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「牧瀬詩葉に教えてやる」3


 (――いい加減、探索者を引退なさったらどうです?探索者としての実力も才能も無いのは明らかと思うんですけど)

 (――現実を受け入れて、探索者の道を諦めた方が、残りの人生まだ有意義なものに出来ると私は思いますけどね)

 (――あなたみたいなどうにもならない弱者にうろつかれると、私たちが所属する探索者ギルドのレベルの底が知られてしまうかもしれないので)

 (霧雨先輩……あなたは本当に学ばない人なんですね。あなたみたいな才能無しの底辺が、こんなことを続けていてもお先真っ暗だというのに)


 いったいどれだけの心無い発言を、先輩にしてしまったのだろう。引退を諦められないやむにやまれぬ事情がある本当の苦労人に対して、私はなんて残酷な言葉をかけ続けてしまっていたのだろう……っ



 「……………っ」

 「……オイ。さっきから何だ?その、私はそんなことも知らずに何て酷いことを……とでも思ってそうな面はよォ?何勝手に悲劇に曇ってやがんだ?そーいうの今さら要らねェんだよ!ただムカつくだけだ!!」


 霧雨先輩の怒鳴り声で私の意識は現実に引き戻された。先輩の言う通り、本当に今さらだ。

 だけど、今さらになるだろうけど、これは言っておかずにはいられない……!


 「霧雨先輩、どうか聞いて下さい!!私がこれまで先輩にかけ続けていた、酷い発言の数々について!あれは全部悪意で言ったわけじゃなかったんです!

 本当は……先輩の身を案じながら言っていたものだったんです……っ」

 「………はァ?」


 霧雨先輩は疑念に満ちた眼差しを向けつつも、話を聞いてくれてる。言わないと……本当のことを、ここで!恥ずかしがって言い淀んでる場合なんかじゃない!!


 「先輩にはこの先の探索活動で死んでほしくないから……。先輩に死んでほしくなかったから、あんな言葉をかけ続けていたんです!

 初心者だった頃の私のことを誰よりも気にかけて下さり、一人前の探索者になるまでずっと面倒を見続けて下さった霧雨先輩。そんな先輩を、私は恩を感じていますし、憧れ……そしてこ、好意も抱いてます!」

 「………あァ??」

 「大切な霧雨先輩がこの先の探索活動で命を落とすような事になる前に、探索者を引退して欲しかったんです。危険な魔物と戦うことなく、魔物のいない安全な職業に就いて欲しいと思って、探索者の道を諦めてくれるよう、あえて辛辣な言葉をかけ続けていたんです。

 だから……ごめんなさい!今まで探索者を諦めろとか、他の探索者さんと同じように弱者扱いして罵ったこととか、色々酷い言葉をかけてしまい、本当にすみませんでした!!」


 深く頭を下げて、誠心誠意を以て謝罪した。もちろんこれで許してもらおうなんて、ちっとも考えてない。私は許されないような言葉を先輩に散々かけて、深く傷つけてしまっていたのだから。

 私の勝手な思想を押しつけていたに過ぎなかった……。


 「先輩の言う通り、私は先輩の事情も知らずに、散々酷い言葉をかけていました。何も知らず、先輩を傷つけてしまって、私は本当に、愚かなことを―――――」



 ドスッ 腹部に、鋭く強烈な痛みが突き刺さった。



 「あ…………う」


 霧雨先輩の加減無しのボディブローが、私の腹部を打ち抜き、骨や臓器をいくつも壊した―――


 「もういい。たくさんだ。さっきから今さらなことばかりぬかしやがって、鬱陶しんだよクソが……っ」


 そんな苛立ちに満ちた言葉の後、体中に無数の激しい打撃が襲い掛かった。

 暴力と同時に、強烈な悪意が全身に突き刺さってきた。

 夥しい打撃を繰り出す際覗き見えた霧雨先輩の顔は、もう何もかもが手遅れであることを思わせるような、肌が粟立つ程恐ろしい憎悪を凝縮させたような、そんな顔をしていた。

 表情にも亀裂が生まれていた―――






――咲哉視点――


 「先輩の言う通り、私は先輩の事情も知らずに、散々酷い言葉をかけていました。何も知らず、先輩を傷つけてしまって、私は本当に、愚かなことを―――――」


 そのセリフの第一声の直後から、僕は縮地の如く牧瀬に接近し、苛立ちを込めた腹パンを容赦なく放った。骨が砕け臓器が潰れる感触がきた。


 「あ…………う」

 「もういい。たくさんだ。さっきから今さらなことばかりぬかしやがって、鬱陶しんだよクソが……っ」


 ドガドガドガッバキボガドスゴスッ 蹴った。蹴りまくった。牧瀬の腹、背中、腰、尻、太もも、手足、頭……とにかく体中をまんべんなく蹴りつけてやった! 


 「うぅ………かはっごほっ」


 血の咳をする牧瀬の髪を掴んで、顔を地面に何度かぶつけてやる。もういっぺん持ち上げてみると、鼻血をぼたぼた流して瞼を切った面になっていた。


 「ぶわはははははっ、テメェ今、アイドルとして到底見せられねー面になってるぜ!?せっかくの整って可愛げあった顔が、ぐちゃぐちゃになってて台無しになってっけど、今どんな気持ちだよオイ」

 「ごほごほ……っ あ、はは………。先輩、私の顔、可愛いって思ってくれてたんですね……。嬉しい、です」

 「あァ!?そういうことを聞いてんじゃねーんだよ!!余裕こいてんじゃねーぞ!クソアイドルがっっ」


 ガン! もう一度地面に顔を強く叩きつけてやった。


 「テメェといい、どいつもこいつも詭弁並べて自分を正当化してきやがるよな!

 お前に問題があるのがいけないんだ、悪いのはお前だって、弱くて無能なくせに未練がましく諦めないでいるのがみっともなくて鬱陶しいだって……っ」


 また髪をぐいと引き上げる。額も切れて顔半分が血まみれとなっている。


 「うるせーんだよクソが!!こっちは生活がかかってるから、わざわざ不向きで危険な職業にしがみついてたんだろが!!安全で安定した収入が約束されたとこで働けるようになったら、こんな職業すぐにでも辞めてやるつもりだったんだよ!!

 どれだけ鍛錬しても強くなれず、あれこれ試行錯誤しても成長出来ないこんなクソ職業、誰が好き好んで続けようと思うかよクソボケが!!才能豊かで育ちと環境に恵まれまくってるテメェらと違って、何もかもが不遇でお先が真っ暗な僕の方がなァ、誰よりも諦めたくて仕方無かったんだよ!!」


 ギリギリと髪を掴む力を強くしてやると、苦悶の悲鳴が聞こえてきた。


 「テメェなんぞに、僕のこの苦しみと屈辱と怒りにまみれた気持ちが、分かってたまるかよクソっタレがぁぁぁあああああああ!!!」


 これまでのクソっタレな人生に対する怒りを込めて、思い切りぶちまけた。牧瀬は苦悶な表情のまま、静かに聞いているだけだった。


 「………良いこと思いついたぞ。オイ、このまま死なれると不完全燃焼だから、さっきみたいに自分で身体を治してみせろ。攻撃の意思を少しでも起こしやがったら、即殺すからな」


 髪を放して解放すると同時に拳銃を突き付けながらそう指図すると、牧瀬は魔術杖で「治癒」を発動させ、顔や体の深刻なダメージを回復させた。


 「よぉし。じゃあ次は―――」



 数分後。



 「皆さん。今日は告知無しの突発的な(ゲリラ)ライブ配信となりましたが、こんなに多くの方々が集まっていただき、大変感謝しております。

 では、だいぶ人が集まってきたようなので、そろそろ始めようと思います」


 牧瀬のスマホから飛び出ているホログラム映像。そのそばに常設されているチャット欄は大いに賑わっていて、同接数は既に10000を超えてやがった。ゲリラライブであるにも関わらず凄い人気っぷりだ。イライラしてくるぜ……!

 まあいい、今ばかりはその人気っぷりに感謝しねーとなァ。お陰でこれからサイコーに面白れェ「復讐」が出来るんだからよォ。


 「探索者の霧雨咲哉さんに対する、謝罪配信を―――」









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