39「ミヤマキパーティを分からせる」2
辰男とかいう男の探索者がまた何か言ってきた。「鑑定」で奴の素性を調べたところ、苗字は鳥野……とりの。年齢22才、見ての通り槍などの長い得物を使った戦いに長けている、と。
「辰男さんの言うことはもっともですわね。探索エリアでの活動にはおよそ相応しくない薄手のシャツと短パン。しかも武器と呼べるものはどこにも携帯しておらず、探索活動用のリュックもポーチもお持ちでない…。
まるで近所の散歩にでもしに来たような服装と装備ですわね。あなた、ここに自殺でもしに来られましたの?」
「誰が死にに来るかよばぁ~~か………って言いたいとこだが、少し前に別のエリアでマジで死のうとはしたからなぁ」
「何を言っておられますの?とにかく、あなたが真面目に探索活動をしに来たようには思えませんわね!」
「いや、これでも真面目に探索活動やってるんだが?」
「そんな無防備の格好で?本気で言ってますの?
よく聞きなさい?今回のダンジョン攻略に対し十分な準備を整えて、体調管理もしっかり行って、覚悟も決めて、私たちはここに来ていますの!
なのにあなたは、ロクな装備も備えもせずにヘラヘラと……っ 遠足気分でこの地に足を踏み入れているあなたは、はっきり言ってとても不愉快ですわ!」
はあ?何こいつ、いきなりごちゃごちゃと切れてきたんだが?
「あなたが“超人”もしくは“十王”と呼ばれる程の世界トップの探索者であれば、その無防備さは強者の余裕としてまだ見受けられますわ。もしくは、Sランクのダンジョンを制覇した実績がおありになる方か。それならまだ分かりますわ。
でもあなたからは、そんな偉業を成し遂げたような人物のオーラも力量も、何一つ感じられませんわ!」
「小恋乃さんのおっしゃる通りだ!事実、お前は世界のトップランカーどころか、国内で底辺を這いずり回っているドベなんだってな!少し前、詩葉さんの切り抜き動画でも、彼女から引退を勧められてたよな?探索者としての実力も才能もあまりに欠けてて、この先お先真っ暗だとか何とか評価されてたよな、お前」
宮木だけでなく鳥野とかいうこの女の腰巾着野郎まで、僕を詰ってきやがる。しかも、嘲りを含んだ顔で……。こいつからは特に悪意を感じられる。殺意がふつふつと………。
「そう言えばそうでしたわね。詩葉さん本人にも、あの方のリスナーさん達にも散々ボロクソに言われてましたわね。それだけあなたがどうしようもなく弱くダメな探索者ということでして?実際、そうなのでしょ?」
気付けばこの二人だけでなく、他のパーティメンバーまで僕を馬鹿にした目を向けるようになった。
「詩葉さんにまで否定的な言葉をかけられ、残り物の素材の施しまで与えられるなんて、なんてうらやま……じゃなかった、惨めにお情けをかけられてましたわよね?
あれこそあなたが“最低級の探索者”と呼ばれる証明になるんじゃありませんこと?」
宮木も段々と棘のある発言、馬鹿にした感じになってやがる。格下として見下し、僕という存在を認めないと言わんばかりに蔑みやがって、このクソアマ…っ
「せっかく詩葉があなたの身を案じ、将来のことを考えて、引退を勧めなさったのに……。あなたは生配信で、皆が見ている前で彼女のご厚意を袖にして、偉そうな口を叩いてましたわよね?いったい、何様のつもりですの?」
あと牧瀬詩葉のことでムキになってくるのも何なんだ?それもさっきからウザったく感じるんだが。
「あなたみたいなひ弱なくせに身の程を弁えもしない愚物が私たちと同じ探索者だなんて、同業者として恥ずかしいですわ!
同じ北関東支部に所属する探索者の方々は、あなたの存在をさぞ邪魔に思っていらっしゃるでしょうね。特に詩葉さんが不憫でなりませんわ!あなたみたいな探索者に相応しくない愚図な方と同じ支部に所属だなんて…っ!」
出るわ出るわ、僕を否定する言葉が、次々と…っ いい加減、我慢の限界突破に差し掛かってきたな。そろそろ………
「なので、私からも物申させてもらいますわ!この場で即刻、探索者の引退を宣言なさい!実力も才能も無い貧弱さんが探索者をやっていても、痛い目を見るだけじゃありませんの!それに何より、あなたと同じ支部の所属というだけで、今後詩葉さんの名に傷がつくかもしれませんわ!私としても、こんな人でも探索者をやれるだなんてこと、世間に広まって欲しくありませんし!あなたのせいで探索者業が易く認識されでもしたら、どうしてくれるんですの!?
分かったら、この業界から消えると、さっさと宣言なさい!何なら私の動画チャンネルで、あなたの引退宣言動画を撮ってやっても構いませんことよ!」
「全部お断りだ!!このクソアマがァーーーーー!!」
とうとう怒りを爆発させて、腹からありったけの怒声を吐き出した。後ろのダンジョンから僕の声が反響し、空気がびりっと振動した。そして固有スキル「卑屈症候群」が発動され、僕の身体が大きく膨れ上がった。
「きゃあ!?なんて声を出しますの―――って、何ですのその身体は!?いきなり大きくなって……変身スキルですの!?」
「な、何だこいつ!?なんて醜くおぞましい姿だ!しかも、禍々しい気配まで放ってやがる!
小恋乃さん、あいつ何かおかしいです!少し下がってください!」
「た、確かに……ただでさえブサイクだった顔がさらに醜く映って見えますが、異形な程に桁外れな身体はどう考えても普通じゃありませんわね…!
それにしても、何て醜いお姿……っ」
ミヤマキとやらのパーティ全員が、武器を構えて臨戦態勢に入りやがった。僕の変形に驚愕しながらもすぐさま戦えるようにするところはさすが上位ランカーのパーティと言ったところだな……っ
「このォ、クソどもが…!人をブサイクだ醜いだと罵りやがって!良いよなァテメェらは……世間じゃあ人気アイドル配信者ともてはやされて、探索者としての実力も才能もあって……!
底辺を這いずり回っていた僕にはどれも無かったモンだ!」
ガン!!地面を強く殴りつける。地面が激しく震動し、宮木たちは身体が大きく揺らいで、バランスを崩す。
そこをすかさず突く―――鳥野とかいう、僕をいちばん馬鹿にした取り巻き野郎の首を、肥大化した巨腕で掴み上げる。
「が………っ」
「辰男さんっ!」
「テメェらは十分に恵まれてる身分なのに、何も無くて劣悪な身分の僕をいちいち見下して馬鹿にしないと気が済まねェのか!?持ってる奴らが持たざる奴を見下すのは、さぞ優越感ハンパねェんだろーなァ!?」
「が、は………っ この―――醜いケダモノがぁぁぁっ」
首をぎりぎり絞めてつけられ拘束されながらも、鳥野は手にしている槍で僕の胸を突き刺しにかかった。
ドスッ 分厚く膨れ上がってる胸板に、槍の穂先が食い込む。
「辰男さん!?いくら正当防衛とはいえ、急所を突き刺すなんて…っ」
「ぐ……申し訳ございま、せん。この件で殺人罪に問われた時は、責任は俺が全部―――がぁ!?」
「オイ、何僕を殺した気になってやがんだ、アア!?」
首を掴む力を強める。鳥野の首からメキメキと軋みが上がる。こいつが突き刺した槍は、分厚い大胸筋の鎧に阻まれ、肺などの臓器には達していない。
「馬鹿、な……っ 貫けて、ない……だと」
「テメェごときのヘボ槍で、僕が殺されるとでも!?ナメてんじゃねェぞクソボケが!!」
首を絞めつけたまま片手で鳥野をぐわっと高く掲げる。そしてブンと振り下ろして、ドガンと鳥野を地面に叩きつけてやった。
「っが―――――」
地面が数センチ陥没してクレーターが生じた。そこで鳥野が首に手をやったまま藻掻き苦しんでいる。
「よくも、この僕を底辺だ嘘つきだと、散々侮辱しやがって!殴り潰してぐちゃぐちゃにしてやるよ…っ」
表情筋をびきびきさせながら、未だ痙攣中の鳥野の顔目がけて怪物級に膨れ上がった巨腕を振り下ろした――!
ドガン!
僕の拳は、鳥野の顔面をぶっ叩けてなかった。地面に激突して、蜘蛛の巣状のひびが広がっていた。鳥野の姿は、どこにも見当たらない。




