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2−10 落ち着く先

「キアラ様と聖女様は抱き合い、キアラ様は涙を流していた様です。聖女様とどの様なお話をしていたのかは分かりません」

フォーウッド子爵家に戻って、キアラ付きの侍女ヘイゼルはアシュリー家でのキアラの様子をアメリア夫人に報告した。

「そう…もう精神は大人な彼女なら、涙を堪える事くらいは出来るでしょうけど…堪え切れずに溢れる前に、せめて家で精神を落ち着かせられるのなら良いのだけれど…少し準備不足だけど、会わせましょうね」

「私が力不足なばかりに、申し訳ありません」

「あなたは良くやってくれているわ。ただ、替えの利かない物が誰にでもあるから」


 キアラはアメリア夫人の個室に呼ばれて入室した。

「あなた付きのメイドを増やします。新人で教育不足だから失礼な事もあるかと思うけど、暫くは大目に見てあげて。それじゃあ、挨拶をして」

頭を下げていた小柄な少女は顔を上げて挨拶の言葉を口にした。その顔はキアラの見慣れた顔だった。

「ケイと申します。これからよろしくお願いします」

キアラは走り寄って、ケイの両肩を両手で掴んだ。

「ケイ!あなたも王都に来たのね!?良かった!心配だったのよ」

ケイは戸惑いながら、多分教育された通りの応対をした。

「以前は兎も角、今の私はお嬢様のメイドです。使用人としてお話下さい」

キアラの顔から血の気が失せた。つまり、この娘はキアラを慰める為の道具として連れてこられたのではないか…

「ご、ごめんなさい!同じ労働者だったのに、こんな風に上と下に分けられたら辛いよね…私のせいで、ごめんなさい…」

ぽろぽろと涙を流し始めたキアラに対し、ケイは頭を大きく左右に振った。

「違う。あなたは最初から班長で、私は部下だった。だから、今もあなたが上で私が下でも変わらない。あなたのおかげで、あの何時解雇されて露頭に迷うか分からない場所から逃れられた。だから、とても感謝してる」

そんなキアラとケイの肩に、アメリア夫人が右と左のそれぞれの手をのせた。

「キアラもケイも、他人の目があるところでは貴族令嬢と使用人として振舞って頂戴。貴族と使用人はそう言うルールだからね。でも、二人だけで過ごす時は友人として話して良いから。キアラ、あなたも働いていたのだから、仕事の上での上下関係は守らないといけないのは分かるでしょう?」

「はい、すみません」

「謝る必要はないわ。あなたが毎日色々悩んでいる事の一つは、やっぱり友人の事もあると思ったのよ。だから呼び寄せて、多少辛いとは思うけど、どこに出しても恥ずかしくないメイドに教育しますから。キアラが虐めてここで働くのが嫌になったら、良い職場を紹介するから頑張ってね、ケイ」

「虐めたりしません!」

「頑張って他所から誘われる様なメイドになります」

「あ、ケイ、冷たい」

ケイの口が弧を描いた。


 3時のお茶の時間、アメリア夫人はキアラの部屋に来てお茶を飲むと、早々に退出した。

「キアラは刺繍の練習を暫くして頂戴ね。ケイも練習しながら、キアラが他所事をしていないか監視していてね」

アメリア夫人はそういう形で二人きりになる時間を作ってくれた。

「刺繍だと糸が太かったり、特殊なステッチをするから糸を引く力を上手く調整しないといけないけれど、ケイは刺繍は練習した?」

「ここに来てから少し練習したけど、あまり上手くはいってない」

「じゃあ、しっかり練習しようね」

「うん」

キアラがゆっくり針を進めていると、ケイは割とすいすい刺繍を進めていた。

(あ、ケイは北の農村の出身だから、太めの糸で織った布に太めの糸で縫うのに慣れているんじゃない?それで細い糸の布地だと皺が寄ってたんじゃないの?)

ケイの口が弧を描いた。

(む、刺繍なら班長に勝てると思ってるんだね!?ここは班長の威厳を見せてあげる)

そうして二人は互いの仕上がり具合を見ながら縫い進めたが…


やって来たアメリア夫人が呆れて言った。

「二人共、刺繍は主に布の端を飾るものなのに、ハンカチ全面に刺繍をしてどうするの?」

「ごめんなさい」「すみません」

二人は並んで頭を下げて上げられなかった。そんな二人の頭をアメリア夫人は両手で抱いた。

「キアラも、ずっと張りつめていた様だけど、やっぱり友人の事も気になっていたのね。そうじゃないかと思ったから、ケイを連れて来たのよ。こんな風にリラックスしてくれて嬉しいわ。ケイも、同僚と仕事をする間はしっかりやって欲しいけど、キアラと二人の時間は、お互い気の許せる人として付き合ってあげてね」

そうしてアメリア夫人は「お互いにプレゼントするつもりでハンカチに刺繍をしなさい」と課題を残して行った。


暫くしてアメリア夫人が様子を見に来ると…

「ケイ、枠を使って何でこんなに皺になるの?力の入れ過ぎよ」

ケイは只管頭を下げる事しか出来なかった。

「キアラは逆に引きが弱すぎるでしょ。糸がゆるゆるよ」

「ごめんなさい…」

そうして二人は刺繍をしたハンカチを交換した。

「ケイの私への思いはしわくちゃなんだね」

「キアラこそ私への思いはゆるゆるなんだ」

「そんな事無いよ!大事に思っているから!いつか結婚しようね!」

ケイは思いっきり嫌そうな顔をした。

「だから、ちゃんと男の人を口説いて」

「ケイが冷たい!」

淡泊そうな顔をして、ケイは王子様みたいな男の人との結婚を夢見ているのかもしれない。王子なんてそんな良いもんじゃないよ、現実は顔以外良いところなさそうだし。

 じゃあ話がこのまま緩くなるかと言うと、そんな事はなくて。明日も更新します。

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