表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/96

2−8 調査は進まず〜聖女からのお誘い

 コーデリアとしてはランバートを宥める必要を感じた。

「何をそんなに焦っているのよ」

「そもそも異能者としての聖女の王国側の管理担当となった俺に、聖女は蝙蝠女についても、キアラについても何も知らないの一点張りだ。あいつらが何を隠していて、その目的を知る必要があるだろ」

コーデリアは溜息を吐いた。

「異能者はほぼ全員が異能を隠しているじゃない。バケモノ扱いも嫌だし、道具として利用される事も嫌に決まってる。そういう気持ちを分からずに興味だけで接しても、相手が心を開いて何でも話してくれる訳が無いでしょ」

「それだけか?異能持ちだからって、王子と言う立場だけで何も出来ない俺を見下しているんじゃないのか!?」

コーデりアは口を開けて大きく息を吐いた。あきれた、と態度で示したんだ。

「坊やなりのプライドがあるのは分かるけど、そういうところが坊やだと言うのよ。相手が能力でしか相手を判断しないと思うのは、坊やが相手を能力でしか判断していないからでしょ。王子なんだから遜れとは言わないけど、坊やが相手に敬意を示さなければ、相手も敬意を持って接してくれる訳などないと知りなさい」

「俺に謙虚さがないから、それを教える為にこんな仕事をさせる様に父上に言われたのかよ」

「私は慣れない仕事だから手伝う様に言われただけよ。それで、今や二人となった異能者の管理を、どうやったら進められるか考えてる?焦って喚くだけなら最低で、話が進む訳ないわよ」

「だから早くキアラの話を聞きたいんじゃないか!」

「そこで、『異能者は自分の能力を隠したい』という特性が問題だと言っているんでしょ!フォーウッド子爵がまだ彼女が自分の家の子となっていないと言っているんだから、それを強行すると王都に逃げ場の無い彼女がどう動くか分からないでしょ。まず最悪の事態を避ける事を考えなさいよ」

そう言われて、ランバートは苛立ちを隠さずに机に頬杖をついた。


「他に焦る要素があるって事?」

ランバートはそっぽを向いて話し始めた。

「ここだけの話だぞ!元ポートランド伯も元代官も、人身売買の事など知らぬと言い張っているんだ。捜査が進まないと処分も出来ないし、奴隷を購入した貴族達は濡れ衣だと言い張っている。連中の多数派工作が進んでいるんだ。だから、早く証言が欲しい」

「それこそ、蝙蝠女と白状しないと言えない事じゃない。彼女が蝙蝠女の本人だとしても、それを口に出すのは最後の最後だろうし、彼女の証言があったって、当時は平民の女の証言なんて貴族達は無視するでしょうよ」

「それだって、証言を足掛かりに調査が進むかもしれないだろ!王都外を管轄とする第二騎士団は足踏み状態で各方面から圧力をかけられているんだ。騎士団としては情報が欲しいんだよ!」

「キアラが蝙蝠女だとしても、出てくるのは港湾都市の事だけでしょ。帳簿で売買先が分かるなら、その身辺調査を進めるしかないでしょ」

「目撃証言でもなければ貴族の領内なんて調べられる訳ないだろ!」

「坊やが在籍する第一騎士団の仕事じゃないんだから、そこまで焦る必要は無いでしょ?」

「知り合いが困っていたり批判されているのを見たら、何とかしたいと思うだろ!?」

「坊やが良い奴なのは分かったけど、それで他人に当たるなら嫌な奴と思われるだけよ」

「くそっ!」



 キアラ付きの侍女、ヘイゼルは子爵夫人アメリアに一日の報告をしている。

「本日もキアラ様は時間があると地理関係の本を広げたり、壁に向かって深刻な顔をしていらっしゃいました。あのお年であれほど悩んでいらっしゃる事を、私如きがお聞きしても充分な応対が出来そうにありません。誠に申し訳ありません」

「良いのよ。あなたは他人の事を思いやれる娘だからあの娘の担当にしたのだから、あなたに無理なら他の娘でも無理でしょう。あの人はまずあの娘の心が解れるのを待つべきと言ってくれているけど、殿下の督促があった様なのね。でも、だからと言ってあの娘に負担をかけるのは避けたいのだけれど…対策はあるけれど、もう少し時間が欲しいから、とりあえずあの娘の求める事には応えて頂戴ね」

「もちろんです。それでは失礼します」


 そんな翌日、キアラに手紙が届いた。アメリア夫人がキアラの部屋にまで持って来た。

「聖女様からのお手紙なんだけど、知り合い?問題がある様なら殿下に打ち上げて対応して頂くけれど」

「知り合い程度ですが…工場の学校に教師役の修道女達についていらっしゃった際に交流をした日があって、後は港湾都市を発つ前にもう一回お会いしただけです」

「そう、問題が無ければ良いんだけど。困った事になりそうなら、その前に相談してね?」

「はい。ありがとうございます」


『ご無沙汰していますね。王都に来てすぐには環境に慣れないからお呼びするのも申し訳ないと考えましたが、そろそろお会いしたいと思っています。都合の良い日を教えてください』

…聖女がいるからと言って、我らが上司が聖女から私に指示を出すとは思えない。顔を出さない相手なんだから。すると個人的な事か。


 聖女は大聖堂で治療魔法の指導を受け、その他の指導も受けていると聞く。港湾都市の聖堂上層部の処分がどうなったかを聞ければ今後の行動の助けになるが、私の正体が大聖堂に知れればどんな扱いをされるか分からない。蝙蝠は旧教にて排斥されていた動物なんだ。悪魔は蝙蝠の翼を持つとも言われる。その蝙蝠の翼をかって使っていた私を彼等がどう思うかは想像するまでもなく、港湾都市の聖堂の者達の反応が示している。聖女は私に好意的だったと思う…私の事は大聖堂には伝えずに港湾都市の聖堂関係者の処分状況だけ聞けるだろうか…もっと単純に、彼女の現状など世間話を出来れば良いのに。男のみならず女でも美少女の友人とは仲良くしたいのだ。

 コーデリアが王子に忌憚のない発言をするのはそういう訳で、国王が付けた助言者だからです。別に態度が悪い女性ではないのです。


 明日も更新しますが、まだしばらく蝙蝠先輩の出番がありません。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ