提出せよ。提案を纏めて、一か月後の臨時議会で審議する。本日の議会は閉会とする」


 こうして解雇時旅費法は審議されず、次の審議は元ポートランド伯の人身売買疑惑の審議となった。

 貴族というのは品格が必要な筈ですが、その地位を失いそうになっている為に必死になっております。そもそも一番激しく動く奴が一番怪しいと思うんですよ。


 明日はクリスティンがサンドゲート海岸で…その前にデボラが…第三王子調査隊を読んでない方はお気になさらずに。あちらはコントですから。こちらの続きはこれから書きます…

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ