50「牧瀬詩葉を追い詰める」2
「もう一つ質問をするぞ?これまでテメェを殺すチャンスは腐る程あったのに、どうして今まで殺さずにいたのか。分かるか?」
私は無言のまま、何も答えられない。今の先輩が何を考えているのか、さっぱり分からない。
「チッ、だんまりかよ。まあいい、正解は~~~~~ぁ、テメェにも僕と同じ無力感、無能さを思い知ってもらう為だ!!
底辺に突き落とされた気分はどうだった?親や支持者どもに良い物ばかり食わせてもらったテメェにとって、土や血の味はさぞマズかったろ?
まあ?テメェが今日受けた屈辱と痛みは、僕がこれまで受け続けてきた分の100分の1にも満たないモンだろーけどなァ!?」
霧雨先輩の方から近寄ってきて、凶悪な双眸で私をギロリと睨んで、ニタリと笑った。
「先、輩………これ以上視聴者さんを虐殺するのは、止めて下さい。代わりに私を殺して下さい。私の命一つでどうか、これ以上人を殺すのは止めてください……。
それと………何も分かろうともせず、今まで色々酷いこと言ってしまい、本当にご―――」
「謝んな!謝罪の言葉はもう聞きたくねェ。申し訳ないと思ってるのなら、これ以上謝罪の言葉は吐くな。もう黙って死にやがれ。お望み通り、ぶち殺してやるよ。あと、テメェの指図を聞く気は全く無い。テメェを殺した後、また視聴者どもの殺戮を続けてやるよ!」
圧がこもった冷酷な言葉の後、霧雨先輩は残虐な相貌のまま拳銃を私の頭に押し当ててきた。
本当は私なりの心配や思いやりだったあの言葉は全部、先輩にとってはただの毒で、心無い罵倒に過ぎなかったんだ。
私……すごく間違えちゃったんだ。馬鹿だなぁ………本当に。
これは、天罰なんだ。バチが当たったんだ……。先輩に酷い言葉をかけたこともそうだけど、それ以前からも私は先輩のことを利用していたんだ。
今まで私が探索者を続けられてきたのは、霧雨先輩のひたむきに努力し続けていた姿を模倣していたから。
不遇な扱いを受けている先輩が諦めず努力しているのだから、色々恵まれている私も努力しなきゃって思い続けてきた。
そうやって私は霧雨先輩を、自分の慰めの道具にしていたんだ。今になってようやく、自分の本心と向き合えた気がした……。
私は、霧雨先輩のことが好きだと思っていたけれど、実際は――――――
ダァアアン!! 鈍い銃声が鳴った。
私の頭は………………無事なままだった。
「は―――――――――」
腰が抜けて、その場にへたり込んだ―――――――
――咲哉視点――
いつでもハジケるようにしてあるデザートイーグルの引き金を引こうとしたその時、別の方から鈍い銃声が鳴った―――
ズガァン!「ぐオ…!?」
拳銃を持つ手がおもっくそ弾かれた。手首を正確に射貫いた精密射撃……狙撃されたのか!
「スキルで超絶頑丈となったこの体をぶち抜くたァ、大した銃撃じゃねーか。何モンだ…!?」
牧瀬はへたり込んだまま微動だにしなくなっている。杖が無くなった今のコイツは僕にとって何の脅威でもない。とりあえず無視していいだろう、今は僕を狙撃しやがった襲撃者の特定が先だ。
と思考を巡らせた矢先、その襲撃者の方から姿を現してきやがった。
「――霧雨咲哉だな?君は既に、我々『公安』が包囲している。このまま大人しくしておくのなら、この場での抹殺は免れることだけ忠告しておく」
講釈を垂れる感じで正面から出てきた黒服の男が、変わった形の銃をこちらに突き付けていた。銃口から硝煙がのぼっていることからコイツがその銃で僕を狙撃したのだろう。
「公、安―――。もしかして、小恋乃さんが………………」
牧瀬からうわ言のような声が漏れる。そうか、もう来ちまったのか……探索者犯罪専門の警察組織が…。
探索者犯罪対策専門課、警察庁公安探索者部―――通称「公安」。文字通り、犯罪を犯した探索者を捕らえ取り締まる、警察に属する探索者がこいつ《《ら》》である。
「テメェを入れて………数は十ってところか。僕じゃなければ気付けないレベルの、大した隠密っぷりだな。スゴイスゴイ」
レベルMAXの「感知/特定」スキルであれば、どれだけの人数がそれぞれどこに潜んでいるのかも、手に取るように分かる。
「…隠れてる者たちの気配まで分かるのか。君は、いったい………」
正面に立つ黒服の男は眉間に皺を寄せつつ銃口の照準を僕に定めている。まるで僕のみに全神経を集中させているかのような狙いっぷりだ。ちょっとでも怪しい素振りを見せたら、今度は頭を弾くつもりだろうな。
「まずはっきりさせたのだが、これをやったのは、全部君か?」
コレというのは、周囲に散らばってる牧瀬のクソ視聴者や宮木の仲間の鳥何とかの死体のことだろうな、どうせ。
「おう、僕がやったやつだぜ、全部なァ」
「……これだけの数の一般人、さらには探索者までを殺めたのは、確信犯ってところか。何故そんなことを……というのは聞くだけ無駄か」
隠れてることがバレてることを分かってか、四方八方から殺気が放たれてくる。さて………どうしようか?正面にいるこの男も、姿を見せない奴らも全員、牧瀬詩葉よりも強い。国内ランキング50位が霞むくらいの存在感が、公安の連中にはある。
公安に属している探索者のほとんどが、国内ランキング30位内で構成されているっていう、バケモンの巣窟だって前に聞いたことがあったが、あれは本当のようだな。
「なァ、聞かせろよ?テメェは国内ランキング何位なんだ?テメェが公安で一番強ェのか?」
「……15位だ。そして戦闘の強さだけなら、俺は公安の中で下から数えた方が早い。もっとも、今ここに駆けつけた者だけでなら、俺は強い方だ。君はまだ運が良い方だ」
「へッ、警戒してる割には随分喋ってくれたな?親切だな~」
「………お喋りに付き合うのはここまでだ。武装を解いて、大人しく手錠をかけられてくれれば、少なくともこの場で死ぬことをは無くなる」
隠れてやがった公安の一人が、手錠を手にしながら後ろから寄ってくる。
「僕がこのまま大人しく手錠をかけられるタマに見えるか?」
「警告はした。後の行動は、全て君の自業自得となる」
そう告げた瞬間、正面から銃を突き付けている公安の男から、濃密な殺気が放たれる。分厚い筋肉の鎧を貫いてくるような鋭い冷たい殺意だ、抵抗しようなら即殺すこと間違いない。
数秒後にはこの手が手錠で拘束され、僕はコイツらに連行されることだろう。ま、出来るわけねェんだが。だってコイツら全員が束になってかかっても、僕の方が強いって確信してるから。
とはいえこの状況じゃさすがの僕も無傷では済まないし、全滅させるのに時間もかかることだろう。
「てなわけで、今回は僕が退くってことでおひらきとしようや―――」
「唐木、左右どっちかに寄れ!!」
スキル「転移」発動―――僕は自分の家の中へと転移したのだった。
「……って、痛ぇええ!?あの探索者ポリス、なんつー早撃ちだよ!?」
僕の分厚い胸板には、銃弾が深くめり込んでいた。この姿じゃなかったら、肺まで到達してたかもしれねェ、危ねェな!
「ニャ!?咲哉さま帰ってたのかにゃー?探索活動はどうだったかにゃ?」
「ぐ………スノウはいるか?超能力でこの弾を取り出させたい。変身が解ける前に取り出さねーとヤベー!」
この後すぐにスノウが駆けつけて、超能力で弾を除去してもらい、救急箱で傷も塞いでもらった。
こうしてダンジョン攻略あり復讐ありの濃い内容が詰まった探索活動は、終わりを迎えたのだった。
そして僕はこの後すぐ、逃亡生活を強いられることになる………。




