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42「牧瀬詩葉に教えてやる」


――咲哉視点――


 「ば~~~~~っか!そんな都合良く、誰かが助けに駆けつけてくるなんて展開になるわけが―――」


 宮木小恋乃を絶望に叩き落とそうと言葉でさらに追い込んでやろうとしたその時、


 「そうでもないですよ。霧雨、先輩…………」


 後ろから上がってきた少女の声に、僕の声が遮られてしまった。


 ……僕のことを「霧雨先輩」って呼ぶ奴なんざ、一人しか心当たりがいねェよな。


 「こんな人気の無いところで女の子に詰め寄って、怒鳴り声や罵声を浴びせるなんて、いったい何をやってらっしゃるんですか?」


 宮木から視線を外し、後ろを振り返る。予想通り、僕の背後をとってやがったのは、同じ北関に所属する国内二桁位の上位ランカー、牧瀬詩葉まきせうたはだった。既に魔術杖を抜いて、先端を僕の方に向けてやがる。


 「牧瀬詩葉……。テメェこそ僕に杖を向けるたァ、どういうつもりだ?」

 「ついさっきここに着いたばかりなので、小恋乃さんに詰め寄ってるのが大きな魔物かと思ったんです。ですが杖を向けながらここまで近づいてみれば、霧雨先輩だったのでびっくりしました。

 先輩、その姿はいったい………」

 「色々あって馬鹿強くなった結果だ。そんなことより、テメェはここからどうする気だ?」

 

 僕の質問に対し牧瀬は無言のまま魔術杖を振るった。すると、バラバラに倒れていた宮木のパーティメンバーが彼女のもとに集まった。死んでいる鳥野を除いて。


 「これは……詩葉さんの“念動力テレキネシス” 人を動かすこと自体かなりのレベルになりますのに、それも三人同時も……」


 感嘆を漏らす宮木に、牧瀬は眉を八の字にさせた悲痛な面で問いかける。


 「小恋乃さん、鳥野さんはその………やっぱり」

 「……ええ。お察しの通りですわ。彼はもう死んでしまいましたの。そこの男に殺されましたわ………」


 すると牧瀬が何とも言えない表情で僕を見てきた。


 「あ?何だよ?何その目、顔は?何が言いてェわけ―――」

 「霧雨先輩。話をしませんか?」


 また僕のセリフを遮ったうえ、話をしようとか言ってきやがった。


 「そして小恋乃さん、私が霧雨先輩を足止めしておきますので、その間に皆さんを連れて逃げて下さい。小恋乃さんの固有スキルなら、みんなを連れてここから離脱することも出来ますよね?」

 「それは、そうですけど……詩葉さんはどうするつもりですの!?あの男はあまりにも危険過ぎますわ!あなたが以前から知ってらっしゃる“最低級”なんかじゃなく、むしろ国内のトップ……いえ世界上位ランカー相当の怪物と思った方が………」


 その時僕が立っているところにだけ、大きな火の包囲網が出てきやがった。体に火は当たってない、あくまで僕を火で囲い込むのが目的の魔術のようだ。


 「霧雨先輩、高位パーティ『ミヤマキ』を壊滅させるくらい強くなられたそうですが、私の魔術で出来た火に触れれば、ただではすみませんよ?

 小恋乃さん!今のうちにスキルで離脱してください!まずは皆さんの無事を確保することが先です!」


 牧瀬は僕を火の包囲網で牽制しつつ、宮木にここからの離脱を強く促す。その宮木はというと、体中からさっきと同じ光を放ち、まだ息がある三人の体を抱え込んでいた。


 「詩葉さん!わたくし達が離脱したらあなたもすぐさまその男から逃げて下さいまし!!もし逃走に失敗したとしても、わたくしが必ず助けを連れてきますわ!!

 だから、絶対に死なないで下さいまし……!!」

 「……分かりました!もしもの時は、どうかお願いしますね」


 宮木の切実な呼びかけに、牧瀬はにっこり笑顔でそう応えた。そして宮木は固有と思われる何かのスキルで、仲間の三人と一緒にここからいなくなった。同時に僕を囲ってやがった火も消えて無くなった。


 「ちっ、せっかくもっと追い詰めて屈辱と絶望を味わわせてから、無惨に殺してやろうと思ってたのに。何邪魔してくれてやがんだよテメェ、あァ?」


 宮木を逃したことを悔しがりつつも、ぶっちゃけた話、やろうと思えばあんな火の包囲網ぶち破ることは出来た。あえて大人しくしていたのは、宮木を追うよりもたった今駆けつけてきたこの女の相手をする方が面白そうだと思ったからだ。


 「ま、いいか。テメェとの件を片付けた後で、あの女を追っかけてぶち殺しゃあいーんだからなァ」

 「さっきから殺す殺すって………。その姿や喋り方も、以前とは全くの別人じゃないですか!霧雨先輩……いったいどうしてしまったんですか?」

 「は……?どうしてしまったのか、だと?」


 さっきまで宮木たちに対する怒りや殺意でいっぱいだった僕の頭の中は、今度は目の前のクソアイドル配信探索者に対する怒りに侵食された。


 「見ての通りだが!?テメェら僕を散々馬鹿にしやがった人間に対する怒りと憎しみと嫉妬で、こぉぉぉんな姿になって、めっちゃくちゃ強くもなりましたがァ!?

 なんなら今からサシでやり合ってみるか?ランキング二桁位が相手だろうが、負ける気が全然しねーんだわ!」

 「霧雨先輩、まずは話をしませんか?まず、先輩がやったのですか?小恋乃さんのお仲間の、鳥野さんを……あんなのにしたのは」


 牧瀬はまた悲痛な顔で、鳥野とかいう宮木の腰巾着ゴミカス野郎を指して尋ねてくる。


 「何べん同じことを尋ねてやがんだ!宮木が言ってたろ!僕がそいつの頭を銃でふっ飛ばしてやったんだよ!!」

 「……っ どうして………そんな、ことを?」

 「決まってんだろ!僕を見下しながら聞くに堪えない侮辱の言葉を浴びせて、馬鹿にしやがったからだ!幻のダンジョンを制覇してバケモンみたいに強くなったのに、あいつらは以前と同じように僕の尊厳を踏みにじってきやがったんだ!!だから、ぐっちゃぐちゃにして分からせてからぶっ殺してやったのさ」

 「幻のダンジョン?馬鹿にされたから……?何を………言ってらっしゃるんですか…!?」

 「このエリアのどこかにあったUnknownランクのダンジョンから生還した時から、

僕には決めてることがあるんだよ。

 今まで僕を見下して馬鹿にして、理不尽な虐めと仕打ちをしやがった奴らへの復讐。それとこれから僕をまだ底辺弱者と見くびって馬鹿にしてくる奴らにも屈辱と恐怖と絶望の淵に叩き落として惨い目に遭わせてやるってな!」


 牧瀬は理解不能といった感じの顔をしてやがる。そんなこいつはまだ自覚してねェようだな……なら言ってやるかァ!


 「テメェも復讐の対象になってっからな?牧瀬詩葉!」

 「え………?」

 「テメェも僕が探索者であることを否定したよな?リスナーと一緒に探索者を引退しろと指図して生配信で僕を底辺弱者扱いしやがった。その次の日なんかは、才能無しの底辺だ惨めだ醜態晒してるだ、散々ボロクソ言ってくれたよなァ!」

 「それ、は―――」

 「そういうわけで、テメェにも僕が今まで受けてきた屈辱、怒り、痛み、絶望を存分に味わってもらうぜえ!?

 そして教えてやる……思い知らせてやるよ!僕が世界最強と名乗るに値する存在であることをなあ!!」

 

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