表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/96

2−4 お城の夜

 王城の客間は広かった。貧農の食堂を兼ねる広間より広い部屋に、8人用ではないかと思われる大きな丸テーブルに椅子が二つだけ置いてあった。そして天蓋付きのベッドがあった。本来この部屋に案内される客人の格というのが偲ばれた。汚せないよ、ここにある物。


 私を案内して来た、美人だが無表情な侍女が今後の予定を知らせてくれた。

「直ぐにお召し物を変えさせて頂きます。その前に入浴をお手伝い致します。その後に夕食はこちらの部屋でお召し上がり頂きます。それでは、こちらにどうぞ」

隣の部屋に綺麗な浴槽が置いてあった。侍女より質素な服を着たメイドと思われる女達が桶で湯を運び込んで来た…貴族の様に体を洗われる様だ。服を剥がれて、浴槽に連れていかれるが…

「その、今着ていた服はどうなりますか?」

「こちらにいらっしゃる間は、お召し物はお城から提供されます。ですから、こちらは処分する様に申し付けられております」

…勿体ないが、客人をもてなすという事はこういう事なのだろう。従う事にする。体を他人に洗われるのは大分恥ずかしいものだが、メイド達は卑しい身分の者と蔑んでいる素振りなど見せずに丁寧に作業をしてくれる。洗い終わった時に、「ありがとう」とだけ告げる。


 初めて着る様なドレスを着せられ、部屋に戻ると侍女が本を数冊持って来た。

「夕飯まで時間がありますので、何かお読みになりますか?」

手に取って見ると、難しい文学作品、王国内の紀行もの、王都紹介の本とあったので、王都紹介の本を借りる事にした。

「御用があれば扉の外の立哨の者にお言付け下さい」

そう言って侍女は席を外した。


 本には王都の簡単な地図と簡単な説明文が並んでいた。このくらいでないと私程度の教育レベルの人間には読めないよ。3カ月しか教育を受けていないんだから。お城の紹介文では、細かい地図は載っていない。まあ機密だからね。今頃は貴族議会で議事を行い、宰相の来年度予算の質疑を行っているとの事。子爵とやらは明日は出席しないで大丈夫なのかな?


 お城の東には官邸街、南には上位貴族街、西には騎士団駐屯地があるとの事。子爵と言えば上位貴族では無いから、下位貴族街の方に家はあるのだろう。お城に近くないから圧迫感は無いかもしれない。一方、官邸街の城寄りには宰相府が、官邸街の北側には王立科学アカデミーがあるとの事。王立アカデミーは少し王城に近くないか?部屋からは外の様子は見えない。窓が無いから。この部屋の周囲の部屋、天井裏、床下には人の呼吸音は感じられない。逃げられない様に窓の無い、内部の部屋だが、監視らしき者は立哨の騎士だけの様だ。


 貴族街の東側に大聖堂があるとの事。やはり高い塔があるから、この影で近隣は時間が分かるという利点があるとの事。大聖堂は聖堂の上層部を罰したのだろうか。その結果を見れば大聖堂の体質も垣間見える筈だが。残念ながら私の耳には入ってこない。我らの上司も特別それを知らせようとはしない。それが何を意味するのかは、大聖堂の評判を聞いてみないと分からない。


 王都は四周を小山に囲まれている様な状態で、そこに陣地があるなら良いが、山を取られると危ない気がする。夜に飛んで出かけた場合、林に紛れれば王都内から目に付かなくなるから私には利点があるが。窓から眺めて確認したいが…あした養家で見れば良いか。


 夕飯は前菜とスープから入った。スープは生ぬるかったが、前菜はちゃんと葉野菜が出た。この季節に取れる葉野菜を私は知らなかった。だからこの味がまともなのかどうかも良く分からない。水気はあるから変なものではないだろう。王都の近くの農家は娘を間引く様な経済状態では無いと良いが…そして柔らかいパンと肉料理が出た。料理は生ぬるかったが肉が原型を留めている煮物だ。寮の食堂では野菜より遥かに小さい塊しか入っていなかったんだ。格差、というものを感じる。そりゃそうだ。ここの客間で食事を取る人間は普通は貴族なんだ。貧農の娘がここで食事を取る事など普通は無いだろう…まあ明日から貴族になるかもしれないんだが。こんな貧相な女を養女にしたいという貴族がいるのだろうか。王家が斡旋したなら断れない事は確かだが。


 とりあえずこちらから嫌われる原因を作る事が無い様にしよう。押し付けられた女が誠意の無い人間だったらそれこそ大迷惑だろう。その様に考えていたら、食後のお茶まで出た。食事はメイドが運んできたが、お茶は侍女が入れてくれた。見るからに貧しい家育ちの私に手間をかけさせて申し訳が無い。「ありがとう」と謝意を告げておく。


 問題は天蓋付きのベッドだった。柔らかすぎて眠れない…ここまで地面側が柔らかいと、普段の姿勢と違って落ち着かないんだ。うつらうつらしてもなにか落ち着かず目が覚める。本当に申し訳ないが、明日引き取ってくれる家のベッドもこれなら腰の部分になにか敷いて貰おう。


 そういう事で、王都での初日は身分不相応な対応の為に寝不足の夜を過ごす事になった。じゃあ、港湾都市の高台の途中の大岩に寝る方が良いかと言えば嫌だが。石は流石に硬すぎる。

 お城で働く人々は特別おかしくない様です。


 在宅勤務で時間があったので、明日の分までは書けました。問題なく明日も更新します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ