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「最低級の底辺探索者」2


 月曜日の朝。僕は校長室に呼び出されていた。


 「率直に告げよう。霧雨咲哉くん、君にはこの学校を去ってもらうことになった。退学だ」

 「た、退学……!?そんな、どうしてですか!?」


 あまりの突然過ぎる宣告。頭を殴られたような衝撃が頭の中を駆け巡った。校長先生が言うには、僕の学力がこの学校でやっていくには相応しくないとのこと。僕の担任と学年主任がそう判断したようだ。

 確かに僕の成績は良い方とは言えないものだ。むしろ、悪いと言っていいくらいだ。探索者活動とアルバイトばかりに時間を割いていたせいで、勉強が疎かになっていたのは事実だ。それに関しては僕にも非があるけれど……。


 だからといって、大学受験を控えたこの年まできて今さらそんな理由で退学させられるなんて!いくら何でもあんまりじゃないか!


 「君の担任と前年の主任はこれでもどうにかしようと色々手を回してはいたのだよ。ところが今の三年の主任が例外は認められないと断固とした姿勢を崩さなくてね。校長たる私まで規則を破るわけにもいかなんだ。

 そういうわけですまないが、分かってくれ…。進学を望むのなら、高卒認定試験を受けるのも手だ。もしその気があるのならこの後、進路指導室に―――」


 校長先生の話の後半は、頭に入ってこなかった。どうしようもない現実に打ちのめされていた。

 大学へ進学する為に高校を卒業しようとしていたのに。探索者を引退する為に高校を卒業して、大学でちゃんと勉強をして、就職に繋げようとしていたのに。

 大学の学費も払えるよう、探索者とアルバイトで学費を稼ぎ続けてきたのに。


 高校での勉学を疎かにしたせいで、退学……言葉通りなら自業自得、本末転倒ってなるんだろうけど。僕は……怠惰で成績を落としてたわけじゃないのに…っ 

 

 「霧雨、お前は学外ではアルバイトの他、探索者もやっているそうだな?ふん、学生の本分は勉強であるというのに、そんなものにかまけていたからこのような事態を迎えたのだ。

 お前の人生、まだまだ長い。この失敗を教訓に、今後の人生もっと賢く上手くやっていくんだな」


 学年主任は冷たい眼差しで僕に説教するが、完全に他人事として事務的にそう告げているようだった。実際に、この男は僕のことなど生徒ですら思ってないのだ。

 どう足掻いても覆せない現実に抗う気力を失せた僕は、絶望を漂わせながら校長室を出た。


 昼休み、教室の自分の席でこの先どうしようかとぼんやり思考してると、誰かが机に手をバンと乱暴に乗せた。


 「おいおいお~~~いっ!?霧雨、お前学校辞めるってマジなん?」


 赤メッシュの黒髪、着崩した制服の柄悪い男子生徒が、悪意ある笑顔で僕の肩に馴れ馴れしく手をかけてくる。

 こいつは間野木志朗まのきしろう。こいつとは中学からの長い付き合いになる。悪い意味で。

 中学時代からずっと、こいつから犯罪にギリギリ触れないレベルの虐めをされている。

 高校に進学して探索者を始めてからは過激な嫌がらせをしないようになったけど、虐めにぎりぎり触れないレベルのいじりは相変わらずだった。

 特に最悪だったのが、去年の体育の授業。一般人である間野木に体力テストで惨敗してしまった。それ以降、僕は一般人より弱いド底辺探索者…と学校で馬鹿にされるようになった。

 間野木グループには弁当箱を捨てられたこともあれば、ロッカーに閉じ込められ「自力で出てみろよ」と煽られたこともあった。


 「お前、勉強の成績が原因で退学って、そんなことあるか普通!?どんだけ馬鹿なんだよお前ぇー!うえぇ~~いっ」


 ドッ「……っ」


 肘で肩をつよくどつかれた。


 「あれぇ、ゴメンゴメン!そんな強く突いたつもりなかったんだけどなー?つーか霧雨って探索者だよな?これくらいのイジり平気だと思ってたんだけどぉ~~~なっ」


 さらに数回、強くどつかれる。


 「ははははは、お前探索者のくせに体弱過ぎじゃね!?マジだせーなおい!はははははは」


 間野木もその取り巻きも教室にいるクラスメイトも僕を見て笑う。


 「つーかマジで学校辞めるのかよ?俺寂しいよ……だって、せっかく………」


 先程までの嘲りから一変、間野木は泣き顔で悲しそうに言葉をこぼす。


 「せっかくの、都合の良いオモチャがいなくなるなんてさぁ~~~~~っ!?あはははははは!」


 しかしそんなウソ泣きはすぐに引っ込めて、また馬鹿にしたように皆で笑うのだった。


 「あーそうだ、いいこと教えてやるぜ!来週から俺もお前と同じ探索者を始めるんだよ!パーティももう出来上がってる、この学校の同級生たちで組んだのさ!」


 間野木は傍に立っているクラスメイトの男子たちを指して、自信たっぷりに話す。


 「前に探索者ギルドで適正試験を受けたら、試験官が“君は才能がある。近い将来上位ランカーも夢じゃない”って言われたぜ!いや~~~さすがの俺もあれには照れたぜぇ!」


 パーティとなるクラスメイトたちと肩を並べて、自慢げにそう語る。


 「というわけで、い・ち・お・うは先輩探索者の霧雨先輩に挨拶を、と思ってさぁ?あーでも、霧雨先輩は俺と違って才能無しのド底辺らしいから、こりゃあ俺が先輩を追い越すのは、すぐじゃないかな~~?」


 その後も間野木は僕に嘲りたっぷり含んだ言葉をかけ続けた。クラスの誰も、僕が退学すること関して無反応で、気にかけていなかった。




 高校も、その前の中学でも、良い思い出なんて何一つ無かった。根暗気質なのを理由に周囲に馬鹿にされ続け、味方と呼べる人なんて一人もいなかった。学校内でも僕の周りには嫌な気持ちにさせる人ばかりだったから、自然と人と関わるのが嫌になった。

 僕が味方と呼べる人は、僕が安心していられる場所は、父と母がいたあの家の中だけだった。





 翌日の放課後。長下部や浦辺にやられた傷がすっかり癒えて、間野木たちに馬鹿にされた鬱憤も晴らしたいから、初心者向けの探索エリアで活動をすることに。

 今日はEランクの魔物を積極的に狩って、いつもより多くの素材を集めてみせる。そして出来ることならそろそろ、次のランクへのステップアップに繋げていきたい!


 そう意気込んで、魔物がいるエリアへ移動する途中で、


 「あ……」

 「……………」


 人気配信探索者の牧瀬詩葉と遭遇した。彼女は配信用スマホを手にしてはおらず、服装も長下部の虐めから助けてもらった時と同じだ。今日はライブ配信はせず、活動に専念しているようだ。

 彼女は無言で僕に会釈をする。が、その直後冷たい眼差し、見下した目を向けてきた。


 「霧雨先輩……あなたは本当に学ばない人なんですね。あなたみたいな才能無しの底辺が、こんなことを続けていてもお先真っ暗だというのに」


 かける言葉も、いつにもまして辛辣なものだった。


 「……………」

 「何ですか?何か言い返そうとはしないんですか?」

 「別に………無いですけど」

 「はぁ、そうですか。それで、今日は魔物を狩りに?」

 「まあ、そうです。あと、換金出来る鉱石の採掘も少しは、と」

 「そうですか。採掘頑張ってくださいね。でも、魔物と戦うのはもう止めた方がいいですよ?あなた、戦闘の才能全然無いんですし」


 またも棘のある言葉。彼女が吐いたため息には侮蔑が混じってる気がした。


 「前にも言ったけど、才能が無くても探索者を辞める理由には―――」


 するとその時、牧瀬さんは突然、太もものホルスターから魔術杖を取り出すと、僕に杖を向けた。


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