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51「お引越し」


――詩葉視点――


 「唐木、左右どっちかに寄れ!!」


 ズドォン!! 爆発のような銃声。鼓膜がキーンとなって、視界もチカチカした。


 う、撃った……あの公安の人、霧雨先輩の心臓目がけて、発砲した……っ


 「せ、先輩は―――え………?」

 

 いつの間にか、霧雨先輩の姿がどこにもいなくなっていた。気配も何も感じられない………文字通り、ここから消えた…!


 「あの男の気配は?」

 

 銃を発砲した公安の人が、私ではない誰かに尋ねかけた。


 「――だめです。周囲1キロまで捜索しましたが、霧雨咲哉の気配は特定出来ませんでした」


 私のすぐ傍から黒服の女性の声がした。音も無く突然パッと現れたように見えた、まるで忍者みたいに。彼女は「立てる?」と私に手を差し伸べてくれた。

 自分で立ち上がろうとしたがまだ足腰に力が入らず、結局彼女の手を借りることとなった。

 

 警察庁公安探索者部、通称「公安」が駆けつけてきてくれたお陰で、私は命を救われた。

 全員、私よりも強い………。隠してもなお分かる強大な存在感がそれを証明している。

 彼らは霧雨先輩を殺すことも辞さないつもりだった。あの場で先輩が抵抗していたなら、その場で殺しにかかっていただろう。公安には重罪を犯した探索者に限り、殺しの許可が与えられている。私には想像出来ないくらいの重責を、この人たちは背負っている……。


 「あ、あの。公安の方々、ですよね?皆さんが駆けつけていただいたお陰で、こうして助かることが出来ました。本当に、ありがとうございます…!」


 全員、霧雨先輩を殺すつもりでいたとはいえ、私の命の恩人であることに変わり無い。複雑な気持ちは一旦飲み込んで、感謝の言葉を述べた。


 「当然のことをしたまでです。あなたは探索者ギルド北関東支部所属の探索者、牧瀬詩葉さんですね?私は警察庁公安探索者部の通永みちながと言います。

 まずはお身体の傷とダメージの治療を行いましょう。その後、私たちが責任持ってあなたをギルドまでお連れします」


 その後、霧雨先輩に手錠をかけようとしていた唐木という人の治癒スキルで、折れた骨や損傷した内臓などが全て元に治った。

 自分の足で歩けるようになったところで、姿を潜ませていた残りの公安の方々に護衛されながら、私はギルドに帰還することが出来た。



 「詩葉さん!!」


 北関支部には小恋乃さんと、鳥野さんを除くパーティの方たちが一階ロビーに集まっていた。小恋乃さんが私のところに駆け寄ってくると、私は彼女にひしと抱き締められた。


 「無事で、良かったですわ……!」


 涙声で発された小恋乃さんの言葉を聞いた途端、私はようやく緊張の糸が切れたのか、崩れ落ちるようにその場にへたり込んでしまった。

 彼女の言葉を聞いてようやく、あの悪夢で地獄のようなところから生きて帰ってこられたんだと、実感出来た。


 「詩葉さん!?まさかまだ、どこかお怪我をしていますの…!?」

 「い、いえ違います!ちょっと力が抜けただけなんで……。それより、小恋乃さんが公安の方々を呼んで下さったのですね。お陰でこうして生きて帰ってこられました。ありがとうございます。小恋乃さんも、私の命の恩人ですね」

 「……!ふ、ふん!当然ですわ!わたくしがただ臆してあの男から逃げてきたわけ、ないじゃないですか!想定外の強い敵と遭遇したのなら、どちらかが一旦戦線離脱して増援を要請することくらい、心得てますわ。

 だ、だからあまり感謝しなくても結構ですからね!?

 あ、あなたが無事さえいてくれれば、それで十分ですので(小声)」


 どうにかいつもの調子を振る舞ってお礼を受け流そうとする小恋乃さんに、私は笑顔を見せようとしたのだけれど……………


 「………詩葉さん、あなた本当に大丈夫ですの?お顔がもの凄く引きつっておられますわよ」

 「あ、あはは………………」


 上手く笑うことが出来ず、却って心配させてしまった……。


 「――やはり、ここで例の探索者が窃盗を中心とした犯行に及んだとみて良いでしょうね。というより、彼が何らかの手段を用いて、ここで大量の探索者とギルド職員の殺害等に及んだに違いない。

 現に未だに北関東支部の所長に連絡が、一向に繋がらない」


 犯罪捜査担当の公安の人たちが、塞がれていた地下を含む館内の捜索を終えて、私たちに捜査の詳細を一部だけ話してくれた。


 「死体がどこにも見当たらないのは、火を使った魔術等で遺体を焼却あるいは消失させたか……。いずれにしろ館内……特に地下でスキルを使った痕跡が大量に発覚したので、館内にいた者たちが殺戮に遭ったと断定して良いでしょうね」

 「………そ、それをやったのが―――」

 「霧雨咲哉。牧瀬さんや宮木さんを殺害しようとしたあの男で間違いないでしょう」


 通永さんが確信したようにそう告げた。目の前が真っ暗になりそうになる。だって、あの霧雨先輩が………そんなこと、を―――――



 ドパァン!(馬鹿が、こんなクソ楽しいこと誰がやめるかよ)

 (テメェらが苦しめば苦しむほど、僕にとっては面白くて仕方ない!ただ純粋に、他人が苦しむのが嬉しい!そういう奴になっちまったのさ!俺ァよ!)

 (謝罪の言葉はもう聞きたくねェ。申し訳ないと思ってるのなら、これ以上謝罪の言葉は吐くな。もう黙って死にやがれ)


 ついさっき、探索エリアで放たれた霧雨先輩の数々の言葉が、脳裏で再生される。どれも本気の言葉だった。


 「しかし、本当にあれは霧雨咲哉だったのだろうか?聞けば彼はこないだまではEランクの探索エリアすら満足に攻略出来ないレベルで、国内ランキングも圏外に位置する探索者だったはず。

 短期間でここまでの犯行を実現させられるものなのか?先ほどのエリアで発見された遺体……鳥野辰男さんも、国内200位内の実力者。そんな彼を殺害出来るだけの力を、半月以内で手に入れられるとは考えられない……」

 「公安の方々は、あの男が霧雨咲哉に変装した何者かであると、おっしゃりたいわけですの?」

 「ええ。捜査班による鑑識結果が出ていない現状は、そう考えられますね」


 しかし道長さんの推測は、捜査班の鑑識結果によって覆されてしまう。現場から感知されたスキルの使用痕跡を分析した結果、一連の犯行は霧雨咲哉、その本人によるものであると、後日判明したのだった……。


 さらに、先輩が通っていた高校、先輩が勤めていたバイト先でも大量殺人の痕跡が確認された。現場に先輩の指紋や毛髪が採取されたことで、これらの犯行も先輩によるものである線が濃厚となり、公安は霧雨咲哉を連続大量殺人犯として全国指名手配し、公開捜査にも踏み込んだのだった……。








――咲哉視点――


 「――っつーわけで。公安どもに家凸される前にどっかへとんずらすることにしたから、今用意出来る分だけの金を徴収しに来てやったぜ!」


 ミイの案内のもと、僕は彼女と一緒に長下部のパーティだった女探索者どものところに凸りに来た。都合良く三人とも一箇所に集まってくれていた。

 ちょうどウリやらエンコーやらの営業最中だったようで、男女全員素っ裸で乱交パってやがった。

 何だてめえはと突っかかって邪魔な男どもを雑にぶち殺し、ベッドの側の棚に置いてある金を数えてみる。


 「「「あ………あぁ……………」」」

 「へー、結構な太客だったんだな。かなりの金が入ってんじゃねーか。お、キャッシュカードもあるじゃん。後で暗証番号特定して、引き出してやろう。

 そういうわけだから、今日のところはこの分だけもらっといてやる。それと一週間後、また僕がこうやって出向いてやるから、その時はまた今日みたいに三人揃って人気の無いところで待ってろ。

 残り二千何百万か知らねーけど、ちゃんと揃えとけよ?」


 女どもが壊れた機械みたいにこくこく頷くのを見てから、僕は帰宅した。


 「さて、金は後でテキトーなATMで引き出すとして……やべー!さっさととんずらしねーと、公安がここに来ちまう!どこへ引っ越そうか!」


 家の中を行ったり来たりしながら、僕は引っ越し先をどうしようか悩みまくった。


 「そうだ、京都にしよう――にゃ」


 ミイがポツリとそう呟いた。スノウも反対するどころか意外と乗り気な雰囲気だ。


 「んー?じゃあひとまずは、京都へ引っ越すことにするかあ?」

 「「賛成にゃ(です)!」」


 ミイの一言で僕らの引っ越し先は京都へとあっさり決まった。

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