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26「束の間の休息」*途中詩葉視点


 「それにしても、ここが咲哉さまのお家にゃんだなー!アタシが普段いるところとは全然違うにゃ!」

 「あれ、そう言えばまだ一度もお前ら眷属獣を、僕の家にあげたこと無かったんだっけ」

 「はい。今日が初めてになります。広くて暖かくて、素敵な家ですね」

 「中古戸建てだから、けっこう年季入ってるけどな。ミィとスノウたちって普段はどういうところで暮らしてんだ?」

 「ミィは大勢の同じ猫獣人と一緒に、廃墟で暮らしていたにゃ」

 「私は地下の大きな洞穴を寝床にしていました。ミィと同じように、複数の兎獣人が群れをなして生活しています」


 僕が二人と出会ったのが、それぞれの種族の住処でだった。幻のダンジョン最後の関門は、時間が経つごとに様々な場所へ飛ばされるようになってたから、その過程で僕はこの二人やここにはいない残りの眷属となった獣人たちと出会ったのだ。


 「いいにゃあ~~~、これが人間の民家ってやつにゃのかにゃー。ここで咲哉さまと暮らせたら、とっても幸せににゃれそうだにゃー」

 「同感です。ここで咲哉様と一緒にご飯を食べたり、一緒に寝たりするのを想像しただけでも………はっ、よだれが出てました……」

 「……二人が望むなら、このままこの家に住み続けても良いけど。どうす―――」


 「「ずっとここで暮らしたいにゃ(です)!!」」


 即答だった。まあ眷属獣の一人や二人くらい、どうってことない。元々三人で暮らしていたのだから。

 ちなみに「召喚」で呼び出したものを元いた場所に帰す方法だが、スキル使用者である僕が「元いた場所に戻れ」と念じるだけで良い。ただし長い間帰さないでいると、召喚されたものたちは瞬時に元の所へ帰れず、自分の足で戻らなくてはいけなくなる。


 「しかし出会ったばかりの頃は、二人とも僕にばりばり敵意を剥き出しに、戦いを仕掛けてきたってのに。今じゃあその時の棘はもうどこにも無いよな」

 「う……っ。あ、あの時のアタシは仲間たちと同じ、他種族は皆敵って思考だったからにゃあ………」

 「私も……兎獣人は地上にいる生きものは獲物か天敵かの存在としか見ていない種族ですので、地底に突然現れた咲哉様を、群れ全体で排除しようと……。今となっては消し去りたい黒歴史にございます……うぅ」


 当時は二人ともそれぞれ仲間と一緒に僕を排除しようとした。だがそこに化け物が襲い掛かり、彼女たちが危機に陥ったところを僕が割り込んで、化け物を倒した。

 助けたつもりはなかったのだが、二人とも僕に恩義を感じて、何やかんやあって眷属獣として契約したというわけだ。


 「二人とも、残りの眷属獣たちもそうだが、僕に対してよくこんなにも懐けるよな。固有スキルの影響で僕の顔は以前よりましてブサイクに映るようになってるってのに」

 「確かに出会った頃の咲哉さまからは、嫌悪感を煽られる醜悪さがあったけれど、こうして眷属になって身近に立って見てみると、ちっともブサイクと思わにゃくにゃったにゃ!……って今のは悪口じゃにゃいですにゃ!断じて」

 「まったくミィったら、言葉を選ぶべきです。とはいえ私も最初は嫌悪感がありましたが、咲哉様に助けられ、主従関係を結んでからは、咲哉様から嫌悪や恐怖

など負の感情は一切無くなりました。咲哉様に対しては安らぎや愛おしさしか抱いておりません」

 「………ありがとうな。僕を肯定し、僕の味方になってくれるのは、お前たちくらいだよ」


 今日は学校での大虐殺の余韻に浸りながら、ゆったり過ごすことにした。






***


 私…牧瀬詩葉が通っている私立高校、松蔭しょういん女子学院高校の校門前――


 「……!あなたは………」

 「やあ、詩葉ちゃん!学校お疲れさま」


 放課後、友達と話しながら下校しているところに、同じ探索者ギルドの先輩、長下部左仁さんが、話しかけてきた。わざわざ学校にやって来て、校門の前で待ち構えていたところ、私に用があるのは明らかだ。


 「も、もしかして国内上位ランカーの探索者、長下部左仁さん!?」

 「きゃー、本物!」

 「近くで見るとちょーイケメン!」


 一緒にいる友達は長下部さんを前に皆テンション上がっちゃっている。彼は色めき立ってる友達に笑顔で手を振りつつ、私に話しかける。 


 「今日は、探索者のお仕事はオフなのかな?」

 「……はい。そうですけど」

 「それは良かった!俺も今日はオフなんだよ。それでさ、今からどこかでお茶でもしないか?もちろん全部俺が奢るからさ」

 

 やっぱり、またこういったお誘いだ。この人は事あるごとに私にお誘いをしてくる。探索者業界では彼女をとっかえひっかえしていて、軟派で不誠実であると悪評が絶たない。

 そして何と言っても、私のいちばんの先輩である霧雨先輩を虫けらのように扱ってもいる。そんなだから私にとってこの人は信頼に値しない人だと見なしている。


 「………そういうことでしたら、長下部さんのパーティの方々を誘ってはどうですか?それか、何人目になるか分からない彼女さんでも呼ばれるか」

 「ちょ…!?人前でそういう人聞き悪いことは言うべきじゃないと思うな~?」


 どの口が言うのか。自分は人前で霧雨さんを散々罵倒していたくせに。


 「パーティメンバーも本業の仕事中で誘えないし。何より今日は、俺と君共同でのお仕事の話をしに来たんだよ」

 「共同の、お仕事……?」

 「そうさ。悪くない案件を持ってきたから、是非検討してもらいたくてね。あと、この件の話は二人だけでしたいんだ。といっても変な場所でするってわけじゃないよ。俺が贔屓しているマイナーの喫茶店があるから、そこで話したいんだけど、どうかな……?」


 そう言って長下部さんは私の傍に立つ友達にさりげない目配せをした。


 「探索者のお仕事って感じみたいだね」

 「そういうことなら、私たち邪魔だよね」

 「詩葉ちゃん、もし凄いお仕事が決まったら、私たちにお祝いさせてね!」


 やられた………率直にそう思った。この人、私が一人でいるのではなく、こうして友達がいるところを狙って話しかけてきたんだ。

 みんながいる前で探索者や動画配信の案件を持ちだして、上手く断れない状況にさせたのだ。


 「………分かりました。話だけでも聞かせていただきます」


 止む無く長下部さんの誘いに乗るのだった。



  15分後、長下部さんの車(車体が金でコーティングされてて、痛い気持ちにさせられた)で連れられたのが、街の隅に建っている年季が入った喫茶店だった。とりあえずは変なところへ連れ込む気配は感じられないので、素直にお店に入ることに。

 中にいるお客さんは大学生から高齢の人ばかりで、私と同じ年頃の人はあまり見かけなかった。マイナーというだけあって、若い人には知られていないお店らしい。


 「ここは甘い物も洋食料理も頼めるところでね。好きなものを頼んでくれていいよ」

 「じゃあ、初めてですし、長下部さんお気に入りのものをお願いします」

 

 無難に(相手が相手だから無難かどうかは怪しいが)そうリクエストをした。注文が届くまでの間、長下部さんからは学校でのことばかり聞かれた。さっき一緒にいた友達のこと、好きな科目、来年は大学に進学するのかなど。

 テキトーに答えてるうちに注文したもの…良い香りのコーヒーと分厚めにスライスされたパウンドケーキが、テーブルに乗せられた。

 長下部さんがお気に入りにしているだけあって、どれも美味だった。


 「さて、じゃあそろそろお仕事……いや、詩葉ちゃんにとっては案件と言った方が良いかな。その話をしようか」


 紅茶を一口飲んだ長下部さんはそう切り出して、こんな提案をした。


 「俺に、詩葉ちゃんの動画配信に出して欲しいんだ!俺と詩葉ちゃんがパーティを組んで、Aランクのダンジョンを攻略するところを生配信で届けたいんだよ」


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