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優しいハッピーエンド集

作者: 長閑

笑わないお姫様と道化師



手紙が飛び交い、馬が馬車を引いていた時代。

ある国に一人のお姫様がいました。


そのお姫様は、美しく聡明そして、数えきれないほどの光り輝く宝石と素敵なドレスを沢山持っていて、住んでいるお城は誰もが羨む美しく立派なお城でした。


だけどそんなお姫様に結婚を申し込む声はありません。


なぜなら変わり者だと社交界で知られているからです。


お姫様はもう何年も笑ったことがないのです。


どんなに面白い話を聞いても、どんなに美しい花を見ても

お姫様の表情は仮面でも被っているかのように少しも変わりません。


だから美しい金色の髪を、夜空を写したような瞳を、新雪のような白い肌を持とうと笑わないお姫様の側にいたがる人は一人もいませんでした。


その美しい姿も相まって人々にはにこりともしないお姫様の姿が恐ろしく映っていたのです。


そんなお姫様の元に一人の道化師がやってきました。


「きっとあなたを笑顔にして見せましょう」


そう白塗りの化粧を施した道化師はお姫様の前で色々な芸をしました。


道化師が芸をするたびお姫様の御付きの人々はわぁっと声をあげますが、肝心のお姫様はただ静かに道化師を見つめていました。


何回何十回と芸を披露する道化師の白塗りの化粧は汗で崩れ、息も上がりついにはお姫様を笑わせる前に膝に手をつきました。


だけど道化師は笑ってお姫様に言いました。


「また、明日も来ます。今度はもっと面白い芸を披露いたしましょう」


そう笑う道化師の頬から垂れる白い汗は美しいお城にポタリと垂れました。


だけどお姫様は静かに頷くだけで何も言いませんでした。


その日からその道化師は来る日も来る日もお姫様の元に訪れて芸を披露しました。


最初は面白がって見に来ていたお姫様の御付きの人々も毎日のようにくる道化師にすっかり飽きてしまい、道化師のお客さんはただ静かに自分を見るお姫様だけです。


だけど道化師はそんなお姫様の前で楽しそうに芸を披露します。


汗だくになりながら、息を上らせながら芸をするその姿にお姫様は思わず言葉をかけました。


「どうして毎日来てくれるんですか」


フルートの音色のような美しい声が道化師に投げかけられます。


道化師は目を丸くした後汗を拭いながらまた笑いました。


「私の夢は私の芸で世界中の人々を笑顔にすることです。だけどそれは叶わない夢です。だからせめてあなたを笑わせたい。」


その言葉の意味がお姫様には分かりませんでした。


道化師であるあなたはきっとどこまでも行きたい場所に行けるはずだと。


沢山の宝石とドレス美しい城に囲まれて身動きもできない自分とは違いどこまでもいけるでしょう?と。


その時お姫様は初めて自分が不自由であることに気がつきました。


美しい容姿に、宝石もドレスも山のように持ち。立派なお城に住んでいても、やりたいことをする。行きたい場所に行くそういう自由は自分にはないのだと。


ポタリとお姫様の足元に涙が落ちました。


お姫様は自分が笑えない理由を知ったのです。


お姫様は涙を拭って道化師の元へ歩いてゆきました。


「それなら、私と一緒に世界中を回りましょう。」


震える声で語り、震える手で道化師の手に触れました。


道化師はその手に躊躇いながらもしっかりと重ね、その手を取りました。


お姫様のお父さんである王様にとってはきっと許し難いことでしょう。


お姫様の国の国民にとってはとても悲しいことでしょう。


だけどお姫様は城を出て、国を出てようやく笑うことができました。



その日ある国からお姫様がそしてある国からは王子様が消えました。


二人は気の向くままに旅をし、時に飢えることも辛いこともありましたが幸せに一生を過ごしました。





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