49「牧瀬詩葉を追い詰める」
「ど……どうして、家族を………?」
「どうしてだァ?決まってんだろが!テメェが僕にしたことの落とし前をつけさせんだよ!
テメェのような低民度のクズを生んだ元凶であるごりょーしんにも、責任ってのをとってもらわねーと、腹の虫が収まらねー。僕何か、おかしなこと言ってっか?」
「そんな、そんなぁ……っ お願いします、僕のことは好きにして良いですから、父さんと母さんを巻き込むのはどうか―――」
「黙れクソガキが!!いつから僕に指図出来る立場になったよ!?テメェが言って良いのははいかイエスだけなんだよ!!
ガキだからって大目に見てもらえると思うなよ?僕を馬鹿にする奴はガキだろうと女だろと老人だろうと関係ねェ、ぐちゃぐちゃにぶっ潰すって決めてんだよ……!!」
そう言って凄んでやるとクソガキは目や鼻、口、さらには股からも液体を垂れ流しやがった。
「オラ、ここから一人で歩いて家に帰って、おとーさんとおかーさんにこの事を説明してから、そいつらも連れて僕のところに来い。
言っとくが、僕からは絶対ェ逃げらんねーからな?」
そう言って放してやると、クソガキは狂ったように泣き叫びながら僕のもとから走り去った。命令通り親を連れて戻ってきやがったら、三人仲良くまとめてぶっ殺してやる。バックレやがったらあのクソガキの家凸って、全員順番ずつ惨たらしく殺してやる!
「さーてと、一人殺し損ねちまったから、追加で後何人かを代わりに殺していくか~~~」
そう言ってまた特定スキルと召喚スキルを使って、スクショした画像をもとに僕を馬鹿にしやがったクソ視聴者をじゃんじゃん引きずりだし、じゃんじゃん惨たらしくぶち殺してやった!
何人も何人も裂け目から引きずり出しては、顔面を地面や壁に叩きつけて潰したり、巨大鉈でバラバラに解体したり、全身が崩壊するまでしこまたぶん殴り続けたりと、色んなバリエーションを用いて、高みの見物を決め込んでやがったクソ視聴者を血祭りにして恐怖と絶望を刻み込んでから殺してやった!
どいつもこいつも、天国から地獄へ突き落とされたみたいに、絶望に染まった面で泣きじゃくりながら謝罪と命乞いをするわけだが、そこをぶちゅりぶちゅりと潰してやんだ。
すると、脳汁ドバるくらい気持ちよくなれる!!サイコーの気分になれる!!
「あっはははは!!ぎゃははははははは!!」
今の僕は、人を殺すことに何の躊躇も無い。一線を容易に踏み越えられる人間になっちまってやがる!
そうか、これが……これこそが「無敵の人」って奴の思考なのか。殺人を犯したところで、僕に失うものが別にあるわけじゃない。誰かを失望させたくない人なんかもこの世にいないわけだし。地位も無く、将来も真っ暗で壊滅的。
だから、もう欲望のままに、好きに出来るってことだ…!
「無敵の人サイッコーーーーー!げひゃははははははははァ!!テメェもそう思うよな!?クソ視聴者16号ーーー!!」
16人目のクソ視聴者の頭部に拳銃の照準を向けながらゲラゲラ笑う。ここまで既に15人殺している。キモオタみたいなデブ、牧瀬のグッズを身に着けてやがったドルオタ野郎、ドルオタっぽい女、サラリーマン、不良の学生、刺青だらけのDQN……。
牧瀬の支持者や動画視聴者には色んな奴がいたわけだが、全員に共通して言えることがある。
「やっぱテメェのファンはみんな、かつての僕みたいな弱者な人間を底辺だと見下して馬鹿にしやがる、最低な性格をしたクソゴミどもだったな!
なあ、牧瀬詩葉!!」
そう言って牧瀬に話を伺おうとしたところで、僕は思わず「おっ?」と声を上げた。
「霧島……先輩。これ以上人を殺めて、罪を重ねないで、下さい……………」
顔を腫らして脚をガクガクさせながらも僕のところに歩を進めている牧瀬の、無駄な足掻きを見たから。
――詩葉視点――
顔中、焼けるような痛みがある。地面を何度もバウンドしたせいで、体中も痛い。私の治癒スキルは高度なものじゃないから、完全には治せない。殴られ叩きつけられたダメージもまだ残っている。
正直、もう立ちあがりたくない。このまま倒れたまま目を閉じて、夢の世界へ逃げ込みたい……。
そうすれば霧雨先輩の冷酷で残虐非道が過ぎる姿を見ないで済む……。
でも、そういうわけにはいかない……っ ここで逃げてしまったら、もう二度と先輩を外道から引き戻せなくなる気がするから。
もう手遅れかもしれない。次彼の前に立てば殺されるかもしれない。それでも構わない!やらずに後悔するくらいなら、ここで殺される結末を、私は選ぶ―――!
そうして気力を振り絞って、どうにか立ち上がり、霧雨先輩へ歩み寄りはじめる。また一人、私の支持者の方が、無残に殺されてしまった……。今さら止めたところで、先輩の罪は決して拭えない。
だからと言ってこのまま先輩を殺人鬼の道へ突き進ませるわけにはいかない……っ
「霧島……先輩。これ以上人を殺めて、罪を重ねないで、下さい……………」
ようやく先輩に声が届くところまで歩み寄れたところで、どうにかそう伝えてみせた。
「嫌だね」
ドパァン! また一人、視聴者さんが殺されてしまった………。
「馬鹿が、こんなクソ楽しいこと誰がやめるかよ。それより、テメェの支持者の民度がクソ低くて最低な奴らの集まりだった件についての感想を聞いてんだが?さっさと答えろよ、なあ!?」
霧雨先輩の声には圧があり、一言ごとに肌がびりびりする。今の先輩からは凶暴な獣と変わらない危うさがある。が、何となくだけどまだ人間としての心があるようにも見える。
「………確かに今までの配信でコメントしていた方達は、ネチケットなど至らない人がいたと思います。
ですが、私の支持者がみんな、霧雨先輩を……人をみだりに貶めるわけでは――」
「知るかボケ!これからの僕は何でも偏見で物を考えることにした!それでまず第一に、テメェの支持者は全員性格が最低なゴミカスってことで、はい決定ィィ!!」
「そん、な………」
「はじめから恵まれた家庭と環境でぬくぬく育っただけのテメェら雑魚どもが!親を失い何でも一人でしなきゃならず死ぬような苦労を強いられ続けてきた僕の努力を否定し、笑いやがって……!
どいつもこいつもゴミに集るハエどもの分際で、僕に舐めた口を叩いてんじゃねーよ!!」
先輩の目が毒々しくむき出し、危険な怒りと悪意が顔に張り付いている。
「牧瀬詩葉、テメェもだからな?探索者なり立てのテメェを気にかけてやった恩を、仇で返しやがって……!テメェも性格が相当ひん曲がったクソ女だよな、オイ」
霧雨先輩の言葉が鋭い刃となって私に突き刺さった。自業自得とはいえ、やっぱり堪えるなぁ……。
「先輩も、こういう気持ちだったんですね……。怒り狂うのも当然、です」
「あ?なんつったか聞こえねーよ」
「先輩、いくら許せないからといって、あそこまでの殺戮をする必要があったんですか?そもそも、殺すまでのことをするなんて………っ 殺人犯したせいで、先輩はもう………」
「だから、知るかつってんだよ!自分の受けた痛みに対する報復の程度なんざ、他人が定義する権利はもちろん忖度も批難する権利も無ェよ!そうだろ?」
「く……っ」
「それより今の僕がどういう奴か教えておこうか?ムカつく奴らを殴ってぶっ叩いて痛みを与えることで、そいつが次第に壊れていく様を見るのが好き。
テメェらが苦しめば苦しむほど、僕にとっては面白くて仕方ない!
ただ純粋に、他人が苦しむのが嬉しい!そういう奴になっちまったのさ!俺ァよ!どうだ、最低にひん曲がった性格だろ?」
霧雨先輩の表情が更に、周囲に嫌悪感を撒き散らす物へと歪む。全身から悪意が放たれている……。




