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3−2 花見のお茶会 (2)

「それで、どうして王子に剣を突き立てているのか教えて貰いましょうか?」

キアラの言葉に騎士が答えた。

「貴様が殿下を害しようとしたから阻止したんだ!」

妨害されたらそう答えようと準備していた言葉だろう。だが、護衛の騎士に阻止されたならともかく、フォークを持った令嬢相手ではおかしな言葉だった。

「私がフォークで何をすると?」

「フォークでも暗殺は出来る!」

「首筋を狙ったならね。今、令嬢のか弱い力で服の上からフォークを体に突き刺すのは無理よね」

こう話している間にランバート王子が気付いて振り向いた。

「キアラ、何をしている…」

「見て分かる通り、あんたの暗殺を阻止してやったんじゃない!」

何かトラブルが起こっているのは分かったし、突きの姿勢で固まった騎士は不審だったが、それより気になる問題があった。

「フォークで剣を阻止出来るのか?」

「フォークで剣を止められる訳無いでしょ!でも何も無いと暗殺を阻止しているのが分からないから、分かりやすくフォークで止めている様に見せてるだけよ!」

「いや、だからフォークで止めても分かりにくいだろ?」

「あんた呑気ね!暗殺されそうになったんだから、まず警備隊長を呼んでこいつを拘束しなさいよ!」

尤もな意見だったから、ランバートは渋々警備隊長を呼ばせた。知っている近衛騎士が壁際に居たんだ。

「エリック、ジェフリーを呼んでくれ」

何が起こっているのか分からなかったのは騎士エリックも一緒だったが、王子の命令には即対応した。


 副官を連れて警備隊長がやって来た。それを見てランバートが命令を出した。

「ジェフリー、見ての通りの不届き者だ。拘束しろ」

キアラの目にはジェフリー警備隊長の瞳孔が揺れた様に見えた。そして、その後ろの頭の中で何か黒い影が渦巻いていた。一瞬の間の後、王子と不審な騎士を見ていた令嬢達の間から5人の騎士達が進み出た。その太腿と両肩に、強い力を振るう前兆を見たキアラは、その5人を暗殺者と判断した。令嬢達の間から一歩踏み出した騎士達は、二歩目で全員、顔を下にして転倒した。バタバタと音を立てて倒れる騎士達に、令嬢達から悲鳴が上がった。そのままもがく事も出来ない騎士達は、声一つ上げないまま何とか体を動かそうと体を震わせたが、5人共動けなかった。


 ランバートがキアラに声をかけた。

「お前か?」

「暗殺者だからね」

「どうして分かる?不審者を取り押さえる為に出て来たんじゃないのか?」

「馬鹿だねあんた。ステップで戦闘態勢なのが分かんないのかい」

「たった一歩で分かるか!」

ふう、とキアラは溜息を吐いた。

「あんたにとって他人の命はただの数字なのかもしれないが、あんたの命はあんたにとって数字じゃなくて大事な命だろ。自分で責任取って守ってみろよ。そうすりゃ死に物狂いになるから見分けられるだろうよ」

ランバートははっとした。政治家としての自分は、何かの犠牲者を数字で見て、重要性を測る。一方、騎士として働く時の自分は、市井の人々の苦情も一つ一つ聞いて対応しようと考える。現場の人間としては一人一人が大切な市民だからだ。それが政治の観点では、数字の大小で、悪く言えば見捨てる。それは言い訳に感じていた。この娘にはそれがなく、手の届く全ての人を救おうとしているのではないか…それがこの娘を見て苛立つ自分の心の正体ではないか。自分には出来ない事をやる人物。それが自分より年下の少女である事に、自分は劣等感を抱いているのではないのか。


「それはともかく、そこの副官、警備隊長を逮捕しなさい」

ジェフリー隊長はすぐ反応した。

「何を言う!今は現場で指示を出さないといけないのに!」

「そう。王子の命令に即反応しないといけないのに反応しなかった。こいつらとグルで、このまま暗殺を続けるか取り押さえる方にまわるか逡巡したんだろ?その間に仲間が暗殺を続行したんだ」

ジェフリー隊長の横の副官はランバートを見た。少なくとも令嬢の指示では隊長を逮捕出来ない。ランバートはすぐ指示を出した。

「グレッグ、ジェフリーを逮捕しろ。部下を指揮して暗殺者一味を取り押さえろ」

キアラにはジェフリーの頭の中の暗雲が蠢いたように見えた。

「副官!そいつの口に何か突っ込んで!奥歯に毒が仕込んである!」

もちろん、その声を聞いてジェフリーは奥歯を噛みしめ、毒を口内に沁み出させた。ぐはっ、とジェフリーは吐血した。


 あ、とキアラは油断に気づいた。暗殺者は全員、毒を仕込んである…

「ごめん、失敗した!」

ランバートは尋ねた。

「何をだ!?」

「全員毒を仕込んでる。阻止出来たのは3人だけだった」

暗殺者のうち、転んでいる5人中3人は吐血して痙攣していた。

突きの体制のままフリーズしている騎士と倒れている二人は口を盛んに動かしているが、目的は果たせない様だった。ランバートにはキアラが何をしているか分からなかった。彼はキアラの異能を強化魔法と思っていたんだ。

「何をした!?」

「だから、奥歯を噛みしめるのを阻止しているだけだよ」

「どうやって!?」

「邪魔しているだけだよ。それより、早く取り押さえてくれないかな?いつまでも拘束出来ないよ」

キアラも風魔法をこんなに一遍に継続して使った事が無かったから、いつまで保つのか分からなかった。

「グレッグ、まずこの剣を構えてる奴を拘束しろ!」

 か弱い令嬢がフォークで騎士の剣を止める不思議。蝙蝠で同じ説明を何度もした失敗から、ここでは説明しませんが、後で簡単に説明があります。明日はお休み、日曜にクリスティンの更新、こちらの更新は月曜になります。


 今になって土筆が出てきた様です。普通は春分の日の前の週くらいに出てると思うのですが。まあとりあえず人里にも春が来た様です。


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