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「卑屈症候群」*途中詩葉視点


 試しに負の感情を出してみよう。どうしようか?これまでの人生であった嫌なことを浮かべるだけで良いかな。じゃあ――――


 脳裏に浮かんだのは、両親との死別、そしてそれ以降の人生全て。それだけだった。


 「――――――っ」


 その時、真っ黒なマグマみたいなのが、中からぶわーーーって沸いて、湧き上がって………それは、ただのマグマじゃなくて、何か概念的なもの―――そう、「力」が


 「――――――」


 バフォッと爆風が生じた。僕は自身の体に目を落とす。


 「これ、は―――――っ」


 見慣れていた頼りない手足が、血管浮き出たぶっとい巨腕と巨脚へと化けていた。シャツをめくると腹筋が六つに綺麗に割れていて、触ると弾力性ある分厚い肉に包まれていた。首も凄く太くなっていて、触れてる手指もごつくなっていた。

 まるでぶっとい筋肉の鎧に包まれてるようで、自分の身体とは思えない、異形な程桁外れのガタイだ。

 何よりも―――――


 「す、ごい――――力が、溢れてる……!

 は、ははは――――っ、すげぇ!!」


 軽くこれまでの人生を振り返っただけで、これだけのパワーアップか。それだけ、僕の人生が悲惨なものだってことなのかな。



 『挑戦者の第一の関門の達成を確認』


 『第二の関門に移ります』


 頭の中にあの機械的な声が響いた。これで第一の関門がクリア?「己の心の闇と向き合え」って言ってたけど、こういうので良かったのだろうか。まあゲームマスター?が合格って言ったのだから、これで良かったんだろう。


 「ぶはっ、クエストを始めてすぐ死ぬつもりだったのによォ、何かクリアしちまったぜ。

 それに今はもう、死にたいって気が全然無ェんだよな。

 むしろ、もう少し生きてみたいって思ってんだ」


 随分な心境の変化だ。あとこの姿でいる間は口調も変わるようになってる。

 自分の心の闇と向き合い、触れて、一体化して、新しい力を手にしたことで生じたものであることは、言うまでもない。


 「ははは………よし。じゃあさっそく、次の関門に進ませろよ―――」



 『第二の関門 今の己を超え続けてみせよ』


 催促した矢先に、そんなアナウンスが脳内に響いた。今の己を超え続けろ?これまた抽象的な表現だな。


 「――って、うわ!?何か出てきやがった…っ」


 第二の関門がコールされてから数秒後、目の前にさっきと同じ黒い靄がまた出てきた。それは徐々に人の姿を形づくっていき、筋骨隆々の人間となって現れた。

 頭部には顔が存在せず、全身が靄みたいに渦巻いていて、気味が悪いビジュアルだ。


 「まさかこれ、今の僕をそっくりそのまま再現した姿なのか?今の僕、こんなゴツイ体してんのかよ………」


 目の前の今の自分を再現した真っ黒人間の体格に唖然としていると、そいつは突然走って、僕との距離を詰めてきた。


 『今の己を超え続けてみせよ』


 第二の関門を口に出しながら(口なんてどこにも見当たらないけど)、真っ黒人間は僕の前で拳を振り上げて、そのままブンと振り下ろしてきた。僕は咄嗟に手にしてる剣で防ぐ。ガン!と鈍い音が鳴った。


 うそだろ?刃の方で防いだのに、どうして奴の拳は平気なんだよ?血の一滴も流してないとか、こいつの体は金属で出来てるのか?いや、これが今の僕の身体ってことなのか?だとしたら、とんでもないな…!


 相手はパンチ、キックと次々攻撃を繰り出してくる。僕は剣でそれらを防いだり弾いたりする。そんな攻防がしばらくの間ずっと続いた。

打ち合って分かったのが、相手の力は僕と同じだということ。攻撃の速度も、足の素早さも。恐らく身体の運動能力の何もかもが僕と一致している。

 第二の関門で戦う相手は、挑戦者である僕の全てをトレースしているようだ。つまり体力や戦闘能力に優劣が全くないということだ。


 「これはこれで、苦戦させられるやつだな―――――」


 ―――

 ――――

 ―――――

 

 十分にも及ぶ互角の戦いを繰り広げた末、僕の剣の一閃が、偽物の僕を切り裂いた。相手は人の形を崩して、虚空に溶けて消えていった。


 「はぁ、はぁ、はぁ……。倒した、のか」


 尻もちをついて呼吸を整える。これで第二の関門は達成したのだろうか。

 いや、まて…。この関門のタイトルは確か、今の己を、超え続けてみせよ、だったな。……………超え、《《続けて》》―――?


 とんでもないことに気付いたその時、それが答えだと言わんばかりに、目の前に真っ黒い偽物の僕が再び現れた……!


 「やっぱりな……そういうことだと思ったぜ。もう一つ確認したいんだが、僕の予想が正しけりゃあ、今現れた偽の僕って、一人目を倒した時の僕と同じ強さってことになるのか――?」

 「……………」


 偽者は僕との距離を詰めると、これが答えだと言わんばかりに、強力な一撃を振るってきた―――!


 「分かったよ、やってやるよ!何度でも自分を超えてやるよぉぉぉおおーー!!」


 僕は己自身を打倒すべく、再び剣を振るった。ところで、僕はあと何度己を超えなければならねーんだ――――――――?








 放課後。学校から家に帰宅して、制服から少し凝った衣装に着替えを済ませると、また家を出る。行き先は、探索者が集う施設。

 私…牧瀬詩葉まきせうたはが探索者ギルド北関東支部の館の扉を開けて、「皆さんお疲れ様でーす!」と挨拶の声を上げると、一斉に返事が返ってきた。

 

 「詩葉ちゃーん!」「おつかれー!」「今日もかわいいねーー!」


 自分で言うのも何だが、私はここのギルドではもちろんのこと、日本全国でも有名人である。そんな私が今みたいに挨拶すれば、いつもいっぱい挨拶を返してくれる。

 探索者になりたての頃、挨拶してもほとんど返事はこなかったあの時と今とは大違いだ。


 「詩葉ちゃんこんにちは~!その衣装ってことは、今日の探索は配信するんだね?」

 「あ、長下部さん。はい、今日は約束していた人たちとパーティを組んで、Bランクのダンジョンを攻略するつもりです」

 「へぇ~~そうなんだ?言ってくれれば僕も協力してあげれたのになー!また詩葉ちゃんと一緒に探索したいから、今度また誘ってくれ。それとどこかの日で一緒に食事なんかもさ?」

 「あ、はい…。またどこかで、お誘いしますね……」


 私はどうにか笑顔のまま、彼との会話を流して、その場を離れる。顔は引きつってなかっただろうか。

 今話しかけてきた先輩探索者…長下部左仁おさかべさじんは、いつも私にあんな感じで言い寄ってくる。彼が私に対し下心を抱いているのが、言葉の節々から丸分かりだ。

 前に探索活動を一緒した時なんかも、あからさまな“ええカッコ”私に見せつけアピールきて、反応に困った。おまけにプライベートでも、彼女をとっかえひっかえしているらしく(SNS情報)、女癖が悪いと周りに知られている。

 そして何より、「あの人」をいつも酷く馬鹿にしていて、………。とにかく、私はこの男のことが苦手なのだ。


 今日のパーティメンバーの待ち合わせをしていると、他の先輩探索者さんに話しかけられる。


 「詩葉ちゃん、最近上がった詩葉ちゃんの切り抜き動画、けっさくだったぜ!?霧雨のやつ、ぐうの音も出ないくらいだんまりにさせてたじゃねーか?」

 「あー……あの動画、切り抜きあったんですね。知らなかったです」


 嘘、本当は既に確認している。あれは切り抜きチャンネルの方が勝手に作った動画だ。ていうか私はあの時、あの人……霧雨先輩を貶めるつもりであんなことを言ったわけじゃない。なのに、何故か先輩が悪者っぽくされてて、私が先輩を成敗した感じになってて………。あんな動画、私はつくってほしいなんて言ってない。


 「そういやその霧雨のやつ、最近見かけなくなったよな?誰かあいつを見た奴いるか?」

 「俺は見てないな」「俺も。あの最低級、とうとう引退したのか?」


 私もここ数日、霧雨先輩の姿は見ていない。先日、初心者向けのエリアを見て回ったけど、先輩はどこにもいなかった。浦辺所長にも先輩の活動をそれとなく聞いてみたけど、ギルドに来てすらいないらしい。


 霧雨先輩………今日もアルバイトですか?ギルドにはもう来ないのですか?探索者はもう、引退なさるんですか?


 もし辞められるのなら、私は―――正直、ホッとします。あなたがこれ以上危険にさらされることも、同業者に罵られることも傷つけられることも、無くなるのだから。

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