六話 魔王とは?
マリアの目の前には、豪華な食事が並んでいた。
しかも、どれも人間の料理に見える。
運んで来たのは、アグノスの召使い達のようだが、皆一様に笑顔で、アグノスから積極的に話しかけている。
「あっ、俺が好きな料理! 憶えててくれたんだ! 嬉しい!」
召使いも、はにかみながらも「アグノス様の食べっぷりが良かったから」と笑って答えていた。
「ありがとな!」
その時嬉しそうな召使いの顔が、マリアの想像をまたもや打ち壊す。
(魔王が恐ろしい存在なんて、一体誰が言い始めたことなのかしら……? いや、そもそも彼が稀な存在なのよね、きっと)
コトンッ、とマリアの前にもスープが置かれた。
置いたのは、さっきリリィと呼ばれていた少女だ。
彼女は目を吊り上げ、マリアを見ていた。
「いい? アグノスが客だって言うから、あんたのも用意してあげたんだからね」
マリアは「はいはい」と言いたい気持ちをぐっと堪え、「ありがと」とだけ無感情に言って、アグノスに視線を戻した。彼は相変わらず召使い達と話していた。
「ねぇねぇ、これって今人間達の間で流行ってんの?」
「はい、このソースをかけると味が変わるらしいですよ?」
「へぇ! すっげぇ! んっ、ソースだけでもうっま!」
「これっ、アグノス様。お行儀が悪い」
アグノスの右に立ち、まるで孫を叱るような口振りの老人は、先ほどソフォス・アレと自ら名乗った。
『失礼しました、お客人。私はアグノス様の世話役のソフォス・アレと申します』
魔族が人間に対して攻撃的な言動でなく、ただの挨拶のように名乗る姿をマリアは初めて見た。
ソフォスは小さく溜息を吐いた。
「マリア様が見てらっしゃいますぞ。もう少しこの城の主として振舞ってくださいませ」
「あ……」
見ていたことに気付かれたマリアも、そしてアグノスも、恥ずかしくなって俯いた。
ソフォスと召使い達は苦笑した。
リリィだけがイライラとした表情で、そんな周りを睨んでいた。
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