Nocturnal Crest Bearer and Luminarch Magus 【闇の魔刻印者と光の魔法使い】
「おい、ルナシェイド。サリエルが手を組みたいって言うのは本当だろうな?」
「もちろんよ」
「それなら、サリエルを倒しにきたハーベルを返り討ちにできるな!」
「もちろん、他にもあと四人ソーサリーエレメントの所持者が来るから気をつけてね」
「問題ない!」
レオンは、そう言ってサリエルの宮殿へ向かった。
「サリエル様、お初にお目にかかります。レオンと申します」
レオンは、跪いて頭を下げた。
「あなたが、ルナシェイドのいう【MACOK】とかいうものですか」
「はい、ただ今は自由に行動が可能ですので、何なりとお申し付けください」
「いい、心がけです」
サリエルは、大きく立派な椅子に、肩肘をつきながら、顎を触っている。
「ソーサリーエレメントのひとりが、こちらにいる時点で奴らは詰みです」
「詰みとは?」
「ああ、私を倒すためには、この石板に、すべてのソーサリーエレメントをはめ込む必要があります。ルナシェイドがいれば、それも無理なこと」
「そんな大切なことを、私のようなものに教えても、よろしいのですか?」
「問題ありません」
「なるほど、絶対に無理ということですね•••」
レオンは、すべてを悟った。
「レオンさん、あなたにはこれを•••」
そう言って、サリエルが黒くて嫌な感じのする杯を差し出した。
「それを飲み干せば、闇の力が漲り力が何倍にも跳ね上がるでしょう」
「ありがたき幸せ」
レオンは、杯を受け取ると躊躇なく飲み干した。
すると、
「ウォーーーーーー!」
「これが、真の闇の力!」
レオンの身体の奥の奥のそのさらに奥の方から、沸々と何かが壊れるような音を立てながら沸き上がってくる。
「サリエル様、忠誠を誓います」
レオンは、もう一度跪いて頭を深々と下げた。
その頃、ハーベルたち五人のソーサリーエレメントたちは、グレイターデーモンである、豪将ブッチャと知将ブロッサムを倒してこちらに向かっていた。
「レオン、少し下がっていなさい」
「承知しました」
レオンは、サッと姿を消した。
「なるほど、あなた方がソーサリーエレメンツですか」
「お前もここで終わりだ!」
「まあ、いいでしょう。あの二人を倒して来たご褒美にいいことを教えて差し上げましょう」
「いいことだと!」
「ここに石板があります。あなた方のお持ちのソーサリーエレメントをそれぞれここにはめ込めば、私を倒すことができます」
「何言ってるんだ?」
「自分の弱点を教えてるの?」
「騙そうとしてるんだろ!」
「信じるかどうかはあなた方次第ですが、これは本当のことなのです」
「それは本当よ」
「リーフィア!」
「みんな、リーフィアが本当のことだって」
「そんなことを教えるメリットは?」
「デメリットしかありませんよ。だからご褒美と言ったではありませんか」
「絶対に無理ってことか···」
「そう言うことみたいね···」
「なんとかあの石板を奪うしかないか!」
「よし、俺が!」
ハーベルは、石板に飛びかかり動かそうとしたがびくともしない。サリエルも微動だにせず笑みを浮かべて見ている。
「くそ!」
一度距離をとった。
「どうなってるんだ?」
「本当に、神も困ったものを作ったもんだ。忌々しい、しかもこんな辺境の地に···」
「どう言うことだ!」
「その石板は、そこから動かすことができない。だから、こんなところに宮殿を建てたんです」
「つまり、お前を倒すには石板にソーサリーエレメントをすべて埋め込む必要があるが、お前を倒さないとそれができないため、結局倒せないということか?」
「結局、自力で倒すしかないってことか···」
「参ったでござるな···」
「そもそも、闇のソーサリーエレメントがないと倒せないってことでしょ?」
「そう言うことになるな•••」
レオンは、柱の影からゆっくり姿を現した。
「君は、レオン?」
「やあ、ハーベル•••」
レオンは漆黒で虚ろな眼をしてしいた。
「レオン、なぜここに?」
「サリエル様の下僕になったのさ!」
「闇のソーサリーエレメントも手に入れた、サリエル様にこの力も頂いた!」
「何言ってるんだよ!」
「お前に分かるものか!」
レオンは、大きく剣を一振した。
「ハーベル、お前の知り合いか?」
「ああ、俺の親友さ!」
「とてもそうは見えないけど•••」
「レオン、サリエルを倒すためには、君の力が必要なんだ!」
「もちろん分かっているさ、だからこうしてるんだ」
「お前らに絶望を与えるためにな!」
「レオンさん、よく言いました。ここはあなたにお任せしましょう」
「お任せください、サリエル様」
レオンは、身体中からどす黒い魔力を垂れ流しながら、ゆっくりと近づいていった。
「あいつ、ヤバイな!」
「本当に、ハーベルの親友でござるか?」
「一時撤退しましょう!」
サリエルが手を軽くあげると、すべての扉が一斉に閉じていった。
「そんなことを私がさせるわけないでしょう、フハハハ」
「やるしかないのか!」
ハーベルは、なにやらサリエルを倒す算段をつけている様子だった。
「レオンは、俺が相手する。みんなは、サリエルを何とかしてくれ!」
「なんとかって言ったって•••」
「リーフィア、みんなと作戦を共有するいい方法はないか?」
「私が、他の大精霊たちと話し合って伝えてもらうくらいしかないわね」
「なるほど」
「分かったわ、でもレオンは、どうするの?あと、あなたがサリエルを抑えている間は私が一緒にいられないから、一人で対処することになるわよ」
「分かってる、レオンは俺に任せてくれ、サリエルの方は死ぬ気でなんとかするよ」
「早速みんなに伝えるわね」
「何をこそこそしているのですか?そちらから来ないのならば行きますよ!」
「ダークネスエッジ•インフュージョン!」
サリエルの持つディブリックレイピアに、闇の力が凝集されていく。
「俺たちが相手だ!」
ホムラとフウマが素早く攻撃を受け止めた。
その間に、リーフィアがみんなに作戦を伝えた。
「何を狙っているかは知りませんが、簡単には行きませんよ」
「もうそろそろか」
みんなの準備が整ったようだ。
「ハーベル、みんなに伝えたわ」
僕は、ハーベルめがけて突っ込んでいった。
ハーベルは、攻撃をギリギリで交わす。
しばらく、攻防が続いたあと、
ハーベルとすれ違いざまに、小声で言った。
「ハーベル、アスラだ!」
ハーベルは、ハッとして、
「了解、アスラ!」
ニヤッと笑った。
「行くぞ!」
ハーベルが、サリエルに突っ込んでいった。
「零式!」
一気に距離をつめてサリエルを空間の裂け目に押し込もうとした。
その時、
「なるほど、零式ですか···」
「あれ?」
みんなが一瞬固まった。
サリエルが、ハーベルの漆黒の翼をつかんでもぎ取ってそのまま破壊してしまった。
「うわー!」
「なるほど、別空間へ移動させておいてその間に···」
「あいつ、作戦がばれてる?」
「マジか!」
「万事休すでござる!」
ハーベルが、立ち上がると、
「サリエル、なぜ分かった?」
「何か企んでいるとは思いましたが、作戦がばれていたわけではありませんよ」
「どう言うこと?」
「漆黒の翼ですよ」
「漆黒の翼を知っているのか?」
「知っているも何も、私が作ったのですから···」
「なんだと!」
「まあ、予想はつきますよね」
「なんてこと···」
「もう、打つ手がないわね···」
まさか漆黒の翼がサリエルの作った魔道具だったとは···
このままでは、サリエルに殺られるのを待つだけになってしまう。
なんとか、別の作戦を···
「万策尽きましたか?」
サリエルが、高笑いをしながらみんなを見下ろしている。
「さあ、もういいでしょう、レオン止めを!」
「かしこまりました」
ハーベルは、何か考え込んでいる。
魔法を使えるようになってから、何を学んだんだろ?
師匠に何を教わったんだ?
結局道具に頼って何もできなかった。
「師匠、どうすれば···」
「あらあら、ハーベル、もう諦めるの?」
「師匠?」
「魔法って何だっけ?」
「魔法は、イメージそのもの···」
「イメージがあれば何でもできるんじゃないの?道具なんて無くてもね」
「そうか、すべてはイメージ」
「リーフィア、師匠、力を貸してくれ!」
「リーフィア!」
「何?ハーベル?」
「俺を信じてもう一度あの作戦を!」
「え?何言ってるの?もう漆黒の翼はないのよ。あれがないと、作戦そのものが無理じゃない?しかも、レオンの闇のソーサリーエレメントがないと?」
「そうだな、でも俺を信じてくれ!」
「分かったわ、みんなにもう一度伝えてくる」
「よろしく!」
「おい、サリエル!お前は、絶対に倒す!」
「何を今さら···」
「ハーベル、準備完了よ」
「サリエル、行くぞ!」
一気に突っ込んで攻撃を仕掛けた。
サリエルは、ハーベルの攻撃を軽く交わしながら笑みを浮かべている。
「ハーベル、今だ!」
僕は、一瞬で移動してサリエルを後ろから抑え込んで叫んだ!
ハーベルは、サリエルに体ごと突っ込むと···
「ここはどこだ?」
「師匠の家さ、お茶でも飲むか?」
「確かに漆黒の翼は破壊したはず?何をした?」
「まあ。今ごろ···」
「ハーベル?」
「やったのか?」
「みんな今のうちに石板へソーサリーエレメントを···」
僕は叫んだ!
「分かったでござる!」
少し落ち着いた様子で、一つずつソーサリーエレメントを填めていった。
「これでいいのか?」
「レオン、助けてくれたのね?」
「ああ、実はルナシェイドが来てから騙されていることは分かっていた。でも、これを利用すれば、サリエルを倒せる隙を作れるかもと思ったんだ」
「でも、ハーベルは、なんでレオンが、味方だって分かったの?」
「ああ、僕とハーベルしか知らない合い言葉があるのさ!」
「なるほどね」
僕は、説明しながら石板に闇のソーサリーエレメントを填めた。
「最後は、私が!」
リーフィアがそう言って精霊石に変わって最後の穴に入っていった。
石板が、急に激しい光を放ちくだけ散った···
ルナシェイドは、レオンを恨めしそうに見て手を伸ばしたまま、消えていってしまった。
ハーベルが、瞬間移動で帰ってくると
「レオン、ありがとう」
「ああ、ずっと悪かったな!」
「いや、あの合い言葉ですぐに分かった」
「ハーベルなら、大丈夫だと思ったよ」
ハーベルとレオンは、すれ違いざまに手を叩いた。
「バシッ!」
レオンは、ソーサリーエレメントたちが、喜んでいるのを横目に少し寂しそうだった。
「ハーベル、僕はこれでいくよ。僕の仲間たちも待っていてくれると思う•••」
「許してもらえるといいな」
ハーベルは、レオンの肩に抱きついた。
二人は、いい笑顔で笑っていた。
ハーベルがふと振り替えるともうレオンの姿は、そこにはなかった。
「レオン、ありがとう。またな•••」
ハーベルは、すこしだけ悲しそうな目をしていた。
次回 【Shadow Nexus and Dark Prince Aether】