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五話 契約の真実1

 一週間の記憶を思い起こしていたマリアの視界を、巨大な剣が振り下ろされる。


「きゃっ⁉」

「あっ、悪い!」


 先ほどまでは威圧感のあった低音の声は、同じ音質で親しみが込められていた。


「これもさ、兄ちゃんがくれたんだ! 良い剣だろ?」

「うんうん」


 マリアは苦笑しながらも、微笑ましくも思っていた。

 気付いたら、魔王アグノスの兄からもらった宝物自慢となっていた。


(確かに、この椅子の座り心地は最高だけど、あたしが座っていいの?)


 ひょいと持ち上げられたマリアは、邪魔だと思っていた王座にひょいと座らされ、まさかの特等席で嬉しそうに話し続けるアグノスをずっと眺めていた。

 魔力の込められた宝石の装飾品、一緒に獲ったという幻獣の毛皮で作られたマント、ヴァロータ山脈の鉱石で作られた盾――どれも兄が弟に譲り、魔王一族が所有する山脈からの恩恵だ。


「俺達が受け継いだんだ。この山のすべてを」


 自身の宝を一つひとつ見詰めるアグノスの穏やかな表情の中に、威厳のある王のそれが不意に見える。

 マリアは、すぐさま身構えた。


(ちょっとあたし! 何安心してんの⁉ こいつは魔王なのよ!)


 が、アグノスの行動はまたしても速かった。


「だから!」

「ッ……⁉」


 ぐっと肩を押さえつけられ、腰を浮かしかけたマリアは再度ふかふかの玉座へと沈む。

 整った顔立ちに光る赤い瞳と、マリアの青い瞳がぶつかる。


「だから……それを奪いに来たあたしを、殺す?」


 恐ろしいことを口にしているのに、マリアは自身が冷静、いや寧ろ別の高鳴りを感じていることを気付かない振りをした。


「え? 殺すって?」


 マリアからそんな言葉を聞くとは思わなかったと言わんばかりに、アグノスは目を見開いた。


「なんで?」

「いや……なんでって……」

「俺達は、今までもここに来た人間を殺したりはしてない」

「……へ?」


 呆気に取られているマリアに、アグノスは見開いていた赤い目をゆっくりと閉じた。


「マリアも、あの男の言葉を信じたのか」


 魔王の赤い瞳が見えなくても、同色の髪が、マリアの視界を染めていくようだった。

 振り下ろされた剣で断ち切られたかのような一週間前の記憶が、またゆらりと戻ってくる。

 穏やかな黒い瞳。町を思う言葉と柔和な表情――しかし、その陰には何かが隠れているような気がしていた。


「メルクーリ……」


 微かな溜息が聞こえた。


「ほんっっっと自分の都合の良いようにしか話さねぇんだから、あいつ!」


 重々しい雰囲気になるかと思いきや、拗ねたような低音の声音が広間に響いた。


「は?」

「もう! 聞いてよ、マリア! 『魔の契約』のことも聞いてると思うけど、別に俺はそんな契約したくなかったんだよ?」

「え……えっ?」


 また聞いていた話と違う。

 困惑するマリアに、腕組みをして頬を膨らませたアグノスが話し始める。

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