40「ミヤマキパーティを分からせる」3
「間一髪、でしたわね……!」
鳥野は宮木の両腕に抱えられてやがった。この僕の豪速パンチから避難させるたァ、大した素早さだな。
「ああそうだ、テメェの最大の持ち味は、そのハンパ無い移動速度だっけな。ちょっと前にテメェのライブ配信で自慢してたの思い出したぜ」
「ふ、ふぅん?わたくしのチャンネルの配信を見て下さったことありますのね、光栄ですわ。
それりあなた今、辰男さんを殺すつもりで殴ろうとしましたわね?」
「たりめーだろ?そういうテメェらも正当防衛だとご託並べておいて、殺す気満々だったろうが。見ろよこの槍、スキルが発動してなかったら僕は今頃死んでたろうぜ?」
胸板に突き刺さったままの槍を指して笑ってみせる。槍を引っこ抜いて、柄の方をバキっとへし折ってやった。
「やっぱり、その身体はスキルによるものでしたのね……。何なのですか、そのスキルは……!?」
「これからぶち殺されるくせに、それを聞いてどーすんだよ?まァ冥土の土産に一つだけ教えてやるよ。このスキルはなァ、負の感情を呼び起こす程、性格が最低にひん曲がる程、僕を強くしてくれんだよ!」
「負の感情で……?何ですの、そのデタラメな仕組みは―――」
「小恋乃さん!戸惑う気持ちは分かるけど、今はあの男を私たちで無力化させるか、ここから退却するかの判断をお願い!」
パーティの女探索者が宮木の横に並んでそう提言する。その傍らでは白いローブの男が大ダメージを負った鳥野を介抱している。よく見ると白いオーラを発した手を当てて、奴の身体を癒してやがる。あれは汎用スキルの「治癒」。てことはあの白ローブ野郎のジョブは治癒師か。
「治癒スキルは汎用スキルの中でも稀少とされてるんだっけか?そのスキルが使えるヒーラーはパーティ編成において重宝されるんだってな?強い探索チームには、治癒スキルが使えるヒーラーが必ず入ってると聞くが……」
鳥野がすくっと起き上がった。地面に叩きつけられたダメージから回復したようだ。灰色の外套をまとった女が鳥野に長い棍棒を渡した。あのリュック、僕の空間収納機能と似た収納性能のやつだな。あれを使えるってことはあの女、道具収納の役目を担ってやがるな。人よりも多く道具を運び、使いこなせるジョブと聞く。
「ヒーラーにポーター……良いよなァ、そうやってみんなで足りないところを補い合ってくれる仲間。仲良さげに連繋し支え合える仲間……。みんなと協力し協調することで何かを成し遂げられて、絆が絆が深まる……っ
どれもこれも、僕には無いものだ……!僕がどれだけ望もうが全く得られなかったものだ!貧弱で才能が無いせいで手に入らなかったものだ!いいよなぁテメェらは!僕が持ってないものをたくさん持っててよォ!?
なのに――――ッ」
嫉妬の感情がメラメラこみ上げ、劣等感や怒りが激しく掻き立ててくる……!
「なのに持てる者のテメェらはどうして、持たざ者る僕のことを虐げやがんだ!?見下して馬鹿にして、心無い罵声を浴びせてきやがんだ!?底辺の人間をいちいち蔑んみ辱め、排除までしねーと、気が済まねェってか!?
何なんだテメェらは!!何にも恵まれず不遇にまみれた僕に対する当てつけのつもりか!?」
どうして。あいつらはいっぱい良い思いしてるのに、どうして自分は損ばかりで報われないんだ?
「どうして、僕ばかりがぁぁぁぁぁぁ!!」
さらに負の感情を呼び起こし、全身が炸裂したような感覚が。何か僕の体、黒くなってね?でもまあいいか。さっきよりも力が漲ってて、いっぱいぐちゃぐちゃにしたい気分になったから……!
――宮木小恋乃――
「な、何なんだあいつ……っ 万年底辺の最弱だった奴とは思えない、禍々しい存在感だ…っ」
辰男さんが霧雨咲哉のおぞましい姿に戦慄している。彼の体は尚人さんの治癒スキルですっかり回復している。
「小恋乃さん……あれと戦うのは、何かまずいような………」
ポーターの夏奈さんが撤退の意を述べる。かくゆうわたくしも霧雨咲哉と戦うのは……避けた方が良い、そう判断しようと思っている。
「どうして、僕ばかりがぁぁぁぁぁぁ!!」
彼はさっきから、自分が持たざる者だ私たちが持てる者だとよく分からないことを言っている。しかし彼がわたくしたちの言動で怒り狂っていることだけは、分かる。
「小恋乃さん、戦闘か撤退か。指示を――」
今の霧雨咲哉は、人間というよりは魔物、あるいはもっと恐ろしい獣のよう。力も“最低級の探索者”からはかけ離れた強さがあって、未知数…!
ここで戦うのは、やはり危険―――
「――ミヤマキの皆さん!ここは退却しますわよ!北関東支部の探索者ギルドに戻って、詩葉さんと合流しますわ!もしかしたら道中で合流するかもしれませんし!」
わたくしが指示を出すと全員頷き、来た道を辿っての退却を決行した。
「ああ?おいオ~~~イっ!逃げんの?まさか最低級の底辺弱者ごときに尻尾巻いて逃げちゃうの~~~?オイオイオーイ!?
ちょお~~~っとコケ脅しで感情を爆発させてやっただけなのにビビッて逃げ出すとか、上位ランカーのパーティとか言っておいて実際はただの腰抜け一味じゃねーかよ!?ぎゃははははははは!!」
思わず振り返りそうになったけど、どうにか我慢ですわ!見え透いた挑発なのが明らか。みんなも堪えて下さってる、このまま相手にすることなく―――
「ランキングはるか格下の奴相手に必死こいて逃げるテメェらのリーダーのレベルも、たかが知れてるなァ?そんなんでよく国内100位名乗ってるぜ?ホントはそんな実力無ぇんじゃねーの?ランキングを管理している協会のお偉いさんにウリでもやって、上げてもらったクチじゃねーのかァ?
そのやらしい胸で誘惑して、一生懸命枕で落として、得た順位じゃねーのかァ?所詮は口と体だけの、ゴミ探索者なんだろテメェらもよォ!!」
どん!その時、後方で地面を強く蹴る音が。振り返ると、殿を務めていた辰男さんが、怒りの形相で霧雨咲哉に殴りかかっていた。
「辰男さん!?ダメですわ―――っ」
立ち止まり、手を伸ばして制止するよう呼びかけるが、彼は止まってくれなかった―――
――咲哉視点――
悪意には、より強い悪意でやり返す。ただそれだけでいい。
僕は今まで自分が言われたくないことを周りから散々言われてきた。だから僕もあいつらにとって言われたくないことを声を大にして、言ってやるのさ!!
そうすりゃあ、ほぉら―――
「――卑怯な方法で強い力を手にしたのはお前の方だろ、“最低級”が!それ以上、俺たちの大事なアイドルを侮辱するなぁぁぁぁぁ!!」
格下だと思い込んでいる奴に煽られてキレた馬鹿が、釣れた!
「小恋乃さんは並大抵ならぬ努力…鍛錬を積んで、今の地位まで上りつめられた方だ!底辺しか這いずり回れないのを卑屈に俯いてるだけのお前ごときが、彼女を貶めるなぁ!!」
鳥野は身長よりも長い棍棒を構えると、ボッと顔面目掛けて丸い先端を突き出してきた。こちらの頭蓋を狙った一撃だ。やっぱり殺す気できてやがる。
ひょいと軽く躱すが、棍棒の突き攻撃は二度三度とまだまだ続く。ひょいひょいと躱し続ける。
「くそ、このおおおっ!底辺は底辺らしく、ドブでも這いずってろよおおお!!」
奴が動きを変えた途端、背後に回り込まれる。回転を加えた棍棒の横なぎが迫ってくる―――両の巨腕でがしっと受け止めてやった。
「ぐ、この……放、せ―――」
「ごっちゃごちゃうるせーなァ。いつまで僕を馬鹿にしやがんだよ、クソゴミがぁあぁぁ!!」
グンと棒を引き寄せて、鳥野もこっちに引き寄せて―――
ドゴォ!「ぐわっ」
巨脚から繰り出す膝蹴りをくらわせた!
ゴスッドスッメキャ 「がふっ、ぐは…………」
倒れ込んだ鳥野を何度も蹴飛ばし、踏みつけ、蹴り砕いてやった。せっかく回復してもらったのに、また虫の息になっちまったなァ!
「くそ、くそぉ……何で俺が、こんな奴に………ぃ」
「あ?こんだけ痛めつけられてまだ僕を見下してやがんのか?テメェマジでムカつな。ムカつくしウザいから、もう死んどけ、クソアイドルの腰巾着野郎」
ドパン! 空間収納から取り出した拳銃を片手で弾いて、鳥野の頭を吹き飛ばしてやった!
「はいまずは一人~~。僕を馬鹿にするクズどもは、怒りと嫉妬と劣等感のパワーでぐっちゃぐちゃにしてやるからな~~~~~!」




