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3−1 花見のお茶会 (1)

 王城の庭園に未成年の少女達が集められる、花見の茶会の日となった。フォーウッド子爵はランバート殿下から直に招待状を渡されたので、夫人としては出席以外の回答は出来なかった。そうして馬車にてアメリア夫人とキアラは王城に着いた。

「あなたにとっては二度目の王城でしょうけど、正門から入るのは初めてよね?」

「そうですね、前回は裏に回りました」

「成人までに何回か来ることになるでしょうし、成人後は夜会に出席する事もあるでしょう。練習だと思って過ごしてね」

異能以外に取柄の無い自分がそうそう王城に来る事になるかは懐疑的だったが、養母がそう言うのなら素直に頷こうと思った。

「そうですね。良い経験と思って過ごします」


「あちらにマナーズ侯爵夫人とご息女がいらっしゃるわ。ジンジャー商会の本拠地で有名な領地だから、ご挨拶しておくのも良いでしょう。行きましょう」

「はい」

ジンジャー商会は名前の通り、生姜の独占買い入れをしている商会だ。その他、港湾都市でも大きな倉庫を持っていた筈だ。

「あら、アメリア夫人、お久しぶりね。もうお嬢さん方は全員結婚なされたと思っていたのだけれど?」

「ご無沙汰しております。シェリー夫人。縁あって娘を迎えたものですから、久しぶりにお城の茶会に参りましたの。こちら、娘となったキアラです」

キアラとしては頭を下げるしか無かった。発言の許可が下りなかったからだ。

「そう。お孫さんが大きくなるまではそういうお嬢さんを育てるのも良いかもしれないわね」

そう言ってシェリー・マナーズはキアラの発言許可はおろか、娘の紹介すらしなかった。黒髪の貧相な養女に縁を結ぶつもりは無い様だ。離れた後で、アメリア夫人がマナーズ母娘の説明をしてくれた。

「まあ、ああいう人だから。マナーズ候もシェリー夫人も、横に控えていた金髪のお嬢さんのドロシー嬢も、あちらは興味が無い様だけれどこちらがないがしろにしたら激怒するでしょうから、気を付けてね」

要注意人物か。そういう事で会わせたなら納得だ。

「そうですね、気を付けます」

「ジンジャー商会は知っている?」

「確か港湾都市にも倉庫があったと思います」

「一番大きな商会だからね。貴族向けの輸入品は手広く扱っているわ。経済力なら下位貴族を上回るから、気を付けた方が良いわね」

「はい、覚えておきます」

ふふん、貧乏人の怨敵と言う訳だ。ジンジャー商会やマナーズ家の人間を夜道で見つけたら、膝の後ろを蹴っ飛ばして逃げてやる。


 アメリア夫人はヒューム子爵家のフランシス夫人を見つけ、挨拶した。

「フランシス夫人、この間はお茶会にいらしてくださってありがとう」

「あら、アメリア夫人、こちらこそお誘い頂きありがとう。今日はキアラさんも連れて来たのね」

「王城を少しでも見せてあげようと思ってね」

ヒューム家の令嬢、エレナ嬢はキアラを見て会釈をしてくれた。キアラも会釈で返した。

「娘はキアラ嬢と仲が良くなった様ね。二人でしばらくお花を見ていて」

そうして親同士で、子供には聞かれたくない話でもする様だ。

「キアラ、じゃあ友達を紹介するわ。伯爵家のご令嬢だけれど、私と同い年で下位貴族の娘にも気兼ねなく付き合ってくれる良い娘なの」

「はい、それなら是非お願いします」


 そうしてエレナはくすみ気味の金髪をした令嬢を紹介してくれた。

「パトリシア・コベントリーと言います。パティと呼んでね」

「キアラ・フォーウッドと申します。よろしくお願いします」

パティはエレナから事前に聞いていたらしい。キアラが養女である事には言い及ばずに話を進めた。

「今度は是非、家に来てね。もう少しすると春の木々が花開く頃だから」

「ご招待頂ければ、母に頼んで是非伺わせて頂きます」

「キアラは何に興味があるの?家の蔵書は多いから、気になる調べものがあったら一緒に調べましょう」

「ありがとうございます。今は刺繍を練習しています」

「刺繍ね!私、幼い頃から鳥の刺繍が好きで、今は絵画なども集めているの。興味があったら見に来て頂戴」

鳥か~。小鳥ならともかく、大きい鳥が出てくると蝙蝠先輩が近寄らないかもしれないな~。

「綺麗な鳥の絵があるなら見たいですね」

「図鑑があるの。今度一緒に見ましょうね」

「はい、お願いします」

パティは気安い性格なのか、初対面のキアラにもきさくに喋ってくれたが、その調子で誰にでも喋るから、友人は多いらしい。次々と友人が入れ替わりに寄ってくるので、外様のキアラとしては弾き出されてしまった。


 見るとスイーツが並んだテーブルがある。焼き菓子だけでなく、何かを塗った菓子もあるので、何だろう、と興味を引いたのでそちらに向かう事にした。

「お取り分けします」

メイドが話しかけてくれるので、何かを塗りたくったケーキをお願いした。何となく緊張が解れてくると、何か気になる空気が流れている。誰かが誰かを見つめる視線だ。勿論、愛とか恋とかの視線じゃない。害意が乗った視線だ。取り分けてくれた菓子の皿に刺そうと思ったフォークを持ったまま、キアラは視線の流れを追った。人影の向こうの騎士は、普通に歩いているフリをして太腿や肩に力が集まっているのを感じる。明らかに殺る気を抱いた状態だ。


 視線の先には、ご令嬢達に向かい、騎士の方には背を向けた高貴な服を着た男がいた。見慣れた体格の男、ランバート王子だ。鈍いな。とは言え、港湾都市では街娼達を救う手配をしてもらった恩がある。仕方が無い。


 空気を自分の前後に流して、横向きに流される様に移動する。その速度で動く際の予備動作が無いキアラを、周囲の人間は目で追いかける事が出来なかった。問題の騎士の進む速度が少し早くなった。剣を刺した時に勢いが加わり、貫通性を高めるためだろう。抜剣した騎士の、突きの先端にフォークを回り込ませる。周囲の誰かが声を上げる事もないまま、王子と1ft程の距離で突きを止めた姿勢で剣を構える騎士と、その前にフォークを構えて阻止するキアラがやはり止まっていた。

 まあ、相手が凄く強ければ(聖魔法の解析で)分かるキアラだから、そんなに深刻な相手じゃないんですが。明日に続きます。昨日、第三王子の方で間違った事を書いてましたので訂正済ですが、一応書くと、次の第三王子の更新は日曜です。

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目にも止まらぬ動きとフォーク捌き…タツジン!
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