「迷惑系配信者たちを分からせる」3
「お、おい、正気か…?相手が同じ探索者だろうと、探索者が殺人を犯したら、重い刑罰が下るって知らねーのか!?やむを得ない正当防衛とかよほどの例外が無い限り、どんな理由があってもこの業界の人間が殺人行為することは、誰よりも絶対の禁忌だ!きみだってそれくらい分かってるはずだろ!?」
吉原が言うように、僕たち探索者はその資格を得た時点で、一般人よりも重い枷…ハンデを負うことになる。中でも、犯罪を犯したことへの刑罰が一般人よりも重く厳しく決定されるというのは、探索者講習の座学でよく教えられたっけ。
そんな重罰が科されないよう世の探索者は表立っての犯罪行為はしない。たとえ探索エリア内であろうとも、彼らが犯罪をすることはまず無いとされている。
「ま、そんなことは僕にはもう関係ねェんだけどな!」
そう言って三叉の槍の刃を吉原の眼前に寄せる。僕の殺人衝動は少しも緩んでいない。殺すのは止めておこう…って気持ちは少しも湧かない。
「な………え?」
「嫌な目に遭わされた日、その後ふとした時に嫌な事を思い出しちまうんだ。するとどうなると思う?せっかく楽しい事に浸っていたのにふとした時にそんなクソ最悪な時間が脳裏に浮かぶんだ。それだけで、僕の幸せな時間はぐちゃぐちゃに汚されちまって、全部台無しになっちまうんだよ!」
「何………言って」
「ここでお前らを見逃したら、 僕はきっとそれを後悔しちまう!その後悔がふとした時によぎって、クソっタレな気分にさせられちまう!たとえ幸せな空間で幸せなひと時を過ごしていたとしてもだ!僕の脳みそはもうそういう厄介な構造に出来ちまってんだよ!!」
槍の刃を、神経が通っている背中に突き刺していく。少しずつ、わざと少しずつ…!吉原から悲痛な絶叫が、心底面白くて仕方ない!
「浴びせ続けられ刻まれ続けた恨みつらみってのはなァ、下水道のヘドロみてぇに頭ん中にずっとこびりついてて、簡単に消えやしねーんだ!。時間で解決?クソ喰らえだ!
このヘドロみてぇな怒りや憎しみを落とすにはなァ、元凶であるテメェらをぐっちゃぐちゃにしてぶち殺すのが、いっちばん最っ高の解決策になんのさ!!」
ゆっくり刺すのが飽きてきたので、やっぱりグサグサともぐら叩きみたいに槍で突き刺しまくる。吉原の背中全部が真っ赤になった。
「やぁあああ゛めで!!い、いい加減にしてぐれぇえええっ!ど、どうしてごんな残虐なことをずっと、やってられんだよ…!?」
「何故かって……?決まってんだろ――面白ェからだよ!ただ純粋に、他人が苦しむのが嬉しいのさ。お前らが苦しめば苦しむほど、俺にとっては面白くて仕方ねぇんだ!」
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ、ごいづ狂ってるう゛う゛う゛ーー!?
くそ、マジで殺す気か!?ここで僕らを殺せば100%きみが極悪人扱いになって、公安の探索者たちに捕まって、監獄にぶち込まれて地獄の折檻をされ、最後は死刑になるぞ!?」
吉原が必死に何か訴えてるが、ただの雑音にしか聞こえない。
「真に強い奴がどんな奴か分かるか?迷いや躊躇いが無い奴さ!人前であろうと構わず、何でも思いきりやれる奴が、いっちばん強いのさ!
こうやって、人をぶっ殺せるところとかなァーーーーー!!」
グサ!ドス!ドシュ!ザク!ザシュ!グサグサ……ッ
吉原を滅多刺しにした後、まだ息が残ってる仲間たちにも槍や銃をぶっ放す。
そして―――――――
「――っし。えーと、これ映ってるかな?リスナーのみんな、映ってる?声聞こえてるー?」
薄暗くなった林エリアの一角で、吉原がタブレットを自撮り向きにして、自分を映した姿を生配信で流している。
:あ、戻ってきた!
:うつってるよーきこえてるよー
:ずっと何してたのー?
配信が始まってすぐに視聴者たちのコメントが流れはじめる。さっき中断した生配信からそう経ってないこともあって、すぐにたくさんの同接数がついた。
「いやいやごめんごめーん!実はさっきまで霧雨くんとちょぉーっと、込み入った話的なのをやってたんだけど。そしたらあいつ急に癇癪起こして襲ってきたもんだから、無力化させときましたー!」
:えぇ……
:こわ
:込み入った話って?
「ここではちょっと話せないような内容になったんで、その一部始終は今度色々ぼかして、編集したもので見せるつもりなので、お楽しみに~!」
:ほーん
:どんなえげつない話が出てくるか楽しみ
「いや~それにしても霧雨くんビックリしたよー。彼いつの間にあんな強くなってたんだろ。初心者レベル脱却したって話はガチだったわ。成長したな~」
:マ?
:まさかの底辺弱者の成り上がり!?
:おめでとうな気持ち半分、面白くない気持ち半分
「いやまあ、彼は今まで底辺でずぅ~~っと頑張ってたんだよ。それがようやく実りになって報われたんだ!僕もそんな努力家の霧雨くんを見習って、精進しないと!
もーっとクソ面白い動画配信をするぞ~~~!もっともっと色んな探索者にちょっかいかけまくって、バズってやるぜぇ!!」
:草
:そんなんより探索者としての腕上げろw
:どっちでも頑張れ
先程のひと悶着など無かったかのように、吉原はいつものように明るくウザいノリでトークを行っていた。
「――さて。じゃあそろそろ今日の配信を終わるとしますかぁ!今日は途中で配信止めてしまってごめんねー!今後も僕のチャンネルをよろしく!
それじゃ!バイバーイ!」
そう言って、吉原はタブレットを操作して、配信を終了させた。終わった後もチャット欄に色んなコメントが書きこまれ続けている。
:あのさ、今の配信何かおかしかったって思ったの、俺だけ?
:同士よ、おれもだ
:わいもや。何かさっきの一輝、いつもと違う声じゃなかった?
:声もだけど、顔が何か変だった。特に目と口のところが
:終始顔だけドアップで映ってたからすぐに気付いたわ
:あれって、まるで、被り物を被って喋ってたような………
:あとさ、チラッと見えただけだから微妙だけど、首から下のところが、すごく赤かったんだけど……
:まさか……血、とか?つーか霧雨ってどこ行ったん?
:まさか霧雨の返り血とかだったり?一輝まさか、霧雨埋めたとか?
:本当だったとしたらヤバ過ぎ。さすがにあり得んと思うけど
:つーかさっき出てたのって、本当に一輝なん?
今の生配信で不審なところがいくつかあったと騒ぐチャット欄を、吉原は………否―――
「ククク……さすがに何人かには怪しまれてるな。つーかバレてるかも。ま別にいいけど。ただ面白そうだからやっただけだしな、《《こんなの》》は」
《《吉原の顔の皮を被った俺》》は、べちゃッと被っていたものをどこかへ投げ捨てた。
「ま、こんなもので僕の存在を世間に知らしめられたとは思ってねーけど、とりあえず今日のところは挨拶だけだ。
今の僕が以前の最低級で底辺弱者ではないってことの宣伝さ。ま、どうせ上手くは伝わってはいないだろうけど。
僕はちゃんと言ったからな?それでもまだ僕を馬鹿にして侮辱して傷つけてくるのなら―――」
ゴッッッ 近くにあった大樹に拳を叩きつける。拳が命中した箇所から亀裂が入り、ズウゥンと地響きを立てて倒れた。
「今度は俺がテメェらの尊厳をぐちゃぐちゃに汚して踏みにじって、全身バキバキにへし折って踏み潰して、人の原型なくなるまでぶっ壊してから、殺してやるぜ!!
力を手にして、性格が最低にひん曲がった俺の怒り、劣等感、嫉妬の恐ろしさを、これからたっぷり知るといいぜ!才能と環境に恵まれたゴミカスどもがァ!!
ひゃっひゃっひゃっ!ひゃひゃひゃひゃひゃ!ひゃーーははははははは!!」
首から上が消失した吉原一輝とその仲間たちの死体を順に踏んづけて蹴り転がしながら、僕は飽きるまで笑い続けた。




