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「迷惑系配信者たちを分からせる」


 この、全体的にチャラチャラした髪と服装の男は……!


 「えー、何ということでしょー!Dランクの探索エリアにて、我らが日本が誇る最低級の探索者さん、霧雨咲哉くんのご登場でーーーっす!

 って…えぇ~~~マジでー!?」


 わざとらしいハイテンションで僕の名前を口に出したこの配信探索者は、吉原一輝よしはらかずき。僕より年が二つ上の大学生で、見ての通り動画配信者なんかをやってもいる。

 ただ、こいつはただの動画配信者ではない。こいつはいわゆる「迷惑系配信者」として、世間に知られている。

 吉原は過去に牧瀬詩葉の魔物との戦闘を間近で撮影(しかも無断で)して彼女の戦いを邪魔したことで、炎上したことがある。他にも上位探索者に無理やり同行して、戦闘の様子を勝手に実況したり、同じ配信探索者と揉めたりなんかもして、色々問題を起こしている配信探索者だ。

 そんな吉原が未だに動画配信をやれてるのは、この男の炎上上等な配信スタイルを楽しみに見ている視聴者が一定数いること。あとは奴にかなりの地位やら権力やらの後ろ盾があるからとか囁かれてもいる。

 

 そして、俺もまたその吉原に害を向けられた被害者の一人だったりする。


 「つーか霧雨くんさぁ?ま~だ探索者やってんだね?あれはいつのことだったかなー?僕の探索活動生配信中に霧雨くんが出てきたから、きみの探索活動に密着したんだよね。

 そしたらきみときたら……ぷぷっ!ダメだ、思い出したら笑いが……ww」


 吉原はわざとらしく腹を抱えて大笑いする。同行している撮影者のタブレットの配信チャット欄では、リスナーたちが興味津々なコメントが流れている。


 「きみったらさぁ~、Eランクの魔物の群れに、ボコ……ぶふっ、ボコボコにされちゃったんだよね~~~!しかもそれで泣きべそかきながら、魔物の群れから逃げちゃうときた!

 いやぁ~~~あの時の霧雨くんの無様っぷりは、それはもう!大爆笑させてもらいましたーーーっ、ぷぎやーーははははは!」


 :それ知ってるwww

 :あれはマジで伝説だったww

 :俺リアルタイムで見てたけど、ガチでけっさくだったwww

 :あの切り抜き動画くっそバズっってたよな

 :あれのお陰で一輝の探索配信の視聴数増えたよな


 僕の数ある黒歴史の一つである、EランクエリアにてEランク魔物の群れにボコられて、逃げてしまった事件。あの様子はこの吉原に動画配信で撮られていた。さらにその一部始終を、こいつは切り抜き動画で公開までしやがった。

 あの動画がきっかけで、僕は一般人にも最低級の底辺探索者として知られるようになってしまったんだ。

 つまり、僕が世間で(悪い意味で)有名になったのは、吉原一輝が元凶と言うことになる。


 「いやぁ、リスナーさんの言う通りっすよ!あの切り抜き動画めちゃめちゃバズって、そのお陰で僕は牧瀬詩葉ちゃんに次ぐ有名な探索配信者になれたんだから!これはもう、霧雨くん様様だよマジで!感謝感謝~~」


 とても感謝しているとは思えない態度で、吉原は見下した笑顔で僕に話しかける。撮影者たちもニヤニヤと僕を見ている。


 「……それでさ。きみ何でこんなところにいるわけ?この前詩葉ちゃんの配信にきみが出てるの見たんだけどさ、未だにEランク程度の魔物に不覚をとるような雑魚過ぎくんじゃなかったっけ?

 なのでどーして、脱初心者が最初に挑戦するこのエリアをうろついちゃってるの?」

 「決まってるだろ、僕はもう初心者レベルじゃなくなったからだ」

 「いやいや、嘘はよくないと思うなー。そんな短期間でランクアップする程、世の中甘くないでしょ」


 僕が嘘ついてると嘲笑って否定する吉原。


 「いや……分かったぞ!?さてはまたEランク魔物の群れにボコられて、そこから必死に逃げてるうちに、ここに迷い込んでしまったんだ!

 ぷ――ははははは!どうかな、合ってるんじゃない?」

 「全然違う。Eランクのエリアじゃ物足りないから、今日からここに来たつってんだろ」

 「はぁあああ………あのさ。見栄張らないでって言ってんじゃん」


 吉原の声のトーンが低くなった。


 「大体きみが脱初心者って?そんなわけあるわけないじゃん。仮にそうだっとしても、それはナシでしょ。きみはぁ、世間では最低級の底辺探索者くんって知られてるし、そうあるべきなの。

 どれだけ努力して探索を頑張ってもずっと最低級のまま。Eランクすら攻略出来ない雑魚オブ雑魚!それが霧雨くんなの!きみが成長して強くなるところなんか、面白くも何ともないの!」


 これが吉原一輝の本性。みんなの注目を集めて人気者になる為なら、格下の探索者を見下して、執拗に煽りもする。

 人の頑張り・努力を踏みにじって笑いものにする。僕みたいな被害者たちの気持ちなんてこれっぽっちも考えてない。面白半分収益半分で貶めてやがるんだ。

 そんな腐り切った性根のこいつが、みんなに注目されて人気を勝ち取ってやがる。


 なんだそれ。ふざけんな……っ


 「……勝手なこと、ぬかしてんじゃねーぞ。テメェらの下らねー価値観とかシナリオとかを僕に押しつけるな、クソ野郎が……っ」

 「はあ?ていうかさっきから何僕にタメ口利いてんの?僕はきみより年上で、探索者としても先輩なんだけど?ちゃんと敬語で話せよ、おい」

 「知るかボケ!誰がテメェに敬語なんか使うか。人の尊厳を食い物にしてるテメェらゴミクズに払う敬意なんかねーんだよ」

 「あれあれー?何調子に乗ってんの?これでも僕は国内ランキング200位内の探索者なんだよ?喧嘩吹っかける相手を選びなよ」

 「それがどうした。今の僕の方がテメェなんかよりずっと強い」


 吉原たちはしばらく黙り、一斉に笑い出した。

 

 「あははははは、何それギャグ?きみどこかで頭でも打ったんじゃないの?きみは最低級の底辺探索者!何をやってもダメな落ちこぼれの才能無し!雑魚中の雑魚!一生底辺を駆けずり回るのがお似合いのゴミなの~~~!」


 そう罵りながら、吉原は僕の頭を乱暴に小突きまくる。


 「この手をどけろ」

 「はあ~~~何て―――ぶぐぉ!?」


 力いっぱい、吉原の顔面を殴りつけた。これ以上の侮辱発言は聞くに堪えない。


 「幻のダンジョンで強くなった僕を、テメェらはまだ馬鹿にしやがるのか?」


 スッ転んで殴られた箇所をおさえて呻く吉原に、僕は殺意のこもった眼差しを向ける。


 「何が動画配信だ。あんなくそつまんねぇ動画が評価されて、人気者になって……そのうえ弱者を笑いものにしやがって……性根腐りきったゴミが……!

 決めた。テメェもぐっちゃぐちゃにぶっ潰す。僕を馬鹿にしたこと、死ぬほど後悔させてから殺してやる…!」

 

 悪意にはより強い悪意でやり返す。ただそれだけでいい。今はただ、怒りと嫉妬でドロドロになったこのヘドロみたいな感情を乗せた暴力で、こいつをぐちゃぐちゃにしてやりたい…!


 「……おい。いったん配信止めろ」


 吉原が低い声で撮影者に命令する。言われた通りタブレットのホログラム映像が切れて、生配信が中断される。


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