52「お引越し」2(途中詩葉視点)
「つうか、何で京都?」
「咲哉さまが帰ってくるまでの間、観光とか旅行とかしてにゃんにゃらそこに住んでみたいところを、スノウと一緒に探してたんだにゃ。そしたらあたしもスノウも京都良いよね~って話になったのにゃ!以上だにゃ」
「そんだけ?安直過ぎるなー。旅行や観光は良いかもしれないけど、そこで生活するとなると話は変わってくるだろうに。京都での生活が僕に合うがどうかをまずリサーチしないと……」
「にゃらしばらくの間、逃亡ついでにお試し感覚で京都に住んでみると良いにゃ!気に入らにゃかったらその時にまたお引越しすれば良いにゃ」
「そんな簡単に………いやそうか。確かにそうかもな。今の僕ならお引越しなんてお手の物じゃないか。それが出来るスキルがあるんだし」
使用に制限はあるとはいえ僕にはスキルレベルMAXの「転移」があるから、それを駆使すれば割と簡単に出来るかも。
「それより、公安どもから逃げてからどれくらい時間が経ったんだ………2時間近くか。あまりもたもたしてたら、連中が僕を捕まえにここを凸りにきそうだな……。
じゃあ急いで京都のどこかへ引っ越すぞ!」
「了解しました」
移動先で必要になりそうなものを亜空間へ全部収納させたところで、家の外に出る。住宅街から少し離れた立地ではあるが、それなりに騒げばそれなりに目立ってしまう。
「ところで咲哉さま。咲哉さまの思い入れがあるこの家は、もう捨て置いてしまうのかにゃ……?」
「馬鹿を言うな。両親の思い出が詰まった家だぞ、捨てるわけないだろ。僕に考えがある。まず僕自身が京都のどこかへ移動する」
これまでの人生で京都に行ったことは一度も無い。なので「転移」は使えない。それ以外の手段で行くしかない。それも短時間で。
「こういう時は、あいつの番だな」
「召喚」スキルを発動し、部屋の広いところに手を向ける。
「スキル『召喚』――眷属獣ジェットを、主人たる僕のもとに呼び出す!」
すると手を掲げた先の虚空から男の人がぬるっと出現した!伊達眼鏡をかけた灰色髪のしゅっとした長身体型のイケメン男子だ。
「――我が主咲哉様の忠実なる眷属獣、ジェット。ただいま参上つかまつりました。
お久しぶりにございます、主」
梟の眷属獣のジェットはスノウと同じように恭しい態度で僕に頭を垂れながら挨拶を述べた。
「そうだっけか?まあいいや。早速なんだがジェット、今から僕らを乗せて京都まで飛んで欲しいんだ」
「京都、でございますか?」
「ああ。ここから南に進んだところにある、第二の西の都って呼ばれてる都会都市なんだが」
日本地図を亜空間から取り出して、京都までの地理をジェットに見せてやる。
「………なるほど。《《そんな近い場所》》にあるのですね」
ジェットの飛行速度は、普通に飛んでも地球上の飛行機と並ぶかそれ以上だ。
「京都に着くまでは全力で飛行していい。てかそうしてくれ。ちょっと急ぎだから」
「承知致しました。ところで、この二人も一緒に乗せるのですか?」
ジェットは切れ長の目をミイとスノウに向ける。あまり友好的でない視線を向けられたミイが少しムッとする。
「そうだな……二人とも僕がここにまた戻ってくるまで残れ。乗せる奴が少ない方がジェットもより速く飛べるだろうし」
「一人二人増えたところでこのジェットに然したる支障は生じませんが……承知いたしました」
「えぇーーー?あたしも久々にジェットの空飛び堪能したかったにゃ~~!」
「………以前も貴様がそう言って、仕方なく乗せてやったら、俺の背中が貴様の爪痕だらけになったの、忘れてないからな?」
言い合う二人を黙らせて、僕はジェットに獣形態になってもらう。彼の姿がみるみるうちに大きくなり、全長3mの巨大梟へと変身した。その背中に僕はぴょいと跨って、羽毛の感触を楽しみながら彼の背中にしっかり掴まる。通りがかった近所の人たちから視線を向けられるが、あまり気にしないようにする。
「では京都まで、いざ―――」
ドン!!と羽ばたく音とともに、もの凄い速さで上空へ飛び上がった。あっという間にミイたちから遠ざかっていった。
「それではご命令通り、本気で飛ばせていただきます」
「ああ。頼む。ここから目的地まで大体600~700kmになるが、どれくらいで着く?」
「その程度の距離であれば、15分程度で到着出来ます―――」
ジェットが全力を出す時の飛行速度は、時速2500km=(マッハ2.5)。これなら確かにあっという間に着くな。
飛行中、とてつもないGと衝撃波が僕を襲うが、固有スキルで変身した僕の体なら、フツーに耐えることが出来る!今回呼び起こした感情は嫉妬。ジェットのイケメン・モデル体型の美形に対する嫉妬心で変身してみせた。
そしてあっという間に、京都の空域に到達した。
「よし、上空から探すとしようか、良い感じに住めそうな住宅街や土地を」
上空から色んな住宅街を探すこと十数分。良い感じに寂れた住宅街で電波も問題無さそうな場所を発見した。
「ご苦労さんジェット。せっかくだからお前も僕の引っ越しの様子を見ていくか?」
「はい。是非拝見させていただきます」
僕はジェットとともに転移して、家に戻ってきた。ミイとスノウは退屈そうにテレビを見ていた。
「公安の連中は?」
「そんなのは来ていないにゃ。ただ近所の人たちがさっきから、ジェットのことで騒いでますにゃ」
「そうか。じゃあそのテレビを切って、みんな外に出ろ」
「咲哉様……もしかしてこの家を丸ごと……!?」
勘付いた様子のスノウに僕は笑って頷き、みんなを連れて外に出る。三人の眷属獣が揃っていると嫌でも目立つというわけで。家から出るなり近所から視線を集めてしまう。
そんな中で今からやることを見せるのは気が引けるが、仕方ない。どうせこの地域にはもう帰ってはこられねーんだしな!
「じゃあな、クソっタレな思い出が詰まった北関東の地よ。全員、不幸に苦しんでから死にやがれ……!」
最後に大声でそう言ってから、三人の眷属獣と僕の家に触れた状態でスキル「転移」を発動した―――
――詩葉視点――
北関東探索エリアB級ダンジョン付近で起きた凄惨な事件の翌日。
昼過ぎ……私は小恋乃さんと喫茶店(彼女行きつけのお店で、ミヤマキパーティで打ち合わせする時はいつもここを使っていたらしい)…その個室にて昨日のことについて話をしていた。
昨日はあの後警察署で事情説明を行っていたから、二人で話す時間がつくれなった。
今日話を誘ってきたのは小恋乃さんの方で、私たちで昨日のことについて改めて整理し、これからどうしていくか話し合いたいとのこと。
私としても事情を知る人と話をすれば気持ちが落ち着くと思い、何より小恋乃さんの心配もあったので、ありがたいお誘いだった。
「…そう、ですの。わたくしたちが撤退した後、そんな凄惨な事が………。いったい、彼は何者なんですの?」
「私にも結局何がなんだか分からないです。ただ分かったこともあります。
霧雨先輩が怒り狂っていたってこと。その怒りの矛先……その先輩がああなってしまった原因の一人が私であるということ」
小恋乃さんがぶるっと体を震わせた。彼女も先輩の恐ろしい怒りに触れた一人。昨日の彼を思い出してしまったのだろう。
「先輩が武力を振るい、殺したのは……先輩自身を馬鹿にした人たちでした。先輩は自分を馬鹿にした人を全員殺す気でした。
私も本気じゃなかったとはいえ先輩に色々酷いことを言ってしまった一人。だからたくさん暴力を振るわれ、殺される……ところでした。
小恋乃さんが呼んでくれた公安の方々が駆けつけてくれなければ、私の命は昨日までだったでしょう。改めて、公安の救助を呼んでいただきありがとうございました」
「か、感謝の言葉はもう結構ですわ。それにわたくしだって、あの時詩葉さんが駆けつけてくれなかったら、あの男に殺されていましたわ……確実に。
だから、おあいこってことにしておきましょ?」
「そう、ですね。小恋乃さんが良いのなら………」
それからお互いしばらく無言のままでいた。




