37「単独でダンジョン攻略」
「EランクやⅮランクと比べて、Cランクはどのエリアも足場が悪くなってて、暗がりも多くなってきてるな。こーいうところを攻略出来るようになってやっと一人前の探索者と呼べるんだって、前に聞いたことがあったような」
まだ明るい時間であるにも関わらず薄暗いジャングルをどんどん突き進む。初めて見る植物、鉱石、小生物をたくさん発見し、スキル「鑑定」で価値を調べるとどれもDランクまでのエリアで見つけた物よりも高額で買い取ってくれるものばかりだった。
「ははは、ここで採れる物だけでも金にしちまえば、専業でやっていけるってのも納得がいくぜ………」
心行くまで採集を行った。これらの買い取りは北関ではもう無理だから、どこか別の支部か買い取りを専門としているギルドのところに売りに行こう。
もちろん、採集だけやってるわけじゃない。当然このエリアにも魔物はいるわけで、何度か戦闘をやってもいる。
が、Ⅽランクエリアから出てくる難易度の魔物でも、今の僕には大して苦戦どころか、歯応えすらいま一つだった。
オーク?ラージコボルト?アーマーゴブリン?アシッドスライムにドレインスライム?話にならない、どれもワンパンでワンキルだった。
「これじゃあ全然刺激的じゃねーな。そろそろBランクのエリアに行ってみるか」
Cランクのジャングルエリアをパパっと攻略して、次はBランクの探索エリア…「ダンジョン」と呼ばれる業界では手強いと評判のエリアに挑むことにした。
Bランクだと探索活動…ましてやエリア攻略となると、一人での活動はSランク以上のエリアをクリアしたことのある者にしか認められてない。探索者ギルドがそう定めている。
北関ナンバーワンで国内二桁位の牧瀬詩葉でも、誰かとパーティと組んで挑むくらいだ。あの支部所属で単独でBランクのエリアを攻略した探索者は、僕の知る中では一人もいない。
だったら、その歴史的快挙を僕が成してやろうじゃないか。まあ、それを目にしてくれそうな探索者はさっき皆殺しにしちまったから、ただの自己満足に終わりそうだが。
そういうわけで早速ダンジョンの中に入る―――Cランクのジャングルよりも暗く、常設されてある松明の明かりだけが頼りだ。
だが化け物じみた身体能力を宿す僕の目は、この程度の暗さ何てことない。外の昼の街並みと変わらない。
「おおー、さすがはBランクのダンジョン、さらに価値が高い鉱石はっけーん!マジか、これ一つで5000円売れるのかよ!っしゃ、独り占めしてやるぜ!」
青い光沢を放つ鉱石を鑑定しつつじゃんじゃん空間収納していく。しかしながらここはBランクの探索エリア、当然魔物も出てくるわけで……。
「「ギャウギャウ!!」」
「うわ、このラージコボルト、頭が二つ生えてるぞ!?」
通常よりも太い首に二つの頭を生やした魔物…二首コボルトは、阿吽の呼吸で左右の頭がそれぞれ襲ってくる。素晴らしい連携とは言っても、身体は所詮一つだけ。「錬成」で生成した重火器で胴体を狙い撃ちにして、難無く返り討ち。
「ブオオオオオ!!」
「このオーク、腕が四本もある!?」
次に出くわしたのは、背中にも腕が二本生えた異形の魔物、四つ腕オーク。それぞれの腕に大きな鈍器、太めの剣、投擲物が握られていて、近づけば鈍器か剣で、距離をとるとナイフや石を投げつけて攻撃してくる。
厄介な戦法を用いてくる魔物ではあったが、僕の方が力が強過ぎるせいで強行突破が容易に出来てしまい、肉餅になるまで殴り潰してやった。
そんな感じでダンジョンのボス役を担っているBランクの魔物とも何度か遭遇し、それら全て難無く倒してみせた。
戦いは相変わらず張り合いが無かったものの、Bランク魔物から剥ぎ取れた素材はどれも高価で買い取ってくれるものだったのは嬉しかった。
二首コボルトの二枚舌、四つ腕オークの後ろ腕の付け根なんかはどっちも一つで3万円も売れるときた!空間収納に大事に保管しておこう!
金目に目がくらみ、ダンジョンをぐる~~っと回って、魔物の討伐と採掘と採集をやりまくった。何体目かのBランクの魔物を討伐したところで、探索者アプリからこのダンジョンを攻略したと通知が入った。
「今何時だ……午後3時。体力はまだまだ余ってるけど、今日はもう引き上げるかぁ」
このダンジョンに入ってから大体一時間程度で、Bランクダンジョンをクリアしてしまった。十数年もかかった幻のダンジョンと比べたら、こんなのピクニックみたいなもんだ!
「よしこの後は、ここやⅭランクのジャングルで手に入れた換金素材を全部売っ払って、どれくらいの金になるかの検証をしよう。
買い取りを終えたらその金で今日は贅沢なものたーーっくさん買いまくって、好きに飲み食いしまくるぞ!
あとついでに、ギルドで怒鳴り散らした詫びに、ミィとスノウにも美味いもん食わせてやろうか。眷属の機嫌もちゃんとケアしておかねーとな。
後はよく寝るだけ!明日はAランクの探索エリアを制覇するツアーでもやって、さらに充実した探索者活動を―――」
今日明日のやりたいことを口に出して並び立てながら、出入り口となるダンジョンの最初のとところに「転移」で戻り、明るい外に出た時だった。
「――あら?誰かダンジョンから出てきましたわね。しかも……たった一人で」
若い女の声がしたのでその方に視線をやると、僕と同じ年頃の女探索者が、怪訝そうな目でこちらを見ていた。
――詩葉視点――
「おはようございまー……?誰も、いませんね」
学校が終わってから一時間後、私は探索活動の格好で、所属している北関のギルドにやってきた、のだが……。言葉通り、館内には誰もいない。
普段ならいつも誰かしら挨拶を返してくれるしのに、今日は探索者はおろか、ギルドの職員さんすら見かけない。
探索者ギルドはどの支部も年中無休で営業している。私がこの支部に初めて入った頃からこのような光景は、一度も見たことが無い。
「受付の人まで……どこかへ出払ってるのかな?」
それとも、何かのドッキリの最中?もしそうなら、エンタメ寄りの配信者としてここはもうちょっとリアクションをしないといけないのかな……。
「あ……これって、霧雨さんの名簿……って、うそ?登録抹消済みって……」
受付のテーブルにはこの支部に所属している探索者の名簿リストがあり、そこには登録抹消と記された霧雨さんのプロフィールが見開きとなっていた。
本当に、探索者を引退なされたんですね………。引退した日に立ち会えなくて、残念です。寂しくなるけど、霧雨さんとってはそれがいちばん良い選択だったはず。
私は、あなたに色々教えていただいたご恩は決して忘れてませんから。次に会えた時は、お互いに近況報告が出来るといいですね。きつく言い過ぎたことの謝罪もさせて下さい。
憂いを湛えた瞳で霧雨さんの名簿を眺めていると、視界の端にもう一つ何か置かれているものに気付く。一枚の紙に何か書かれており、読み上げると……
“詩葉さん、こちらに早く着いてしまい、待ってるのも退屈なので、一足先にダンジョン前に向かっていますわ。これを読まれたのなら、とっとと私たちのところへ合流しに来て下さいな。今日は南関東支部が誇る私たち『ミヤマキ』パーティが、Bランクダンジョンを華麗に攻略するところをお見せ致しますわ!
追伸 私たちがここを訪ねた時、不自然にも誰もいませんでしたわ。受付の職員すら不在だなんて、北関東支部の職員はどうなっておりますことやら”




