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2−3 王都への道

 翌朝、部屋にて朝食を取った後、王都へ向けて発つ事になった。コーデリアについて馬車乗り場に行くと、一際大きな馬車と荷馬車が前後に並んでいる。白塗りの大きな馬車は、鷲の様な鳥の紋章が付いている…


 本能的に危険を悟って、コーデリアから離れて後ろの荷馬車に乗ろうとするが、コーデリアに腕を掴まれた。

「あなたはこっちよ」

嫌そうに足を動かそうとしない私を強引に引っ張っていく。例によって馬車の前の席の奥に乗せられる。目の前にはいつもの騎士服ではなく、白地に金のモールの付いた服を着ている、通称バートが座っている。あちゃー、こいつこれで多分王家の人間だ。


 この国は王太子がエドワード、第二王子がハロルド、第三王子がランバートだった筈だ。バートが愛称の男となると…この乱暴な男が第三王子らしい。うわ、王家への期待がほぼゼロになったよ。その気持ちが顔に出ていたらしい。正面に座るランバートの顔が険しくなった。知った事か。思わず横の壁側を向く。


 行程ではずっと壁を見ていた。目は壁を見ていたが、意識は外に飛んでいた。風の流れを感じていたんだ。何故なら、遠くを二匹の蝙蝠が飛んでいたからだ。一応、我らが上司は蝙蝠先輩達を警戒の為に飛ばしてくれているらしい。何らかの危険を知らせる振舞いが無いか、蝙蝠の飛び方に意識を集中する。途中で別の二匹が合流したところでずっと飛んでいた二匹が戻って行く。それぞれの蝙蝠の縄張りの中で警戒してくれているらしい。


 これは蝙蝠先輩方に申し訳がない。この馬車に何かあったら自分で何とかしよう…とも思うが、一応馬車の前後に4人ずつ騎乗した護衛が走っている。まあ公式に王子を守る任務を受ける騎士達だ、何かあっても私のやる事など無いだろう。


 そうして中継地点で休みを取る為に止まると、コーデリアが声をかけて来た。

「まだ機嫌を直していないの?」

うん、機嫌?ああ、騙して王子と一緒に王都に連れていかれる事か。

「それ、今考えてなかった」

「そう、ずっとそっぽ向いてたじゃない?」

「1時間も機嫌を損ねていられる人間なんていないよ。機嫌悪いとそれだけで疲れちゃうもん」

それを聞いたランバートがこめかみに青筋を立てた。この男は1時間以上、ずっとしかめっ面をしていたんだ。


 そうしてこの後の行程でも、そっぽを向くキアラとその正面でしかめっ面を続けるランバートに呆れているコーデリア、何かを脳内で諳んじているらしいエイブが黙って座っていた。王子を含む一行にも係わらず、馬車は基本的には騎士団の駐屯地を中継地とし、それが無い場合は貴族の館に泊まったが、この場合は王子が夕飯に呼ばれるだけで歓迎式典等は無かった。お忍びだからだ。そして、式典があっても貧農の子供であるキアラは呼ばれなかっただろうが。


 休みなく七日を走り続けた馬車はやがて大きな川を渡った。キアラの魔法知覚にも大きな市街地である事を感じた。コーデリアを見ると、頷いた。

「王都の外縁部に入ったわ。次に降りる場所は王城になるでしょう」

げ、城に降りるのか。いきなり尋問とかはないのだろうが、最低層の人間には過ごし辛い場所には違いない。


 やがて降ろされた吊り橋を使って堀を渡った馬車は、しかし正門へ向かう大通りから外れて細い道に入った。城にも勝手口があるのかな、とぼんやりキアラは思っていた。しかし、裏口らしい馬車乗り場には、騎士らしき男達が乗った幌馬車が止まっていた。王子の乗る馬車に何かあった場合の隠れた護衛という訳だろう。その横に乗りつけた馬車を、コーデリアに手を引かれて降車する。お忍びとは言え、十人程が王子の出迎えをする。

「既に待機しております」

「分かった。案内しろ」


 一行は会議室に歩いて行った。後ろの出入口から入った一行に対して、前の出入口付近に立っていた中年男が頭を下げた。

「良い。頭を上げよ。進行を頼む」

「ケント・ブルックス、王立科学アカデミーの自然研究室、その分室である超常能力分室の室長を務めております。分室の受け入れ体制を説明します」

入室した一行は着席し、その間にケントは壁のコルク板に紙をピンで止めた。

「当室としては、一般的に異能者の受け入れについては、まず過去の異能者の例をいくつか学んで頂き、しかる後に異能についての実演をお願いするようにしております。多くの異能者は出身地から王都に初めて来るものですから、精神的に落ち着く期間をおいているという事です。その後、該当する異能者の過去の能力、育成について学んで頂き、類例があればなぞる様に訓練を行います。詳細についてはご本人の精神状態に鑑みて設定し、ご本人と相談しながら進めて行く事になります」

『ご本人』という言い方に何を感じれば良いのか。最初だけ優遇して後から奴隷労働になるのではないかという疑問はあるが…ここで一行についてきた来た侍従がランバート王子に紙片を手渡した。それを見て王子は声を上げた。

「キアラ、今の内容に質問はあるか?」

(その日になって言って貰わないと何をやるのか覚えている訳ないよ)

とキアラは思ったし、王子の前とそうじゃない時で説明が変わるのはよくある事だろう。

「特にありません」

「では、お前個人の扱いについて説明する。本日は王城の客間にて一泊してもらう。一晩落ち着いてから、明日午前10時に養子縁組先であるフォーウッド子爵夫妻と会ってもらう。そこで問題が無ければそのままフォーウッド家に入ってもらう。質問はあるか?」

いきなり養子縁組か。貧農一家とは縁を切って、新しい人生を始めろという事か。情報を集めてから逃げるかここに落ち着くか決めようと思ったが、場合によっては迷惑をかけたくない様な人に迷惑をかけてしまう。まあ足枷になるか後ろ足で砂をかけて逃げたい様な毒親かは会ってみないと分からない。

「特にありません」

 明日はクリスティンの更新なんですが…頑張って書きます。こちらは木曜更新になります。

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