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3−4 花見のお茶会 (4)

「夢で蝙蝠を見たんです。蝙蝠は私の手を噛んで、そうして私は蝙蝠の翼を生やして、飛べる様になりました。夢の中で」

王は促した。

「最後まで続けよ」

「蝙蝠の翼で飛んで行った港湾都市の繁華街の外れで、街娼達を見ました。マフィアの下っ端達にみかじめ料を取られ、それすら払えないと客を取れても邪魔され、飢えて死んでいきます。繊維工場を解雇されて返る場所も無い女達はそうして消えて行きます。そんな風に多数の女性労働者を雇うのは、若い街娼を毎年供給するのが理由の一つです。もう一つの理由は、工場労働者を人身売買の商品とする為で、隔離された工場間の移動と言って移動させても忘れられる程の人数の多さ、そして途中で減っても工場が維持できる事が理由と思われます。夢の中で人身売買の現場を見た私は、売人と商品のいる倉庫に雷撃で火を付け、売買を阻止しようとしたんですが、紡績工場の受け入れ倉庫から出荷する様に変更されて売買は続けられました」


「ただ、その出火の調査に騎士団から人が来ると言う事で、売買帳簿が代官の館から紡績工場の受け入れ倉庫の方に移動されたので、それを持ち出して騎士団の調査員に渡しました。これで工場内に破壊分子がいる事に気付いた工場側は、目を付けておいた紡績工場の反乱分子に代官の館で拷問を行い、犯人を白状するまで次々と殺そうとしました。一人殺したところで一度女達への拷問が中断したところで、代官の館に侵入して女達を解放しました」


「これを総領事館に連れて行ったのが聖女アグネスとその付き人の修道女です。でも、彼女達はその責任を取る為に修道院に戻って、修道女は殺され、聖女も焼き殺される事が公表されました。それで、聖女を助ける為に仲間の蝙蝠を集め、衆人環視の中で代官が人身売買をしている事と聖堂がそれを見逃している事を公表し、蝙蝠達の雷撃でこの事件の傷跡を聖堂に残しました」


「そこで私の使命は終わったと考え、私に能力を与えたと思われる蝙蝠を私の中から追い出し、例え拷問されても蝙蝠の翼を持つ女である証拠が出ない様にしました。これが私の夢の終わりです」


王は重ねて尋ねた。

「使命、とは誰から与えられたものか?」

「私に蝙蝠を通して指示を出す者は、名乗りませんし言葉をかけません。あくまで蝙蝠に私を連れ出させ、見たものから判断させるだけです」

「…分かった。それでも今、異能が使えているが、どうしてか?」

「やはり夢の中で蝙蝠に腕を掴まれ、崖から飛び降りる事になったのです。目が覚めると、空気で作った翼が出来ており、風魔法がまだ使える事が分かったのです」

「ふむ、その翼で、まだ飛べるのか?」

権力者はどこまでも横暴だった。下々の者に隠し事を許さない。自分は何も明らかにしない癖に。でも、仕方が無い。私がここに呼ばれた経緯から、我が上司はここで王と腹を割って話せと言っているんだ。

「蝙蝠の翼と同じ様に動かせますので、飛べます」

「雷撃は使えるのか?」

「…僅かながら。聖堂のモニュメントを破壊したのは二百匹を越える蝙蝠の雷撃の合計ですから」

王は何も隠す事を許さないらしい。最後の質問をした。

「聖魔法はどうか?」

…雷撃が使えて聖魔法が使える。それはその者の能力が教会と同じ属性である事を示す。そこまで言わせるのか。

「ひび割れを治す程度でしたら」

フォーウッド子爵夫妻も、キャベンディッシュ公爵夫妻も息を呑んだ様だ。

「分かった。他に何か言う事があるか?」


 ここまで教えた以上、こちらも一言以上言わないといけない。この期に述べよ、というのが我らが上司の意図だろう。

「お願い、ではなく提案です。工場その他が雇用を行う場合、解雇時に雇用を約束した場所まで解雇した労働者が戻る費用を負担しないといけないと言う法律を作っていただけないでしょうか?」

「賃金を上げて、真面目に貯金をすれば実家まで戻れる様にするのではいけないのか?」

「工場労働者は工場に囲い込まれています。その金を奪う方法はいくらでもあります。例えば、労働者は衣服として工場で製造した服またはその二級品を購入しないといけませんが、工場内では二級品ですら公定価格の倍以上で販売されています」

「それは改善させる。それでも帰宅費用が必要か?」

「解雇費用を負担させる事で、女達を集めるだけ集めて簡単に解雇する事を防止する目的です。そうして他に仕事が無い場所に連れてきて、解雇して街娼に落とす事を予防します。その法律が出来ても安易に女性を雇用し解雇しようとするなら雇用の地元で女性を集めるしかないですが、港湾都市では工場労働者は解雇されれば街娼になると評判が悪い。港湾都市で工場が女性を集める事は出来ないでしょう。遠距離から雇用する必要がある以上、解雇費用が上昇すれば解雇を減らすしかなく、工場から人が減らない以上、新規雇用を減らす事になる。そうして犠牲を減らします」

王の目が少し大きくなった。間違った事は言っていない様だ。


「他に思う事があれば述べよ」

あるよ、沢山。

「どちらにせよ小作農家は貧しく、何らかの方法で間引きが必要になります。今は港湾都市で蔑まれながら死んでいくから人数を数える人もいませんが、これが地方で少しづつ減る様になっても問題視されないでしょう。つまり地方の貧農を救済する事が必要です。地方の貧農が貧しいのは、それまでは農産品が基本の価値となっていましたが、お金が基準となった為に地盤沈下したと考えます。地方では農産品が余り、工業品が足りない。だから地方では相対的に農産品が買い叩かれ、工業品を高く売りつけられます。それは輸送費用と称して高いもうけを乗せられるからと言う事もあります。一方で、農業生産従事者より農産品消費者が多い大都市では農産品は不足し、高価になります。つまり、地方でも農業生産従事者を減らして農産品消費者を増やせば今より農産品の価格が上がる筈です」


「ところが、工業生産はギルドが牛耳っており、地方に生産者を増やすのは難しいと考えます。だから、地方に作る工場はギルドが関与しない業種、例えば繊維工場が良いと思われます。そして、繊維製品を港湾都市から出荷するなら、港湾都市に流れ込む河川の上流で生産すれば、輸送費用も安価になると考えます。私が提案したいのは、工場の設置による地方都市の隆盛によるお金の流れの分散、但し、暴利を貪る商人の抵抗が考えられます。農業生産品の地盤沈下で困るのは農地と農業従事者で利益を得て来た貴族ですから、貴族が費用を出して地方商人を育てる事が必要と思われます」


「もう一つは先程述べた、河川を利用した輸送費用の節約です。ただ、大きな河川だとやはり組合などで費用が決められている可能性があります。一先ず、先程の解雇時旅費の法制化と合計三つが提案です」

王は目を瞑り、一呼吸おいてから目を開け応えた。

「良く分かった。解雇時旅費法については早急に対応しよう。それ以外はもっと検討が必要だ。そこは理解して欲しい」

「貴族階級の没落による商人の覇権がかかっております。ご検討をお願いします」

「良い提案と考える。必ず検討しよう」

「ありがとうございます」

「ランバート、キアラ嬢を待合室までエスコートせよ。フォーウッド子爵夫妻は同行する様に」


残されたキャベンディッシュ公爵は王に声をかけた。

「陛下、恐れながら重要な提案であったと考えます。熟考をお願い致します」

「父のいとこである公からの言葉は重いと考えていますよ。いずれにせよ重大事であると考えます」

「ご理解頂ければ幸いです」

 王のキアラに対するチェックポイントは木曜に書きます。明日はクリスティンの更新です。

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