46「視聴者どもを分からせる」②
ドカッ 「あ………っぐ」 牧瀬は背中を強打し、壁に背をつけたまま尻もちをついた。
:また……!詩葉様を傷つけるなーーー!!
:おい!いい加減にしろよ!!
:詩葉様、どうしてそんな底辺の探索者なんかにいいようにされてるんですか!?
「るせェつってんだよ!テメェら視聴者もこの女も、世間のどいつもこいつも!
僕のことをいつも寄って集って馬鹿にしやがって!こっちが今までどれだけ苦しみまくってたか知りもしねーでよォ!?」
血走った眼でスマホ画面を睨みつける。その画面の向こう側…ぬくぬくとした部屋でふんぞり返ったりしながら観てやがる視聴者どもに向けて、さらにぶちまける。
「テメェらに言われなくても数年後には辞めるつもりだったんだよ探索者なんて低脳で民度低いゴミ人間しかやらねーような、クソ職業なんかよォ!!テメェらに望まれるまでもなく、僕は誰よりもこんな職業辞めたくて仕方なかったんだよ!!」
:いや、ブーメラン発言
:自分も民度低い人間って公言してんじゃん
:じゃあとっとと辞めちまえば良いじゃん。苦しいならなおさら
「辞めたくても辞めれなかったんだろーが!!今辞めちまえば大学の費用は?誰が払ってくれるってんだ!?奨学金?全部断られたわクソが!!全部僕が何とかしねーといけねーのに、無責任なことぬかしてんじゃねーぞ、アァ!?」
:完全にヒステリック状態。詩葉様が心配
:公安早よ!警察でも良いから早よ早よ!
「テメェら揃いも揃って僕のこと何一つ知らねーくせに、安全な場所で上から目線で軽はずみな気持ち僕を馬鹿にしてんじゃねーよ!!
テメェらに僕のこれまでの苦しみ、悔しさ、怒りが分かってたまるかよクソがぁぁぁぁぁ!!」
同業者たちよりも、学校のクラスメイトよりも、こうやってネット上で僕に顔を見せることなく一方的に誹謗中傷の言葉を書き込んでくる連中が、一番ムカつく。
今まで溜め込んでたモン全部ぶちまけてやった。これを見ている視聴者どもにも聞かせてやった。
牧瀬詩葉みたいに少しはまともな感性持ってやがるなら、反省の一つくらいはするものかと思った。
が………それでもまだ僕は甘いということを、こいつらのコメントを見て思い知らされた。
虎狼丸:分からないしくそどうでもいい。不幸自慢乙
キムしゃぶ:そんな大げさに叫んでも、誰もお前なんかに同情しねーから。ブサイクな顔でごちゃごちゃと気持ち悪い
DQヌ:クズはてめーだろ!その力もどうせ薬か何かで不正してんだろ?よくも詩葉ちゃんを傷つけやがって、死ね!クソ底辺雑魚!!
理系ⅮⅭ:何とも聞くに堪えない醜い声だ。実際あなたが下の人間なんだから、上から目線で言われるのは当然でしょ
「………はぁ~~~~~~~あ」
今の僕の言葉を聴いてもなお、こんな胸糞悪いコメントが書けるのか、こいつらは。
:底辺の雑魚がしゃしゃり出るなよな!
:それより詩葉様に土下座して謝れ!!
:さっさと公安に捕まって、探索者の資格剥奪されろ!!
:お前なんか、路頭に迷って、死んどけば良かったんだ!
:ブサイクで貧乏で性格までクズとか、死んだ方が良い奴やん
他の奴らも次々僕への罵倒コメントを書いてきやがる。誰一人として僕を擁護する奴はいない。
「だ、ダメです!皆さん、これ以上霧島先輩を刺激するようなコメントを書き込まないで下さい!!」
牧瀬は蒼白な顔でホログラムに映し出されてるチャット欄を見て、リスナーどもに必死に呼びかける。
が、もう遅ェ……。
「もう手遅れだぜ、牧瀬よォ。
そうか……そうかそうかあ。分かってはいたけどよォ、結局こーいうネットにうじゃうじゃ湧いてやがる低民度で低脳のゴミどもには、言葉で言っても分らねぇようになってんだな。というより分かろうともしねーんだろうな」
虎狼丸:は?何かまた変なこと言ってるんだが
今の僕は子犬にキャンキャン吠えたてられることにすら殺意が湧くくらいに気が短く、心の器や度量が小さい人間になっている。
だからこういうネット上のどことも知れない野郎どもの誹謗や煽りを見過ごすことが出来ない。自慢することじゃねーけど。
特にこういう、上から目線で面白半分で人の苦労、一生懸命さ、苦しみを嘲笑い馬鹿にする奴らは絶対に許さん。殺してやる!!
「よし決めたぞ!まずは虎狼丸とかいう、さっきから僕を貶し続けてやがるこのクソゴミ野郎で、《《見せしめ》》といこーかァ!!」
突然の宣言に牧瀬が困惑の表情になる。視聴者たちも戸惑いのコメントを流す中(虎狼丸は「は?何言ってんのこいつ。今度は病気こじらせたか」と書き込んでやがった)、僕はある汎用スキルを発動していた。
「感知/特定」――探したい人物の居場所を突き止めることができ、スキルレベルMAXになると対象人物による筆跡・電子を媒体にした文字からでも居場所を特定することが可能となる。
というわけで早速、虎狼丸とかいうクズ野郎の特定、開始!牧瀬からスマホを引ったくり、チャット欄から虎狼丸のアイコンをタップし、そこにレベルMAXとなったスキルを照らし合わせる。
すると、目の前に頭の中に浮かび上がるステータス表記のと同じウィンドウが、目の前に現れた。
そこには、虎狼丸の実際の本名、年齢、性別、そして住所までもが記載されてやがるぜ!
「おーおー、テメェが誰で、今どこでこの配信を観てやがんのか、僕には全てお見通しだぜ?今から僕が直接そこに凸りに行くのも良いんだけどよォ、それじゃあ見せしめになりゃしねェ」
「せ、先輩……さっきから言ってるその“見せしめ”って何なのですか……?何をなさるつもりですか…!?」
「るせェ黙ってろクソアイドル!でだ、僕がテメェのとこに行くんじゃなく、テメェをここに引きずり出してやる!!
この、レベルMAXになった『召喚』スキルでな!!」
そう宣言するとともに、虎狼丸の特定情報が記載されたウィンドウに「召喚」を発動した。
数秒後、ウィンドウから歪な裂け目が生じる。さらにその向こう側から、誰かの声が聞こえてきた。
「―――――ぁぁぁぁぁぁ…………っ」
「上手く、いきそうだな……!」
聞こえてくる悲鳴に僕は凶悪な笑みを浮かべてみせる。壁にもたれかかったままの牧瀬が「声!?何が起きてるの…!?」と喚き散らす。
その間にも裂け目はどんどん広まって行き、声…叫び声も鮮明となってくる。そして、裂け目から何かがずるるっと這い出てきた!
いやこの場合、こちら側に無理やり引きずり出された…が正しいか。
「わ、わぁあああああ!?何だ!?何がどうなってんだ!?」
ウィンドウの裂け目から、上下ジャージ姿の無精ひげまみれの男が、目を白黒させて喚きながらぼとっと地面に落ちてきた。
「え……!?何も無いところから、人が突然降ってきた!?」
牧瀬から驚きの声が上がる。チャット欄も驚きと焦りで騒然としてやがる。
「だ、誰かに無理やり引きずり込まれた気が……ってここってさっきまで見ていた詩葉様のライブ配信の現地!?あ―――あそこに詩葉様が倒れてる!?」
僕が「召喚」で引きずり出した虎狼丸――本名虎沢は傷だらけの牧瀬を発見し、混乱しながらも奴に駆け寄ろうとする。
「だっダメ……そこから早く逃げてーーーーー!!」
牧瀬の悲鳴に近い呼びかけに、
「オイ」
僕の怨嗟が込められた呼び声が重なった。
「え―――(ガッ)――ひぎゃああ!?」
虎沢が僕の方へ振り向いた瞬間、野郎の胸倉を乱暴に掴んで、上に持ち上げる。
「初めまして~~~虎沢くーーん。いや、さっきまでは虎狼丸ってUNで、ここでの様子を映した配信を観てやがったんだよなァ!?」
「え……え??うそ、そんなっ マジ、えマジで……!?」
「つうわけで―――今からテメェをぐちゃぐちゃに潰して、や るか ら なァ」
そう告げた直後、虎沢《虎狼丸》持ち上げていた右腕を豪速で振り下ろし、全身を地面にドガァンと激突させてやった!
「部屋に引きこもってれば、僕から襲われることはないと思ったか!?最強の力を持った僕を、ナメてんじゃねーぞゴミがぁぁぁあああーーーーー!!」
地面に叩きつけられて後頭部や背骨を激しく損傷してピクピク痙攣している虎狼丸(虎沢)に怒鳴りつけて、左足をゆっくり上げて、野郎の真上に移す。
「ぃぎ!?ごごごめ――なさ――ぁあああああ!?」
「せ、先輩っ やめ―――――」
ガッ!ドガドガ!ガス!ドキャ、メキョ!
僕を散々貶して馬鹿にしやがったクソ視聴者その一号を、心行くまで蹴っとばし、踏みつけまくった!
「ははははは、死ねェゴミがぁぁぁああーーー!!ぎゃっはははははははは!!」
しばらくして、クソ視聴者一号は絶命した。野郎の顔は血と傷と涙でぐっちゃぐちゃ、手足は折れ曲がったり千切れたり、体はベコベコに歪んでいた。




