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2−11 令嬢とのお茶会

 ランバート王子にフォーウッド子爵が漸く良い報告が出来る様になった。

「キアラは工場労働者であった時の友人をメイドに付けた事で緊張が解けた様です。後は他家の令嬢とのお茶会を開いて貴族付き合いに慣れさせていく予定です」

ランバートも良い報告で気を良くして、逆に気配りが出来る様になった。

「そうだな。今更急いでも仕方がない。令嬢として知らしめてから、少しずつアカデミーでの調査を進めた方が、異能者として疑われる事も少ないかもしれない。二・三回茶会に出てから調査を始めよう」

それを聞いたコーデリアが提案した。

「それでは、お城で開かれる花見の茶会に招待したらどうでしょう。彼女の王家に対する警戒心も減らせるかもしれません」

キアラが王家に対して警戒心があるとしたら、ランバートの一件である。一瞬ランバートの眉間に皺が寄ったが、溜息を吐いて肯定した。

「私も出席するから、少しは愛想でも振り撒くか」

花見の夜会は成人が出席するが、茶会は未成年の少女達を集めて行う。ランバートが未成年の少女達を集める花見の茶会に出席するのは、彼がまだ婚約者が決まっていない為に、多くの女性と親睦を深める意味があった。だからフォーウッド子爵もケント・ブルックス超常能力分室室長もコーデリアもこの言葉に対する発言は躊躇われた。

「大丈夫だ!女達には表面的な話しかしないし、キアラにも世間話しかしない!」

それで愛想を振舞くと言えるのか、三人は増々返す言葉が無かった。


 フォーウッド子爵家のお茶会に、領地が近い男爵家であるウォレス男爵夫人と息女、デイビー男爵夫人と息女、そして領地は少し離れているがアメリア夫人と親しいヒューム子爵夫人と息女が呼ばれた。母親達の紹介ではロレッタ・ウォレスとプリシラ・デイビーがキアラと同じ13才、エレナ・ヒュームが一つ上の14才だった。


 母親同士の話があるからと、子供達は別のテーブルでお茶を飲む事になった。

「それでね、トレファス商会の新しいパイをパパが買って来てくれたの」

「家ではブレイ商店の古臭いクッキーばっかりで、流行りの商会のスイーツは全然出てこないのよ」

ロレッタとプリシラは同い年で親しいらしく、二人でスイーツの事ばかり話している。フォーウッド家で主催している茶会だから本来は私が三人をもてなさないといけない筈だが、この二人は私を無視して喋り始めて止まらない。こいつらの態度はつまり、養女でしかない私を同格以上の貴族と見做さないという事なのだろう。仕方がない、行儀よく座っていながら視線は木々に行っているエレナ嬢をもてなそうか。

「エレナ様のお家のヒューム家は西の領地と聞きましたが、よく行かれているのですか?」

14才のエレナは社交デビューの16才まで後2年だから、領地の事なども勉強していたらしい。この話題にはきはきと応えた。

「ええ、王都で育ったけれど、10才からは毎年夏には領地で過ごしています。

領地の館の近くに川が流れていて、その向こう側に広がる農地が緑でとても美しいの」

「それは灌漑を有効に使って農業生産を高められていると言う事でしょうか?」

灌漑については詳細を知らないらしく、エレナは少し口籠った。

「川の水を利用しているとは聞いているけど、御免なさい。詳しくは知らないの」

「お気を悪くしたなら申し訳ありません。ただ、大都市では物価が高く、地方では農業製品は買い叩かれており、地方の領地の経済を何とかしないと将来立ち行かなくなると思うんです。だから、ヒューム家では河川の利用をどうしているか興味があったのです」

「上流からは糸が運ばれてくるとは聞いた事があるけれど、我が領からは果実を川を使って運んでいると聞いたことはあるわ」

「川があるから果樹園が多いと噂されていますね」

「そうね。領地の南の方には果樹園が多いと聞いているわ。実際には果樹園には行った事がないのだけど」

「下流へ輸送しているという事は、商品としては高価に売れるという事でしょうか?」

「そうね。家の領地もはっきり言うと田舎だから、麦は年々価格が下がっている様なの。だから、川の下流では取れない果物の販売で領政を潤わせているとは聞いているわ。それにしてもキアラさんは勉強家なのね」

「いえ、縁あって養女となったものですから、せめて色々お役に立ちたいと考えているだけで、まだまだ勉強不足なんです」

縁あって、でロレッタとプリシラが興味を持った様だ。いい加減、王都の流行りの話には飽きていた様だ。

「縁って言うけど、あなたは子爵と血縁があるの?それとも子爵ご子息の?」

13才にして下世話な話に興味がある様だ。

「いえ、縁と言っても血縁ではなくて、本当に奇縁があってお世話になる事になっただけです」

「な~んだ、もっとスキャンダルな話題かと思ったわ」

男爵家の息女達が子爵家に招かれてその養女とは言え息女にこの態度はないだろう、とエレナは顔を顰めたが、ロレッタとプリシラは全く気にしなかった。


 エレナはキアラを誘う事にした。

「キアラさん、よろしければ私にお庭を案内して下さらないかしら?」

「ええ、良いですよ」

そう言った後、キアラはロレッタとプリシラに向かって言った。

「お二人はどうします?」

「遠慮しま~す」「興味ないです」

やはりエレナは顔を顰めたが、キアラには予想された事だから気にしなかった。二人から離れてエレナはキアラに告げた。

「ごめんなさいね、貴族の悪い面を見せた様で、二家に代わって謝罪するわ」

「ありがとうございます。でも、仕方が無いとも思っていますので、気にしません」

「本当はお家の名誉の為には気にしないのも問題なんだけど、今は知人を増やす方が大事ね。今度どこかで一緒になった時には知人を紹介するからね」

「ありがとうございます。色々お話を聞きたいところなので、ご友人を紹介して頂ければ嬉しいです」

「ええ。それにしても、あの二人は貴族の悪い例だから、そういう人と困った事になったら言ってね。男爵家だと若干教育が行き届かないところがある、という例だから、真似しない様にね」

「真似は無理ですよ。今は知人を増やしたいから無駄に敵も作れないし、日々勉強だと思っています」

「そうよね~。感情任せに配慮無い言動を続ければ、当然敵だらけになるのは貴族なら一番気にしていないといけないのに。でもああいう人も多いから、そういう人の集まりには気を付けないといけないわね」

「気を付けます」

そんな事は言われるまでもない。貴族は権力で下の立場の者を抑圧し、商人は財力で貧者から搾り取り、暴力組織は暴力で弱者を踏みにじる。キアラが一番良く知っている事だ。

 投稿が遅くなり申し訳ありませんでした。なろうサイトの通信障害とやらのお陰でログイン出来なかったんです。


 明日はクリスティンの更新です。こちらの更新は木曜に。

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