Circle Wizard and Crest Bearer 【魔法陣使いと魔刻印者】
僕の元の世界での生活は、最悪なものだった。
でも、この世界に来ての3年間というもの、優しい両親に、可愛い妹それに親友のハーベル、とても幸せだった。絶対に失いたくない。
「絶対にここから抜け出してやる!」
「あなた、名前は?」
女生徒が、話しかけてきた。
「レオンです。あなたは?」
「リナよ。よろしくね」
この中では、一番年上そうでしっかりしている感じがした。
「レオン、ここから出る気?」
「はい、何としても出たいです」
リナは、何やら話し始めた。
リナの話によると、「魔法陣使い」という存在がいて、身体に直接魔法陣を刻み付けることによって、魔力を消費せずに魔法が発動できるらしい。
その魔法陣を刻み付けられた者を「魔刻印者」とよび、通称【MACOK】と呼んでいるらしいのだ。
「魔法陣使い」自身は、魔法陣を刻み込む度に魔力と命を消費するため、それを補充するために【MACOK】から定期的に魔力を吸収する必要がある。
僕たちは、そのためのエサみたいなものらしいのだ。
ただ、メルキド博士に気に入られれば、他の魔法陣を刻んでもらえて、色々な変わった魔法を使えるようになるらしい。
「あの男、メルキド博士っていうのか」
「あと、もう一つ大事なことがあるの」
【MACOK】は、「魔法陣使い」がいなければ存在できないということ。
「つまり、メルキド博士を殺したら•••」
「そう、その場で自分も含めて全員が死ぬの•••」
「なんてことだ•••」
メルキド博士を倒せないってことは、逃げるのは不可能かもしれない。
でも、何らかの方法があるに違いない。
僕は、その方法が判明するまでは何としても生き残ることを心に決めた。
「リナ、色々教えてくれてありがとう。仲良くしよう」
「そうも言ってられないかもよ」
意味ありげに微笑んだ。
「レオン君、ちょっと来てください」
ついに、僕の番が来た。
「気をつけて!レオン」
「うん」
メルキド博士は、僕を連れて研究室らしきところへと入っていった。
「これからあなたの右手にも魔法陣を刻みます」
「はい」
「おお、いい度胸ですね。怖くはないのですか?」
「怖いです。でも、博士の役に立ちたいのです」
「ほお、いい心がけです。リナに何か吹き込まれましたね」
「いいえ、何も聞いていません」
「まあ、いいでしょう」
そう言って、メルキド博士は、おもむろにレオンの右手を掴んで台の上に置いた。
メルキド博士の手の中には、真っ黒な魔晶石が握られていて、何やら赤い文字がたくさん刻まれていた。
その魔晶石を、レオンの手の甲に強く押し付けながら呪文を唱え始めた。
「ディメンショナル•グリモワール•シギル•アルカン•••」
「この感覚は!」
右手が、深紅に光だすと、激痛がほとばしった。
恐ろしい顔で微笑む、
「ウワー、助けて!」
「いい感じです。続けましょう」
僕は、泣きわめきながら右手を押さえた。
「わー、痛いよ!」
「これで、終了です」
ゆっくり、魔晶石をはずすと、右手の甲にはくっきりと、新な魔法陣が刻まれていた。
「はあ、はあ、はあ、これで終わりですか?」
「いいえ、まだまだ行きますよ」
また、恐ろしい笑顔が近づいてきた。
そう言って発狂したように笑いながら、違う魔晶石を用意すると左腕に押し付け、さらに、右腕にも刻み付けていった。
左右の腕が、血だらけになってあまりの痛さに、もう感覚はなかった。
僕は、血まみれの両腕をだらりと垂らしたまんまさっきの部屋に戻された。
目は虚ろで口は半開きになってヨダレが垂れていた。
「レオン、大丈夫?」
「ああ•••あああ•••」
「ひどいことするわね。一度に三ヶ所も•••」
リナは、眼を輝かせてレオンの魔法陣を食い入るようにじっくり見つめていた。
僕は、その眼に嫌気がさしていた。
以前は、ハーベルが治してくれたからそんなに痛くなかったけど、今回は、治癒魔法どころかポーションすらない。そのお陰で三日三晩痛みに苦しみ続けた。
「レオン、ほら手をきれいにして」
リナが、水魔法とボロボロの布で血を拭き取ってくれた。そして、またあの眼だ•••
「ありがとう•••」
僕は、まだ両腕をあげられないでいた。
まったく力が入らない。
だけど、不思議に魔力が少し増えてるような気がした。
「気のせいか•••」
僕の属性は闇だ。
闇属性の特性スキルは「破壊」だが、もう一つレアスキルで「隠蔽」というものを持っている。
こんなスキル一生使うことはないと思っていた。
「では、みなさんここから出てください。遊戯の時間です」
「遊戯?」
僕ら四人は、大きな部屋へ通された。
「これから、あなたたちはここで•••」
「まさか?」
「共同生活送ってもらいます」
「共同生活?」
何を考えているんだ?てっきり一人になるまで殺しあえとか言われるかと思った。
「でも、よかった。殺しあいとかじゃなくって」
「本当だよ、俺は、マルク」
「私は、カリン」
「僕は、レオン」
「私は、リナよ。ただ共同生活をさせるだけなんてことはないわ。注意した方がいい」
リナは、意味ありげにニヤリとした。
「僕もそう思うよ」
「うん」
とは言え、このまま何もしないわけにもいかない。
僕たちは、周りの状況を確認してみた。大きな部屋の周りには、小さな個室が六部屋とバスルームやトイレも付いている。
アパートみたいな建物らしい。外へも、自由に出入りできる。
「これって、逃げれるんじゃないか?」
「そうよね」
カリンが、嬉しそうにはしゃいでいる。
「いや、罠に決まっている」
「そう、どちらにしても私たち【MACOK】は、メルキド博士の言うなりになるしかないの」
「そうかでも、俺たちはこのチャンスを逃す気はない」
「そうよね」
マルクたちは、食料をその辺にあった鞄に詰めて外へ出ようとした。
「待ちなさい!」
リナが、止めようとした瞬間、マルクとカリンの身体は動かなくなった。
「あれ、動けない」
「嫌、助けて!」
不安でいっぱいのカリンが叫んだ。
「あなたたちは、本当にバカですね」
どこからともなくメルキド博士の声が聞こえてきた。
直接耳に話しかけられている感じだ。
「レオン君とリナ君は、合格です」
「メルキド博士、待ってください。二人はどうなるんですか?」
「決まっています。死んでもらいます。もう、魔力の吸収も限界みたいですしね」
「魔力の吸収量には限界があるんですか?」
「おっと、しゃべり過ぎました」
「レオン、今は•••」
リナが、手で制止した。
「では、実験と行きましょう。マルク君は、風属性ですが土属性の魔法陣。カリン君は、炎属性ですが水属性の魔法陣、それぞれ相反する属性のものを刻みました。存分に戦ってください。ちなみに、生き残った方はこのままここで暮らしてもらいます」
メルキド博士が、そう言うと全員が外へ転移させられた。
「博士、止めてください」
レオンが、必死に頼むが、リナが制止しながら首を横にふった。
「さあ、初めて!」
「初めてって言われて、戦えるわけないだろ!」
「そうよ」
「しょうがないですね。レオン、リナ、あなたたちが二人を殺しなさい!」
「そうすれば、あなたたちの試験をパスにしましょう」
レオンとリナが、眼で合図をした。
それは、一瞬だった。
「レオン、よくやりました!」
永遠にも似た、一瞬の出来事だった。
マルクの心臓を、レオンの右腕の剣が貫いていた。
「僕は、人を殺してしまった•••」
マルクの血が。剣を伝ってレオンの手を赤く染めた。
「でも、意外と大したことないね•••」
リナが、ニヤリとした。
カリンの首には、リナの縄がかけられて、締め付けられていた。
「く•••ぐるし•••苦しい•••」
リナは、一気に絞めるとカリンは足をバタつかせて、白目を向いて息耐えた。
一瞬、でも、一生忘れることのできない経験だった。
「なるほど、やりますね!」
メルキド博士は、満足そうに手を叩いた。
マルクとカリンは、その場で倒れ込んだ。
二人の腕の中で•••
レオンの、右腕には金属魔法陣、左腕には、岩石魔法陣が刻まれていた。レオンは、もともと闇属性のため、「分解」スキルで、両腕の形状を自由自在にコントロールできる。
さらに、右手の甲には、空間魔法陣が、刻まれていたので、目に見える範囲なら一瞬で移動が可能だ。
実際は、情報さえあれば遠く離れた国にも移動が可能だったが、この時点ではまだ知らされていなかった。
リナの右足には高速魔法陣、そして、右手の甲には、締縄魔法陣が刻まれていた。
縄を自由に作り出して、高速移動で、相手を縛り上げたり、絞め殺したりすることができる。
「もう、戻れない•••」
これまでの理想の生活を思い出して、レオンの目にはうっすら涙が滲んだ。
袖で涙をぬぐいとると、
「ハーベル、ごめん•••」
と言って、両手の魔法陣をまじまじと見つめていた。
その後、メルキド博士は、偽装魔法陣によって、レオンとリナの死体を作り上げ、中等部と高等部に放置してきた。
魔法警察には、解明できるはずもなく、マルクとカリンは、失踪扱いのままだった。
こうして、レオンとリナは、メルキド博士の助手として働くことになった。
次回 【Shadowstrike and Luminary Vendetta】