「虐めっ子たちを分からせてやる(復讐)」
「間野木………」
集団の中心…赤メッシュが入った黒髪の槍を持った少年を見て、僕はその名をこぼした。
間野木……志朗って名前だっけ。高校のクラスメイトだった奴だ。あいつと一緒にいる奴らも同じクラスで、間野木グループの奴らだ。
「おいおいおいマジかよ!?こんなところでお前と会うなんてなぁ、霧雨ぇ~~?」
驚いた顔でこちらを見ていた間野木だったが、すぐに嫌な笑みを貼り付けて、余裕たっぷり話しかけてくる。
「お前今まで何してたんだよ?学校に行ってもずっとお前の席は空だったしよ、先生もみんな、“霧雨は今日も欠席かー”ってbotみたくなってるしよー。それが一週間も続くから、さすがにみんな聞き飽きたっての!」
どうやら、僕がダンジョンに入ってから外では少なくとも一週間もの時間が経過していたようだ。
「お前さ~~~いくら退学が決まったからって、無断欠席は良くねーんじゃね?俺らみたいな不真面目くんたちだって嫌々授業受けてんのによぉ」
間野木は僕に近寄ると、前みたいに肩に腕を回してきて、馴れ馴れしくしてくる。欠席扱いってことは、僕はまだ正式に退学したわけじゃないのか。まだあの学校に籍がある扱いか。
さて……今すぐこの男をぶん殴りてェ気分だが、まだこらえておくか。このまま黙ってるのも何だし、俺から話を振ってみよう。
「間野木、クラスのみんなも。ここにいるってことは、みんなはもう、探索者に?」
「ああそうだぜ?今日が初探索なんだ。登録したばかりだから、こんな初心者向けのとこでしか活動出来ないのが気に入らねーが、今のギルドに入れたのはめちゃくちゃラッキーだったぜ!あのアイドル配信者の牧瀬詩葉に、長下部左仁まで在籍してるとか、レベル高過ぎだろあのギルド!
しかも適正試験で優秀な成績を出したから…見ろよ。タダでこんな良い装備までくれたんだぜ!すげーだろ!?」
確かに間野木の装いは、綺麗で丈夫そうなベスト、前に発表されてた最新の防護シャツ、機動力に長けると評判のブーツ……どれも機能性も優れてそうな新品だ。武器の槍も、綺麗に研がれた刃が光沢を放ち、金属でも貫けそうだ。
僕の時は装備も武器も全部自腹で揃えないといけなかった。最低限の支給品も安物ばかりだった。当時の僕とはあまりにも格差がある優遇っぷりだ。
「それに引き換え、霧雨の格好、んだよそれ!?シャツとズボン一着ずつって……ぶははははははっ!ダサいしショボいし弱そーーーっ!?
いくらここが初心者向けだからって、そんな薄着で探索活動してんの!?馬鹿過ぎるだろ!?」
間野木の爆笑する様に、パーティもつられて笑う。確かに今の僕の装いはとても探索者とは思えないものだ。
「いや待てよ?お前ん家貧乏だったよな?もしかして装備品を買う金がねーから、ずっとこんな格好で活動してたとか?
ぷくくっ、だぁ~からお前はいつまで経っても探索初心者なんじゃねーの!?」
馬鹿にした笑い声を上げながら、僕の頭をびしべしと叩いてくる。学校の時と同じように。
「………今日は事情があって、こんな格好なんだ。いつもはもうちょっとちゃんとした装備で来ている」
「だとしても、万年最低級のド底辺探索者って言われてるお前のガチ装備も、カスみたいな装備なんじゃねーの!?」
僕の探索者で着ている装備服は、中学の時、母さんが丹精込めて作ってくれたこの世にたった一つしかないものだ。こいつは、母が作ってくれた服を馬鹿にした……。
「つうかよ、さっきギルドで先輩から聞いたぜ?霧雨は探索者になって3年も経つのに、未だに初心者エリアも満足に攻略できねーってな!マジかよって思ったけど、今のお前を見たら、納得出来たぜ!いつもそんなしょっっっぼい装備なら、そら初心者のままだって……くく、ぎゃはははははっ!うぇえ~~~いwww」
肘で肩や背中を何度もどつかれる。僕の体が少しよろめく。
「まだ初心者の俺の小突きなんかでよろめくし、装備以前にお前自体がクソ雑魚過ぎんじゃねーの?先輩たちも霧雨に探索者の才能は欠片も無い、何をやってもドベのゴミ雑魚だって言ってたもんなぁ?」
間野木のメンバーも面白がって、僕の頭や肩を小突いて嘲笑う。
「僕は、努力しているんだ。少しでも前に進もうと、自分に出来ることを懸命に取り組んできた。実りある努力をしてきたつもりだ…!」
「いや全っ然、実ってませんからぁ~~~!wwwいい加減認めろよ、これ以上どれだけ努力したって、探索者で成功しねぇって。
お前みたいな貧弱で貧乏で才能無しのド底辺クソ雑魚ちゃんがどれだけ頑張っても、意味無しな~~~し!雑魚は努力しても雑魚のままなの~~!」
僕のこれまでの努力を嘲笑って、否定。罵倒しながら髪を掴んで、引っ張って、土まで擦り付けてくる。
「かわいそーになぁ?才能無しの貧弱な体に生まれてしまってなぁ?才能があって体もそこそこ強く、顔も良い俺とはえらい違いだよなぁ?親に恵まれてなくて、残念だったね~~?
そんだけ弱くて将来性も無けりゃあ、誰もお前なんかと組んだりもしねーわな。誰にも、世の中の何の役にも立たないもんな?ああでも、これからは学校の時みたいに、俺らのサンドバッグとしては役に立つかもな。その点はお前をこの世に産んだ、お前のクソ雑魚両親には感謝、しねぇとなーーーっ!」
見下し、嘲り、悪意たっぷりの言葉とともに、さっきよりも強い一発を、頭に振り下ろそうとする。
僕はそれを片手でパシっと止め、
「―――――」
「は?え――――」
その場でぐるんと回転させて、間野木を地面に顔から叩きつけてやった。
「ぐ、うぇ…!?」
間抜けな呻き声を漏らした間野木は、突然のことに顔を硬直させていた。仲間たちも同じように固まっていた。
「は?ああ?俺が?霧雨に倒されたのか?何で?はあ?」
間野木はゆっくり立ち上がって、自分の身に起こったことを振り返ってるようだ。
「……おい。おいおいおいっ、おぃいいいいい!?何で俺が、霧雨なんかに転がされてんだよ!?はあああああああっ!?」
やっと状況を把握したところで、間野木は癇癪起こして喚き散らした。そして俺に怒りの眼差しを向けてくる。
「おい霧雨ぇ!お前なにやってくれちゃってんの?なあおい!最低級のてめえ如きが、なに俺を地面に叩きつけてくれ――ちゃぼげぐらぁあああーー!?」
脳死で放ったパンチを、間野木の顔面に叩き込んでやった。鼻血を噴き出しながら、今度は回転しながら地面を転がっていった。奴の仲間たちがまた驚いたまま固まった。
「ククッ、いいなァー。感情のままに人の顔をぶん殴るのは。良い……凄く、気持ちがいい…!」
僕は恍惚とそう呟いた。
「がはっ、げほっ!て、てめぇ!?一度ならず二度もぉおおおっ!霧雨ぇええええーー!!」
ああ、うるせェなぁ。地面に一回叩きつけられ、顔面を一発殴られたくらいで何をそんなに怒鳴り散らしてんだよ、こいつは。
「こっちは以前からどれだけ、お前に酷い仕打ちをされてきたと思ってんだ……!!」
感情が昂るあまり、言葉に出ていた。
「今まで散々馬鹿にして、見下して、侮辱して、罵倒して、暴力振るって、嫌がらせをしてきたくせによォ……っ」




