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2−7 調査は進まず

 教育スケジュールは礼儀優先の様だった。二日に二時間程の指導があった。一方、王国の地理、王都の構成、領地の特徴などは週二回だった。二日に一回は子爵夫人がお茶を飲みながら色々な話をしてくれ、二日に一回は夫人が刺繍を教えてくれた。運針には慣れているとは言え、刺繍はまた別だから、教えて貰えるのは嬉しかった。後から思えば、夫人にはかなり心配をかけていた様だ。そうは言っても、子爵と言うと最下級の貴族ではないし、夫妻の余裕のある立ち居振る舞いはやはり貧農の出には格が違って見えた。


「領地では灌漑を整備して農地からの収穫を安定させているが、私が子供の頃なら兎も角、今は商品作物を多く育てないと、領地収入が細まる一方だからね」

「小作農としては麦を作るだけで、その他の作物は家で食べるものしか作っていませんでした。やはりそれだけでは立ちいかなくなるのですね」

「そこは領主次第だけどね。ただ、侯爵領などの領都等で無い限り、ギルドから職人を呼び寄せる事は出来ないからね。どうしても農業生産の構成は考えざるを得ない」

「ギルドが地方に職人を派遣する条件は何ですか?」

「やはり既存のギルド構成員と競合しない程度の距離があり、その領地のみで消費出来る生産量で職人が生活出来る様な領地である事かな」

「すると本当に大貴族でないとギルドからの職人派遣は出来ないのですね」

「子爵領では無理だね。鉱山でもあって、そこで生産する事が合理的なら職人の派遣もしてくれるんだろうが」

そこで夫人が割り込んだ。

「さあ、二人共、領地の心配はまだ先で良いから、今のところはお茶にしましょう」

「ああ、そうしよう」


「無理をしている様ではないけれど、勉強に身を入れるより、すこしリラックスして欲しいと思うの」

「そうは言っても、あの娘なりの誠意かもしれないから、否定は出来ないだろう」

「でも、ホームっていうのは疲れを癒してリラックス出来るものなのだから、今のままでは心を休ませる事も出来ないと思うの」

「そうだな。殿下にはもう少し待って頂こう」


フォーウッド子爵はランバート王子に現状を報告し、異能調査は今少し待ってもらう様に依頼した。

「もう2週間も待っているんだ!異能調査もそうだが、港湾都市について聞き取りが必要なんだ!いい加減、キアラに協力させろ!」

「ですが、まだ彼女の心の中で我が家はホームとなっていません。ここで無理な聞き取りを行えば、彼女はどこかに逃げていく事もあるでしょう。彼女にそんな思いをさせたくないのです」

「いつまでも待てない!ケント、コーデリア、そうだろう!?」

ケント・ブルックスは王立科学アカデミーの自然研究室の分室である超常能力分室の室長であり、コーデリアはそこに所属する魔法師であった。そのケントは王子に応えた。

「異能はその持ち主にとって武器となりますが、一方で持て余す負担ともなります。それを人前で明らかにする事は多くの場合に過大なストレスであり、家から出られなくなった者もおります。まだ13才に過ぎないキアラ嬢にとっても負担でしかないでしょう。心の拠り所、身の置き所のない現状での調査の強行はむしろ逃亡の原因となる事を危惧致します。もう少しの猶予をお願い致します」


 コーデリアもケントと同意見だったが、それを口にする事が出来なかった。ランバートが机を叩いたからだ。

「子供の都合を優先して、国家の大事を疎かにしろと言うのか!優先順位を考えろ!」

一堂を睨むランバートに、涼しい顔でコーデリアが小さく挙手をした。

「何だ!?コーデリア!」

「失礼ですが、少しお時間を頂けますか?殿下にお話ししたい事がございます」

「だから言えと言っている!」

「茹ったばかりの料理は熱くて食べられませんので、少し醒ました方がよろしいかと存じます」

ランバートは力いっぱい机を叩いた。だが、コーデリアの諫言が今目の前にいる三人の総意だろう事も理解した。

「今日のところは待つが、来週までに改善しろ!下がって良い」


 フォーウッド子爵とケント分室長は下がったが、コーデリアは残った。

「まだ文句が言い足りないのか!?」

半目のコーデリアは思いっきり溜息を吐いた。

「坊やは経験不足なんだから、焦ると周囲の協力を失うわよ」

「経験不足だろうが二人の異能者を管理する責任者だ!仕事が進まない以上、督促するのは当然だろう!?」

「だから、怒鳴った相手がする仕事なんて信用出来る訳ないでしょ。良い仕事をさせたければ、相手をまず信用しなさい」

「それで仕事が進まないから督促していると言っているんだ!」

「恐怖政治がしたいの?」

ぐ、とランバートは言葉に詰まった。恐怖政治とは暴君のするものだ。一人の人間の能力には限界があるが、暴君は自分のエゴを世界中に押し付ける。必定、悪政になる。自覚なく暴君となる者は暗君で、自覚を持ち暴君となる者は国を亡ぼす者だ。ランバートは愚か者にも狂人にも成る気は無かった。

「一人の人間の言葉なら疑う事も必要だけど、違う立場の二人の人間の意見が一致しているのだから、そこは慣れた人に任せなさいよ。バカ王子と呼ばれたくなければ」

「もうバカ王子と思っているんだろう!?」

「思っているけど、まだ救い様が無いとまでは思ってないからアドバイスしているんでしょ。お姉さんやおじさん達の忠告くらい聞きなさい」

ランバートも半目になった。

「オジさんとオバさんの言う事も今回は聞いてやるよ」

「それはありがとうございます。でも、女性は一言で敵に回るから、言葉には気を付けなさい」

「ガキ扱いするからだ」

「そんな言葉で揶揄して喜んでるからガキだって言うのよ」

「それはどうも」

 ここで終わるとバートは嫌われそうですが、ちょっと時間切れなので続きは木曜に。明日はクリスティンの更新です。

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