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五話 契約の真実2

「この山脈では、珍しい鉱石が採れるんだって。メルクーリはそれを求めて、何十人と仲間を引き連れて山に入ってきたんだ」


 ここまでは町でメルクーリに聞いた話と合っている。


「俺もその日、兄ちゃんと幻獣狩りしてて、迷子になっちゃってさ……」

「ちょっと待って。この周辺ってあなたの敷地、だよね?」

「俺、方向音痴なんだもん」

「知らないわよ! ま、まあ、いいわ。続けて」


 いちいちツッコミを入れていたら進まない。

 マリアの促しに、アグノスはまた口を開く。


「山の中を歩いていたメルクーリ達と偶然出会っちゃったんだ。俺が道を聞こうと思ったら、なんか向こうはやたらと喚いたり、悲鳴を上げたりして……」


 人間からしたら、いきなり周辺を支配している魔王が現れたら、制裁のためにやってきたと混乱を極めるだろう。

 自分の敷地内で迷子になるというポンコツ魔王だとしても、だ。


「剣は向けられるし、矢を放たれるしで俺もオロオロしちゃって、どうにか落ち着かせようと話しかけたけど、ますます怯えるし」

「ちなみに、なんて言って落ち着かせようとしたの?」

「えっ? 放たれる矢を炎でこんな風に打ち落として、『落ち着け、無力な人間ども』って」

「そりゃ落ち着かないわよ!」


 当時の恰好と声音をそのまま再現するアグノスに、マリアは呆れた。

 威圧感のある声の魔王が、赤々とした炎で簡単に矢を焼き払えば、恐怖でしかない。

 また話が進まない。

 マリアは目頭を押さえて、再度続きを促す。


「落ち着かないからどうしようって思ってたら、メルクーリが前に出てきて、俺に頭を下げてきたんだ。で、『あなたを崇めるから、我々の命とこの山の下にできた村を助けてほしい』と」


 アグノスにはそんなつもりはなかったのだろうが、無力な人間にできる交渉はそれだけだっただろう。


「それで、あなたも契約に応じた」

「落ち着いてもらうにはそれが一番だったし」

「で、町の女性を一人生贄にして、山へ入る権利も与えた」


 契約内容を告げるマリアに、アグノスは怒られた子どものように視線を泳がせながら、小さく頷いた。


「形式だけで良いとも思ってたし」


(いや、だからその顔しないで……)


 まるで叱られた大きな子ども。

 立派な角が、大きな耳にも見えて、それがしょんぼりと下に向いているように錯覚する。

 が、また赤い瞳をキラキラとさせ、アグノスがマリアの右手を取った。


「でっ、でも! さっき言ったけどさ、殺してないから!」

「じゃあ、生贄としてここに来た女性達はどこに行ったのよ⁉」

「それは……!」


 マリアの詰問にアグノスが口を開いた時だ。


「ちょっとアグノス! まだ終わらないの?」

「これっ、リリィ! 待たんか!」

「みんな待ってるわよ!」


 勢い良く広間の扉が開き、明るい茶色の巻き毛を肩まで伸ばした少女と、その後ろから真っ白な眉と髭を長く伸ばした小柄な老人が入ってきた。少女は人間のようだが、老人の額からは一本角が生えている。


(あのおじいさん、只者じゃ……)


「ああぁ!」


 マリアの思考を少女の良く通る叫びが遮った。


「なんで手を繋いでんのよ⁉」


 ビシッと指を刺されて、マリアはハッとする。

 自然と手を取られたから気にしていなかったが、確かにこの状況は冷静に見れば――


「さては、あなた! わたしのアグノスをたぶらかしに来たのね!」

「……はい?」


 ここでは、人間界の常識が通じないのかもしれない。

 マリアは、目の前にいるアグノスを見据えると、彼は少しだけ頬を赤らめているだけで、手を離そうとはしなかった。

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