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41「宮木小恋乃を分からせる」


――小恋乃視点――


 「辰男さん!?ダメですわ―――っ」


 霧雨咲哉の挑発に乗って引き返して行く辰男さんを呼び止める――が、彼は止められなかった。辰男さんは怒声を上げながら霧島咲哉に突撃し、棍棒の連撃を繰り出した。

 ところが霧雨咲哉にはどれも全く通用せず、辰男さんは彼に蹴とばされ、踏みつけられ………またも瀕死の危険な状態に……っ


 「そんな、国内ランキング190位の鳥野さんが手も足も………」

 「な、何とかしないと………また――」


 仲間の呟きを聞いた瞬間、わたくしはもう一度固有スキル「神速」を発動しようとする。

 しかしその時、霧雨咲哉の視線が一瞬、こちらに向けられた。あの距離からこちらの意図が気取られた…!?

 彼は何か呟くと、何も無い空間から拳銃を取り出し、辰男さんのこめかみに銃口、を―――


 「ま、待って!やめ――――――」


 ドパァン―――!


 「あ………………」


 固有スキルを発動しようとしたまま、私は体を硬直させていた。仲間たちも顔を凍りつかせていた。みんな、辰男さんの………著しく損壊した首から上の―――


 「―――っうう!」


 脳の理解が追い付いた途端、ショックと眩暈から顔を逸らしてしまった。


 「あ、あああぁぁ!辰男さんが殺された、死なせてしまった……!わたくしがついていながら、何てこと…!わたくしが不甲斐ないばかりに、こんなことに―――――っ」

 「小恋乃さん!気をしっかりもって!!とにかく今は、あの男から全力で逃げることに集中しましょう!!鳥野君のことは残念だけど、ここで全滅するのが一番最悪!!そうでしょ!?」


 私の肩に手をやり揺さぶりながら呼びかけてくれたのは、瀬里穂さんだった。彼女の呼びかけで気が動転し冷静さを欠いてしまっていたわたくしに我を戻させてくれた。


 「……ごめんなさい。瀬里穂の言う通りですわ……。辰男さんのことは全員あの男から退却出来てから考え―――」


 「だからァ、何僕から逃げようとしてんだよ!?上位ランカーパーティのくせによォ!?」

 「「「「!?」」」」


 退路の方を振り向くと、霧雨咲哉の姿が…!?あ、あり得ませんわ!?こんな一瞬でわたくしたちの背後に回るなんてっ、これじゃあ私の「神速」並じゃないですの!


 「つうかよォ―――逃がすわけねェだろが!僕を散々見下して馬鹿にしておいて、何の落とし前つけず帰るだァ!?こんなご都合が、僕に通用すると思ってんじゃねェ!!」


 耳朶を震わせる怒号の後、彼はその場での跳躍一つで、私たちの目の間に立ちはだかった…!


 「く―――っ」


 腰の鞘から二振りのブレード(刀身から高周波震動を放つ特製)を即座に構えて、右の刃を振るった―――紙一重で躱され、


 ドコォ 「かーーーっは―――」


 カウンターの肘鉄を胴の真ん中に打ち込まれ、ダンジョン前まで吹き飛ばされてしまった。


 ドカッ 「ぁ……うぅ」

 

 背中を壁に強く打ち付け、意識が数瞬とんだ……。地面にべしゃっと倒れてそのままうつ伏せのまま気絶していたが、耳を劈く爆音ですぐさま覚醒し、顔を上げる。


 「い、いったい……何が―――――――」


 出そうとしていた声がひゅ――と詰まり、引っ込んだ。眦がこれまでにないくらい大きく広がっていた……人間それだけ酷くショッキングな光景を見るとこうなってしまいますのね、と後々になって気付くことになる。


 「瀬里穂さん!夏奈さん!尚人、さん……っ」


 わたくしの大切な仲間たちが……「ミヤマキ」のパーティが、瞬く間に壊滅してしまいった………………


 「が……っ 小恋乃さん、早く……逃げ―――」


 ガァン! 私に呼びかけていた尚人さんだったが、髪を掴まれ地面に思い切り叩きつけられた。尚人さんは白目を剥いて、沈黙してしまった。


 「ケケケ、ヒーラーのこいつが意識失っちゃあ、もうだ~~れも傷を癒せねーよなァ?

 聞こえてるかァ、宮木小恋乃。これからテメェの残りのお仲間を全員、撃ち殺そうと思うんだが」


 霧雨咲哉はヘラヘラした口調でそんな最悪なことを告げる。そして宣言通り、辰男さんを射殺した拳銃を再び手にして、手足が折れ曲げられた瀬里穂さんの頭に銃口を密着させた―――


 「やめて―――お願い、止めて下さいましーーーーーーっ!!」


 固有スキル「神速」を発動―――一瞬で二人の間に割って入り、銃口を自分のこめかみに向けさせた。力を溜めれば、このように視界の範囲内限定で瞬間移動することも可能となる。


 「はあ、はあ、はあ………っ」

 「ほーう?見事な瞬間移動だ。“神速の小恋乃”って自分で名乗ってやがるだけあるな?

 で?ここからどうすんの?何を見せてくれんだ?」


 霧雨咲哉は余裕たっぷり、下衆で悪辣、そして嗜虐性に満ちた瞳で、薄く笑っていた……。まるで私が何を為そうが、自分には一切通用しない……そう言われているようだった。


 ………ダメですわ。これまで出会ってきたどの探索者さんとは決定的に違い過ぎてますわ。身に纏っている邪悪な雰囲気もそうですけど、振るう力までもが、人離れしてると言っていい程……。

 先ほどの一撃で、力の差は嫌という程に思い知らされましたわ……っ

 わたくしだけでは仲間たちを庇いながらこの男の対処なんて、出来っこありませんわ!


 「どーした、何だんまり決め込んでやがんだよ、国内100位の上位ランカーさんよォ?僕と違って人や環境に恵まれてて。僕と違ってたくさん努力すればちゃんと臨んだ結果が得られ……。上位ランカーにもなれてみんなに注目してもらえ、今や人気アイドル配信者になって全国からちやほやされてもらっている、才能と人望に溢れた、持てる人よォ!?」


 妬みを含んだ声をかけられ、身体が竦む。私は両手別々のブレードを地面に落とし、降伏のポーズをとった―――。


 「―――お願いしますわ………わたくしのことはどうとなさっても構いませんので、パーティの方たちをどうか、見逃して欲しいですわ……!三人とも私の大切な仲間ですの。もちろん、辰男さんもその一人でしたが………」


 霧雨咲哉はぽかんとした顔で私を見つめたのち、ひどく可笑しそうに笑った。


 「オイオイ、随分あっさり降伏すんのな!?テメェのようなお高くとまってやがる高飛車女は最後まで抗ってぶち殺されんのかと思ってたから、拍子抜けだったわ、ククク………!」

 「お願い、しますわ……この三人だけでもどうか助けて―――」

 「てか待てやゴラ。さっきから何テメェが頼み事してやがんだ?さっき殺してやった男が僕をいちばん馬鹿にしてやがったが、テメェも僕を見下して、散々暴言を吐いてくれたよな?」


 髪の毛を逆立て、血走った眼で睨みつけながら、わたくしに言われたことについて恨みつらみをぶつけてくる。 

 そうでしたわ…!この男は先ほどからずっと、わたくしたちの言動に怒り狂っておられたのでしたわ……。


 「あ、あたの気に障った数々のお言葉………て、撤回させていただきますわ!あなたの力は本物であると訂正させて下さい………」

 「このクソアイドルが、ちゃんと謝ることも出来ねェのかよ?人を才能無しとか貧弱とかグズとか罵って、好き放題に馬鹿にしやがってよォ!!

 謝罪すんなら“ごめんなさい”だろォォォがよーーーーーっ、ふつーさァ!!」


 爆音のような怒声とともに、とんでもない重圧が全身を襲う………っ 

 だ、ダメ……今にも圧し潰されて、どうにかなっちゃい、そう―――


 「―――かはっ!ひ、酷いことを言ってしまって………ごめん、なさい―――っ」


 必死に声を振り絞って、「ごめんなさい」を伝える………


 「あァ?聞こえねェんだよ!もっとはっきり言えや!!謝る気無ェなら、テメェもこの三人もぶち殺しちまうぞ、アア!?」


 醜い、おぞましい……!だけどそれ以上に、怖い……!!


 「ご、ごえんなさぁぁい…!ひくっ、うぇぇぇぇぇぇっ」


 もう、限界ですわ………。何かが折れて、決壊してしまって……長い間心の奥に押しとどめていた弱い自分がもう、勝手に出てきてしまっ………


 「ぶははははは!高校生にもなってなんつー惨めな泣きっぷりだよ!?」


 霧雨咲哉は嘲笑いながら、泣きじゃくるわたくしをスマホで撮りはじめた。隙だらけの彼に反撃する気力すら、もうどこにも無かった。


 「だえかぁ、助けてくださいまし……たすけてぇぇぇぇぇぇ」

 「ば~~~~~っか!そんな都合良く、誰かが助けに駆けつけてくるなんて展開になるわけが―――」


 「そうでもないですよ。霧雨、先輩…………」


 霧雨咲哉の声が、女性の声に遮られた。


 「あ………………」


 息を切らしながら発されたその声は……。昔も今も私が憧れて、ライバル視して、でも本当は好きな……あの方の―――



 「詩葉、さん―――」




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